第3話 提案
ルノを連れてグループの寝床に戻る。そこにはすでに他のメンバーはそろっていた。
「おい、誰を連れてきたんだ!」
最初に気が付いたカラルが声を張り上げた。その声を聞いて他のメンバーも俺とルノの存在に気が付いたようだ。見たことのない少女の存在に警戒をして、それぞれが武器を構えだした。
「おいレゼ。そいつは誰だ。どうして俺たちの寝床に勝手に連れてきているんだ」
「私はルノ。今日はあなたたちに頼みたいことがあってきたの」
「そうなんだ。ルノに連れてきてほしいと頼まれて……」
「頼まれたら、のこのこと連れてくるのか!」
確かに少し警戒が足りなかったかもしれない。言われて初めて気が付いた。いつもならこんなことは絶対にしなかっただろう。自分の行動に自分で驚いている。
「あまり彼を怒らないで上げてください。それに私の頼み事はあなた方にとっても利のあることなんです」
「だから何だ。ここは俺たちの場所だぞ」
「そうだ。それにそいつの服。見るからにまともな奴の物だ。そんな奴がこんな肥溜めに来て……俺たちを利用しに来たに決まってる」
「まて。彼女は【赤】の
スラムに住んでいる子供にとって、大通りでまともに育っている子は皆敵なのだろう。過剰な反応だ。さすがにまずいと思い至装のことを明かした。特にクリファは自分も持っている分その危険性は十分に理解してくれるだろう。
「【赤】だと……レゼ、てめえよくも余計なものを連れてきやがったな」
「……」
何も言えない。今になって俺もまずいことしたという意識が浮かび上がってきた。
「落ち着いて、まずは私の話を聞いてください」
「……いいぜ。話してみろよ」
「今回はあなたたちに協力してもらいたくて来たんです。私はこの街にあるダンジョンに侵入する方法を見つけました」
「侵入だと」
「はい。正規の手段ではなく横穴を使いダンジョンに侵入するんです」
ダンジョンへの侵入。本当だとすればそれは重罪だ。ダンジョンは探索者ギルドが管理している。探索者ギルドでは所属することでダンジョンに潜る権利を得られる代わりに、会費やノルマが課せられる。
これからやろうとすることは間違いなく探索者ギルドの怒りを買う。ばれたら死罪すらありうる。まあ、この世界は少々倫理観が緩いところがあるから死罪になることはよくある。
「……それは本当なのか」
「クリファ!」
「俺だってわかってる。ギルドに属さない奴がダンジョンに入るのは重罪だ。だが、それを差し引いても利益は出るはずだ」
誘惑に負けつつあるクリファにカラルが止めに入る。クリファは理解していると言うが果たしてそれはどうだろうか。実際、スラム暮らしの彼らの見ている世界は狭いと言わざる得ない。
都合のいい部分ばかり見ている。15歳になって探索者になればこんな生活とおさらばして、金持ちになれると本気で信じているようなやつらなのだ。
探索者の中には振るわず、堕落している失敗者のようなやつはありふれている。そういう世界なのだ。前世のぬるま湯のような世界を知っているからこそ命の危険を冒してなお、大勢が堕ちていく状況に嫌な思いがする。
「本当です。ただこれはまだ誰にも言っていないことです。できるだけメンバーは少なくして一人一人の利益を大きくしたい」
「それで俺たちか」
「はい。特にクリファさんは将来有望だという話を耳にしました。ですのでこちらから接触させていただきました」
クリファが将来有望? だんだんと、このルノという少女に対する疑惑が強くなってくる。そんな話があるわけがない。だって俺たちはただのスラムのガキなんだから。
俺がルノを観察していると彼女と目が合った。その目は笑っているように見えた。
「こちらをどうぞ」
ルノは一つの腕輪を取り出しクリファに渡した。
「【白】の至装です」
「【白】だって!」
今クリファが持っているものは【黒】。それでも彼はこのグループのリーダーになれたのだ。それよりも上のランクの物をこんなにもポイっと渡された彼は何を考えているのだろうか。
周りにいる連中はそれを羨ましそうに見ている。
「わかった。協力しよう」
「クリファ!」
「リーダーは俺だ。カラル。考えてみろよ。どうせ来年になったら俺たちは探索者になるんだ。それがちょっと早くなっちまっただけだろ」
「そうだけど」
「僕は賛成だな。ダンジョン行ってもっとうまいもの食べたいよ」
「俺も俺も」
「一攫千金しようぜ」
残りの3人は賛成なようだ。一人になったカラルはしぶしぶ認めるしかない。ちなみに俺の意見は誰も聞いてこない。
もしダンジョンに入っていくならば、俺が警戒しなければいけないことはいくつもある。
まず、ダンジョンに出る魔物。それからルノという得体のしれない少女。最後に仲間の裏切り。
もしもダンジョン内で危険にあったら真っ先に切り捨てられるのは俺だろう。囮にされることも考えられる。
ついていかないという選択肢はない。もし彼らがダンジョン内で死んでしまってもだめだし、生き残ってもついていかなかった俺の今後の生活は大変なことになるだろう。
ルノは一度帰ることになった。横穴の場所は明日教えることになっている。
「ちょっろ」
「えっ」
帰ってくルノから小声で聞こえてきた。俺にだけ聞こえたのは偶然なのかそれとも……。
最後に見たルノの顔には嫌な笑みが浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます