第2話 出会い
13歳になっても俺はいまだにスラムに住み着いていた。この街にも一応孤児院という物はある。あるにはあるのだが、定員はいつもオーバーしてしまっているのが現状だ。
ここはダンジョン都市だ。そのためダンジョンに潜り死んでしまう者も相応に多い。残された子供は自然と孤児になるのだ。それでもダンジョンに入る探索者の数は減らない。それはダンジョンにはそれだけの価値があるからだ。
ダンジョンに入る目的の中で特に重要視されるのは
この至装を求めて探索者たちはダンジョンへと向かうのだ。ただ、ダンジョンに入るためには探索者ギルドに入らなければならず、そのギルドもこの国では15歳以上でないと入ることができない。よって俺はいまだにスラム暮らしをすることになってしまっている。
「この、のろまが! お前のせいで危なかったじゃねえか」
「ごめん」
俺の所属しているスラムのグループのリーダーであるクリファは俺のことを嫌っている。その理由は知らない。
今回の盗みも後少しのところで捕まってしまうところだったのは事実だが、決して俺のせいではない。
それでもクリファは俺のせいにしてくるし、他のメンバーはそんなクリファの様子を見て俺のことを舐めてくる。そして俺は黙って怒られたままだ。クリファに暴力を振るわれたとしても反抗はしない。
もしこのグループを追い出されてしまえばそれこそ生きていくのは難しくなってしまうからだ。生き残るのが最優先。それが俺の行動指針である。あの空間で味わった苦しみは今も頭にこびりついて離れない。もう2度とあんな思いはしたくなかった。
「今回の取り分を分けるぞ。カラル。トコル。フラント。ジェリス……それからレゼもだ」
「ありがと」
盗んだ食料をクリファが配分していく。今回盗んだのはパンだけだったが、明らかに俺の取り分は少ない。これでは腹がすいて仕方がないため、結局残飯をあさりに行くことになる。
俺たちは6人のグループだ。年上の連中はすでに探索者になれる年齢になってグループを抜けた。不義理な奴らで、世話になった共同体であるこのグループに再び現れることは今のところない。
まあ、もしかしたらもう死んでしまっているだけかもしれないが。
食料の配分が終われば一時解散になる。寝床の位置は決まっているため基本はそのあたりに溜まるのだが、俺はそこにいるとちょっかいをかけられてしまうので単独行動を好んでいた。
1人になった後、俺は大通りの方にある食事処の残飯をあさっていた。盗みはリスクを伴う。その上で6人で分けなければいけないことから、やはり一人一人の取り分が少なくなってしまうのはしょうがないものなのだろう。それに俺はその中でもとりわけ少なくされてしまっているのだ。
クリファがグループ内でリーダーになれたのは至装のおかげである。彼の親が彼に与えたらしい【黒】の至装。黒というのは至装のにランクのことだ。下から順に黒、白、黄、赤、青、紫となっていく。由来は良く知らない。
何かの能力があるわけでもない低級なそれでも孤児にとってはお宝だ。
力にEの補正が入るその短剣を持っていることでクリファは年長者のいなくなったグループでリーダーとして君臨しているのだ。
今の俺は13歳。あと2年のうちに【紫】の至装を手に入れられることができるはずだ。なのでそれまでの辛抱だと自分に言い聞かす。
「おなかすいたなあ」
「これ食べる?」
今日はいい感じの残飯が見つからなかった。ひもじさから思わずつぶやいた言葉には返答があった。横を見ると、紫色の髪を腰ほどまで伸ばした少女がいた。目はくりくりとした赤目でかわいらしくも強い意志を感じさせた。彼女からは甘い匂いがしてくる。
その手にはリンゴがあり俺の方に差し出している。
「いいの」
「うん。私はもういらないから。ところで君はこの辺に住んでるの?」
「そうだよ。もちろんもうちょっと向こうの方だけどね」
残飯をあさるために少し大通りの方に近づいていたので、横道の奥の方を指さしながら自分がスラムの人間だと説明した。
少女の着ている服は清潔なもので、自分の着ているものとの差でみじめに感じてしまう。ボロボロになったこの服はゴミとして捨ててあったものを拾ったものだった。
洗ったりもしていないために匂いもすごいのだろう。慣れてしまった俺には何も感じはしない。
「私はルノ。君の名前も教えてもらえるかな」
「俺はレゼだよ。よろしくね」
思わず握手のために手を出してしまった。そこには汚い自分の手があって急いでひっこめようとする。が、その前にルノがその前に俺の手を掴んできた。
「よろしくね。そうだ、よかったら君の仲間にも私のことを紹介してもらいたいんだけど」
いいかなと顔を傾けながら言う姿にドキッとしてしまう。でもどうだろうか。とてもスラムと縁のあるような人には見えない。関わらしてはいけないような人な気がする。
「いやでも、君のような子は関わらない方がいいと思うんだけど」
「大丈夫だよ。私、ちょっと君たちに頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいことって?」
「それはみんなのところに行ってからね」
ルノは俺の手を引いて横道の奥へ進んでいこうとしている。どうしよう。こんな格好でいればいい獲物だと思われてしまうだろう。
「そのままは危険だよ。スラムには危ない奴だって多いんだ」
「大丈夫。私にはこれがあるから」
腰から短剣を取り出した。自信ありげということは至装ということだろうか。
「ランクは?」
「【赤】」
高い。至装のランクはその至装における最大補正値にかかわる。つまり【赤】の至装は何らかの補正にBが入るのだ。
クリファの持っていたものが【黒】で最低。それでもスラムで生きる者にとっては特別になりえるものだ。
補正が何に振られているのかはわからないが確かにスラムの浅いところならこれでも安全だろう。
安心した俺はルノの手を引いてグループの寝床まで案内することにした。
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