備えて、休んで、戦って。
蛸賊
第1話 転生
ここはどこだろうか。周りに広がる景色は白一色で、俺はそれを360度見渡すことができている。これはどうしてだろう。
「あなたたちには今から異なる世界に転生してもらいます」
突然声が響いてきた。男性的とも女性的にも聞こえる不思議な声だ。その声に何か反応しようとしても俺は声を出すことはできなくなっていた。というか、体を動かすこともできない。
「ここには総勢1000人の人間がいます。あなたたちはこれより異なる世界に行き、最も生き残れるのは誰かということを競ってもらうことになります」
競う? なぜ俺がそんなことをしなければいけないんだろうか。異なる世界とはどういうことなのか。質問できないというのはストレスがたまる。
突然。言い表せないほどの苦しみが俺を襲った。もし言葉を話すことができたなら発狂してしまいそうなもので、今もなぜ意識を保つことができているのかわからない。
「脱落してしまったものは今の苦しみを永遠に味わってもらうことになります」
耐えられるわけがない。あの苦しみを永遠なんて耐えられるわけがない。これから先は決して死んではいけないという事実が俺には刻み込まれた。
目の前にはサイコロが現れた。
「異なる世界に飛ぶことになるあなたたちに少しのプレゼントがあります。一つ目は今、あなた達の前にあるサイコロ。それを振って出た目に応じた出自をあなたたちにプレゼントします。自らの運でぜひ特別な出自を掴みとってください」
サイコロがあるが一体どうやって振れというのか。この体は俺の意思では動かすことはできない。動け! と念じてみれば体ではなくサイコロの方が動いてしまった。
『2』
出た数字は2であった。これはどうなんだ。どの数字がどのような出自になるのかの説明はされていない。ただ、小さい数字ということに不安は感じてしまう。
「もう一つは所謂、転生特典という物です。あなた方が行く世界には
説明はそれだけだった。俺の意識はそのまま消えていく。
「それではあなた方の今後に幸があらんことを」
消えゆく意識の端で声が聞こえる。幸を取り上げようとしているのはお前ではないのか。そんな悪態はやはり口に出すことはできなかった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
俺としての意識が現れたのは、6歳にになった頃だった。生まれてから自我の獲得と共に変な記憶が俺の中に存在しているのはわかっていたが、最近になってやっとそれが自分の物だという風に思うことができるようになったのだ。
今の俺はスラム街で暮らしている。両親の記憶は薄い。確か今よりももっと幼い時は一緒に住んでいた気がするが、捨てられてしまった。知らない記憶を持つ子供というのが気持ち悪かったのかもしれない。
「おいレゼ。はやくしろよ」
「うん。ごめんね」
レゼとは俺の名前だ。スラム街での子供は数人のグループになって行動する。そうして弱いながらにも生きていこうとするのだ。
只、人間は弱者であるということに耐えれないらしい。スラムの子供の中でもカーストのようなものがつくられる。俺はその最下層。グループのリーダーに目をつけられたためだ。
何をされても俺は下手に出る。どんなに嫌なことでもあの空間で感じた苦しみよりもましだ。死ぬわけにはいかない。生き残るために今は耐えるときだということを自分に言い聞かせる。
そうして俺は13歳になった。未だにスラムの最下層である。
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