第11話 堕ちていく

 自分をめぐって二人の男が競い合うという状況。なかなか悪く無い気分で微笑む綾乃が口を開く。


「ところでこの後なんだけど、涼ちゃんに質問です」


「はい、なんでしょう」


「3人で……できそう?」


「……それって、そういうことを3人でってことですよね……?」


「そういうこと」


 涼介の表情から察した亮介が助け舟を出す。


「いや、ちょっと厳しいんじゃないかな。だって、やっぱり綾乃を介したとしても俺と間接キスとか抵抗あるんじゃないかな」


「やっぱりそうだよね……」


「すみません、ちょっと自分にはまだそういうことはできないです……」


 涼介は申し訳なさそうに頭を下げる。


「いやいや、こんなのできない人の方が普通だから大丈夫だよ。こちらこそごめんね」


「逆に……さ、涼ちゃんのしてみたいことってある?」


「してみたいことですか? うーん……。してみたいことっていうか……」


「ていうか?」


「今日、ちょっとわかったことがあったんです」


「今日?」


「昼、綾乃さんの両手を握って動けなくさせたでしょう?」


「亮介と二人で襲われた時のね」


「はい。あれで……あれで、目覚めたというか、あの亮介さんにも見せてもらった道具とか……」

 

「まさか涼ちゃん……」


「はい。これって僕はSってことなんでしょうか」


「うん。Sにもいろいろあるみたいだけどね」


「亮介……ちゃん、涼ちゃんにいろいろ教えてもらえないかしら?」


 口調はお姉さん風だが、少しカタくも見える綾乃の笑顔。夕食前の挑発プレイの時にあった余裕は感じられない。



 

 亮介は穏やかな微笑みをたたえながら綾乃に頷いた。

 

 (よっぽど面白いことになるかもしれないな……)


 

 ◆




 縄、拘束具、手枷足枷てかせあしかせ、アイマスク、首輪……リビングに並べられたグッズ。バイブや電マ、ローション等も揃っているところからするとおよそ普段の夫婦生活の一端がうかがいい知れようというものだ。


「俺もまだ学びの途中だけど、知ってることは全部教えるね」


 縄を手に取り淡々と語る亮介のそば、手品のアシスタントのように綾乃が立っている。全裸でいる点が普通の助手と違うのだが。


(どこが違うのかわからないが、綾乃さんがなんだか別の人に見える……)


 涼介が圧倒されたのは壮観とも言える道具の品揃えではなく、初めて見る綾乃のだった。お姉さんプレイよろしく、リード上手な大人の女。筆下ろしの時からそうだ。

 

 それが今、目の前にいるのは従順そのものの淑やかでか弱い女性。

 

 文字通り主人である亮介を見つめる潤んだ瞳。いつもより細く見えるのは泣き顔に近いからだろうか。

 眉頭から眉尻にかけての傾斜もなかなかなもので、これ以上ハの字になると眉間の皺が深く刻まれそうだ。


「あんっ!」


 亮介がをかけ、綾乃がく。


「もうこんなになっちゃって……。欲しがり過ぎだよ、全く」


 呆れたような調子でゆっくりと亮介が綾乃を責める。(うぅ……)とかぶりを振る綾乃。両腿を密着させ膝同士を擦り付けてモジモジしているのがいじらしい。


 縄を結んでできた直径20cmほどの輪が綾乃の首にかかってからものの3分程度だろうか、あっという間に菱縄縛ひしなわしばりが完成する。

 

 縄先が肌の上を走るたび、徐々にその目つきが堕ちていくのがわかった。

 媚を売るような、せがむような――。

 


(パシッ――)


 いきなり亮介が綾乃の尻を叩く。


「きゃっ!」


「涼ちゃんにじっくり見てもらおうか、綾乃のだらしない姿」


「いやいや! 見ないで……見ない……で……」


 うなだれた綾乃の表情は髪でよく見えないが、半べそをかいたような声。後に回った亮介がダメ押しのネクタイでの手首拘束を終えると、下半身以外に綾乃の自由は消滅した。

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