第10話 愛する人をかけて
「大切にします。よろしくお願いします!」
「こちらこそ。よろしくね。お腹へったでしょう、たくさん食べてね」
やっと涼介の表情が
「いただきます!」
「じゃ、ここからが本題だね。まず綾乃に聞きたいんだけど、涼ちゃんのどんなところに惹かれたの?」
満を持して亮介の質問コーナーが始まる。既に問うたこともあえてもう一度聞くのは彼の反応を見たいからだ。
「かわいいんだよね、いろいろ。背も高くて……優しくて穏やかだし」
「でも、今まで綾乃を抱いた人の中には他にもそんなタイプはいたわけだよね。あ、涼ちゃん聞いてるかわかんないけど、俺ら夫婦って寝取られの時に綾乃を抱くのは誰でもいいってわけじゃなくて、綾乃の好みとかドキドキするような人にお願いしてるんだよね」
綾乃が続ける。
「そうなの。だから素敵な人たちに可愛がってもらってきたんだけど、涼ちゃんに対するあたしの態度とかがその人たちと違うって亮介に言われてね。もちろん自覚はあるけど、そんなにバレバレだったんだってちょっと照れちゃった」
「僕も聞きたいです、それ。他の人たちと比べたら僕なんて経験全然無いし、下手だし……」
「……そういうことじゃない気がするの」
亮介と涼介の視線が綾乃に集中する。
「あのね、まず、涼ちゃんがあたしに向けてくれる気持ち、ね。恋愛感情というか、ただエッチしたいだけとかじゃなくてあたしを女として真剣に見てくれているのがよくわかるの。すごく嬉しかったし、抱かれてもいいって思った」
「でも、亮介さんという愛してくれる旦那さんがいるじゃないですか」
夫の手を握りながら綾乃が答える。
「うんもちろん! だから結婚したんだもん。こんなにあたしを愛してくれた人はいないんだもん。あたしも亮介のことすごく愛してる」
「ありがとう、綾乃。でも、涼ちゃんのことも本気なんだよね……?」
「……そうみたい」
聞いた瞬間、亮介は
「あぁ……」
「亮介さん……大丈夫ですか?」
びっくりした涼介が思わず声をかける。
「いいの。すごく喜んでるのよ、これでも」
「え? ええ〜!」
綾乃から聞いてはいたものの、寝取られの良さや概念がいまいちピンときていない涼介にとって、この状況は不可解そのものだった。
「そうなんだ。こう見えても俺今すごく興奮してて嬉しいんだよね。本当は、大好きな綾乃が他の男に抱かれるのなんて耐えられない。ましてや、心まで奪われるなんて絶対にあっちゃいけない。はっきり言って悪夢だよ」
「じゃ、どうして……?」
「ほんと、どうしてだろうね(笑)」
「ちょっと違う話するけど、実は綾乃は俺の親友の奥さんだったんだ」
「えっ!? 嘘でしょ!?」
「ほんとだよ。あたしの前の旦那さんが寝取られしたいって言い出して……」
「そう。そして綾乃は俺に寝取られて再婚してしまった」
「ちょっと、
笑いながら綾乃がツッコミを入れる。亮介はゆっくり丁寧に、少しずつ思い出しながらこれまでの二人の
最初に綾乃を抱いた時のシチュエーションについて。
以前から綾乃に気があった亮介の気持ち。
元夫一樹との3人の暮らし。
別れの理由。
亮介との結婚と今に至るまで。
「気付いたと思うけど、3人の暮らしの時の俺と今の涼ちゃんの立場って似てるよね」
「はい、そうだと思いました」
「2日連続で綾乃を独占しないってルール、その時に作ったやつなんだ」
「まさかあのルールが復活するなんてね」
綾乃が亮介に目を合わせていたずらっぽく笑った。
「あの……じゃ、僕も亮介さんのように綾乃さんを……綾乃さんと……け……結婚……とかでき」
「綾乃次第だね。だから俺絶対に負けない。涼ちゃんのことは好きでいてもらって構わない。でも、今よりもっともっと綾乃を大切にして俺のことをもっと好きになってもらうんだ」
さっきまでとは違う亮介の表情と声。
綾乃の頬が少し赤らんでいる。
いよいよ言葉を失ってしまった涼介に、亮介が優しく声をかける。
「だから、涼ちゃんも遠慮なく綾乃と愛し合ってくれ。愛する人をかけて正々堂々と戦おう」
「戦うは違うんじゃない、ちょっと酔っ払ってる?」
綾乃のツッコミに亮介が吹き出して言う。
「違うね、『戦おう』はちょっと違うね。あはは」
急に情けない声になった亮介を見て、涼介も笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます