第8話 余韻に浸る間も無く

 たしかに綾乃は


 

「まだ終わっちゃ嫌よ……涼ちゃん」


「でも、もう気持ち良すぎて……ぁあ」


「仕方ないわね。じゃ、あなたが腰掛けてみて」


 綾乃は対面座位の姿勢で涼介に向き合う。軽くキスをしたら左を向き、亮介を一瞥する。


「見せつけてあげよ? 涼ちゃんとあたしが仲良くしてるところ……」


 上から涼介の顔を胸に押し当てながら妖しく舞う綾乃。


「あぁ、綾乃さん……もっと気持ちよくなっちゃい……ました」


「そうだよね……歳上のお姉さんに遊ばれてるんだもんね」

 

「あ……もう、だめです……もうだめです……あぁ、綾乃……さ……ん……」


「ぁあ、涼ちゃん……あたしもよ……」



 

 ほぼ同時に動きを止め、しがみついたままの二人。


 涼介はクレバスから抜け落ち、白く柔らかなつららが追いかける。


 

 ここからは余韻を――。


 

 そんなことが綾乃たちの頭をもたげたのかどうか。綾乃がソファーから立ちあがろうとしたその刹那、夫の亮介にがんじがらめにされて、床のカーペットに押し倒され、動けない。


「綾乃! お前は俺の女、忘れんなよ! 愛してる! 俺が一番愛してるから! 誰にも絶対負けないんだ!」


 人前で泣きたくないというのが男心だとしたら、この時の亮介はそれをどこかに置き忘れていたのだった。

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