第7話 挑発

 オーブンの予熱が終わり、天板にモモ肉を置きドアを閉める。あと4〜50分後にはローストビーフが完成する手筈だ。2本目のビールを飲もうかと冷蔵庫を開けたところに綾乃と涼介が戻ってきた。


「あれ? 結構早かったね。もっとゆっくりしてよかったのに」


 なぜか感情が伝わってこない不思議な微笑みの綾乃。カウンターキッチンに両肘を置いて顎を乗せる。千鳥格子のノースリーブワンピースの上に羽織った薄手のカーディガンから遅い午後の光が透ける。


「うん。ゆっくり楽しむつもりだよ?」


 その背後に歩み寄った涼介がワンピースの裾を背中までめくる。綾乃の腰回りはリングイネ程の細さのTバックショーツと総レースのガーターベルト、色はミントグリーンで統一されていた。


「え……?」


 呆気にとられる夫の前に、前後に並んだ間男と妻。二人は同じ方向、つまり亮介を見つめている。

 

見ててもらえるかしら」

 

 そう言い放った綾乃の落ち着きぶり。

 (これから何が始まるんだ)なんて、野暮なことは言わない。

 未来予測でもなんでもない、そんな目眩くるめく光景を想像した亮介は、過去に一度も感じたことのない不安に苛まされることとなった。



(綾乃……本気で……寝取られちゃった……?)

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