第4話 はさみうち

 時ならぬ時に、しかも玄関で襲われるというとんだサプライズ。綾乃は乱れに乱れた。


(こんなので感じちゃうなんて……あたし……)


 寝取られから始まった綾乃の新しい性の世界。


 ステディな関係外の男との交わり、それを通して見えた夫の情動。

 自分の奥に眠っていたマゾヒスティックな志向。

 もてあそばれながら酔いしれる自らの無力感と拘束感。

 

 

(あたしってこんなにエッチだったんだ)


(亮介ごめんね……涼ちゃんと遊ぶの、あたしすごく好きみたいなの)


(もっともっと……したい)



 ふかふかなベッドではなく、素肌が触れると冷たく固いフローリングの上。

 優しく撫でられながらのお姫様扱いなどとは程遠いあしらい。


 それでも――、綾乃にとってはゆっくりと気が遠くなっていくような夢心地。


「綾乃さん、俺もう……」


「涼ちゃん……」


 涼介の動きが更に速くなる。綾乃は横目で涼介を見やる。


「綾乃、俺も」「……涼ちゃんにはこのままで、いいよね……?」


 驚いて視線を夫の亮介に素速く移す綾乃だったが、その意味を理解するとやがて恍惚とした目つきになり涼介に懇願するような目で訴えかけた。



「は、はい!! 綾乃さんっ!」


 元気の良い返事を聞くと、綾乃は目を閉じた。


 亮介は、この初対面の大学生にゆるしを与えている自分に驚いていた。今はわからない。今はわからないその理由よりも、今のこの尊い一瞬に賭けたいと思った。


 綾乃に――どこにも逃げ場の無い綾乃に――非道いことをしたい。




 

 段々とスパンの短くなっていく息遣い。訪れた静寂。嚥下えんげした綾乃の喉の音。挟撃された綾乃に涼介は抱きつく。遠くから、他の部屋のドアが閉まる音が聞こえた。亮介がおもむろに立ち上がる。


「涼ちゃん、何日間我慢してくれたの?」


「ご連絡もらってからなので……えっと……4日、4日です」


「そうなんだ……」


「いや……見ないで……」


 自分の背後に回った亮介の視線を見て、涼介はゆっくりと身を引いた。


「あ――」

 

 綾乃のか細い声。

 一気にスピードの落ちた時の流れ。

 砂時計のように可視化してくれる一筋のせせらぎ。



 うつろな眼差しで天井を仰ぎ見る綾乃を涼介が抱き起こした。


 

 

 ◆



 

「お風呂まで準備してたなんて思わなかったわ。ほんとこういう時の行動力だけはすごいんだから」


 ボヤいているのか感心しているのかわからない口調の綾乃。涼介の胸と背中を優しく洗ってあげる。


「綾乃さん……俺……」


「ん? なになに? あ、ちょっと、どうしたの」


 ギュッと綾乃を強く抱きしめる涼介。


「さっきの、すごく嬉しかったです」


「そうなのね、うんうん。あたしも嬉しかったよ。すごく、熱かった……」


 その言葉が触発したのかどうか。涼介はさっきの涼介に元通りだった。


(若いってすごい……)


 涼介は腕の中で綾乃をあっという間に転回させた。

 

「え……?」


「綾乃さん……大好きです……」


「うん、あたしもよ……。涼ちゃん」


 その様子は脱衣所で息を殺している亮介の心臓を締め付けた。

 嫉妬がたぎらせた血流。流れ着く先は一箇所だけだ。

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