第3話 帰宅直後

「いいこと思いついた」


「え、なんですか?」


「綾乃が帰ってきたら玄関で襲いかかろう、二人がかりで」


「そんなひどいことしたら可哀想じゃないですか」


「ふふ、それが違うんだな。綾乃って、身動きできない状態で抱かれるとすごく興奮するんだよ」


 亮介は勝ち誇ったような顔で綾乃のドMっぷりを暴露する。それはエピソードトークに始まり、まだ実現していないプレイについてまで多岐にわたった。最初は信じられないという具合の涼介の表情だったが、話を聞くにつれて興奮してくるのが亮介にもわかった。


「じゃ、論より証拠だ。ちょっと待ってて」


 別の部屋から亮介が持ってきたのは黒いストラップのようなものだった。


「これで両手両足をしっかりとね。まだ一回しか使ってないけど綾乃の乱れ方はすごかったよ」


 まじまじとそれを見つめる涼介。


(綾乃さんが身動き取れない状態で……)



 

「僕はどういう感じで動けばいいですか?」


 亮介の方に顔をあげて言う。もう既に決心した表情であることは真っ直ぐな視線でわかった。


「俺が下から、涼ちゃんは上からってことにしようか」




 ◆



「ただいま〜」


 玄関の鍵を締めて振り返ろうとした綾乃を涼介が後ろから羽交い締めにする。

 

「え、涼ちゃん……?」

 

 一瞬何が起こったかわからない表情の綾乃だったが、アイスの入った袋は手早く奪われ、涼介にゆっくりと引き倒されて仰向けになる。もう既に綾乃の四肢は自由を奪われている。




 経験の浅い涼介にも、段々と綾乃の声質が変わっていくのがわかった。

 

「驚かせてごめんね。でも、綾乃ってこういうこと大好きだもんね」

 

 綾乃はベソをかいているが、その目つきは快楽に溺れかけているメスのそれだった。

 

「好きな男二人におもちゃにされた気分はどう?」

 

 動きながら意地悪な言葉を投げかける亮介。嗚咽に近い状態の綾乃。呆然とする涼介。

 

「じゃ、次は涼ちゃんにしてもらおうか……?」

 

 返事なのか感じているのかわからない綾乃を見て、恐る恐る手を放す涼介。抵抗しない綾乃は荒い息遣いで天井を見ているが焦点はとても定まっているようには見えない。






 一瞬、犬の鳴き声かと思うような高い声が響く。さすがにこれはドアの外まで聞こえただろうという声量。


「綾乃さんっ!」


 涼介から伝うのは、若さと想いの強さが合わさった霊力だろうか。肌が発光したわけではないが、綾乃の全身へと瞬く間に電流のように伝播していく様がわかるようだった。仰け反った背中とそれにつられて反射運動が波打つ両手両脚。そんな綾乃の反応。


 さすがの亮介も、うっすらとした危機感を感じた。それでも、もっと二人が熱く絡み合う様を期待してしまう――。


 寝取られマニアの悲しいさがだ。

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