新たな流派
食事をしている最中だった、食堂で、何時も通りに定食を頼んで待っている時に、師範代に名指しで呼ばれてしまった。
「アカシ、お前に荷物だ」
そう言われて師範代が持ってきた茶封筒を渡されて俺はそれを受け取ると、微妙に分厚いので何であろうかと首を傾げてしまう。
何かの検証でも当たったのだろうか?いや、そもそも、何かに応募した記憶が無い。
何かの間違いでは無いのだろうか?と思っていたのだが、茶封筒の名前を確認すると自分の名前が記載しているので、少なくとも俺に対して贈られたものである事は確かだった。
「ん」
周囲の門下生が、俺の茶封筒に対して歪な視線を向けていた。
どうやら中身に興味を示しているらしく、俺もこの中身が何であるのかを確かめる為に開ける事にした。
はさみと言った上等なものが無いので、俺は封緘を手で破き、中に入ったものを確認する。
それは複数枚の書類であり、その内の一枚に目を通す。
そこに記されていたのは、俺は半年前に、台明寺先生と共に協会で流派登録をしたものだった。
「あ…これかっ」
台明寺先生の死後と言うのも相まって、すっかり存在を忘れてしまっていた、そうか、そう言えばこれがあったか。
台明寺先生と刀剣類所持許可証の発行をしに行った(と言うよりかは、そちらの方がついでである)際に、流派登録をするべく、二泊三日程、協会で技を披露した。
先ず、技を披露し、技の名前の登録。
それを全て行い、審議員の人たちがそれを上層部へ報告。
もしも俺の流派が問題無ければ、俺はその流派を使役しても良い、と言う事になっている。
元々、俺は他に類を見ないタイプの斬術戦法を使役するので、俺の技自体が流派として登録されるかどうかすら分からないものだった。
大抵は二週間、最短でも一か月で認可の有無が来るのだが、俺の場合、その認可の封筒が来るまでかなりの時間が経過しており、存在自体を忘れてしまっていたのだ。
「なになに…」
俺は内容を確認する。
此処まで遅くなった以上、認可されても拒否されても、残念とか悔しいとか、そう言った尖った感情を昂らせる事は無かった。
「……貴殿の『夜咫流斬術戦法』を、新たな流派として、認可する……か」
どうやら、その内容は俺の斬術戦法が正式に認められた内容だった。
俺は安堵の息を漏らした、多少なりとも、この結果には嬉しいと思えてしまった。
しかし、その場で小躍りする程の喜々とした感情を露見する真似はしなかった。
精神が達観しているのか、まだ、台明寺先生の死を引き摺っているのか、それは今の俺には分からないものだったが。
「うぉおおおおおお!!!アカシが新たな流派を作ったぞぉおお!!」
俺の書類を傍から見ていた門下生が叫んだ。
嬉しそうに楽しそうに、大きく声を荒げると、それに感化されたかの様に周囲の門下生も大いに喜んでいた。
「すっげええ!!まだガキなのにッ!もう流派持ちかよ!!」
「俺、お前の流派に入ろうかなッ!!」
「おめでとうッ!おめでとうなぁ!!アカシィ!!」
周囲の人たちが、自分以上に喜んでいて、俺はなんだかおかしく感じてしまう。
けど、そっか、これは結構、凄い事なんだ、そう俺は思った。
その喜びを、代わりに表現してくれる門下生の人たちを見ながら、じわじわとやってくる喜びを俺は噛み締めていた。
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