先生の死後

台明寺先生の死後。

門下生の人達は、その死を悲しんだ。

台明寺先生の部屋では予め用意していた遺書が残っていて。

其処には、台明寺先生の死後、大國主が衆難山寺の権利を所有する事になる事と、俺達門下生が今後どうなるか、と言う事が書かれていた。

元々、台明寺先生には家族が居ない。

居たには居たらしいが、十四年前、くらいだろうか、街一体を覆い尽くす火災によって家族を亡くしてしまったらしく、天涯孤独の身で親族も居ない為、その死後は大國主に権利を譲渡する事になっていたとか。

そして俺達門下生は、今後はどうなるのかと言われるのだが、台明寺先生が予め大國主と問答をしていた様子で、衆難山寺の経営を師範代に任せるらしく、このまま衆難山寺に住み、修行を行っても良いとの事。

次に、台明寺先生の跡継ぎだが、台明寺先生の技術を継承した師範代に経営を任せる事となった。

運営する上での費用は、台明寺先生の遺産と、昔、台明寺先生に世話になった人たちからの支援で成り立たせる事になるらしいが、現存する門下生の修行が一通り終われば月謝を取る様にする方針にする、との事だった。


葬式では、台明寺先生に教わった元門下生の人達で溢れていた。

多くの人たちが悔やみ、涙を流ていた事から、かなり親しまれていたのだろう。

ここで余談ではあるのだが…何と、妖刀師も顔を出していた。

台明寺先生に教わり、抜刀官になれず、路頭に迷い、犯罪に手を染めて悪の街道を歩む事になった斬人も、台明寺先生の死を聞いて、居ても立っても居られず顔を出してしまったのだとか。


幸いなのは妖刀師は戦う意思が無い事。

出頭する事を前提で、葬儀に顔を出したと言うワケだ。


色々な斬人が、台明寺先生の為に足を運んできた。

どれ程、台明寺先生が人の心に残り続けた人物であるのか。

俺はそんな凄い人の下で育つ事が出来た事に、堪らなく嬉しく感じてしまうのだった。


三日間の葬儀は終わった。

台明寺先生の遺体はその後、遺体回収組織である〈誘拿深いざなみ〉によって回収される。

抜刀官の死後は、その肉体は火葬される前に、炎子炉を回収され、其処から採取出来る〈青魂精金〉を摘出し、肉体は抜刀官専用の場に入棺される事となる。


なので、葬儀で顔を見るのが最期であり、死に化粧を施された台明寺先生の安らかな顔が、俺が見た中で最後の台明寺先生の姿であった。


「…」


人が死ぬ。

心に穴が開いた空虚がある。

門下生の殆どの人達は、動く気力が湧かない様子だったが。


「葬儀は終わった、だらける暇があるなら走れェ!!」


師範代の人たちは、そんな気の抜けた俺達に体を動かす様に命じる。


「死者を尊ぶ気持ちは忘れるな、だが、死者に想い浸る真似はするな、死んで逝った台明寺先生はきっと、俺達の背を押して下さる、決して、尾を引く様な真似はしないだろうし、俺達がそうさせない、だから、今は走れ、成熟しろッ!!胸を張って生きる為にッ!!先生の教えを示す為にッ!!」


その言葉に、俺も、門下生の人たちも、走る準備をする。

泣いている暇も、死者を想う暇も無い。


少なくとも俺は、抜刀官になると言う夢がある。

何よりも速く、約束を果たす為に。

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