似た者同士
「怒ったか?そうだ、それが、俺の感情だ、ある意味、俺とお前は同じなんだよ」
同じ人間?
思わず笑ってしまう様な台詞だ。
頭に血を昇らせた千金楽アカシは捨て吐いた。
「どこがだ、俺は、お前とは違う」
その否定的な台詞に嬉しそうに答える淵東クズハ。
「なら質問だ、テメェはアニキを殺しやがったが…アニキがテメエに何をした?その怒りはアニキに苦痛を与えられたが故の怒りか?それとも、テメエのだーい好きな家族が殺されたが故の恨みかあ?」
…そんな事、決まっている。
分かり切った答えは問答すらする必要など無い。
だが、言わなければ鬱憤が晴れない。
だから千金楽アカシは答えるのだ。
「お前が、お前達がッ!!俺の父さんと母さんを殺した、アカネを危険な目に遭わせた!!大切な人たちを、お前達の勝手な行為で失い、傷つけたッ!!」
成程、と頷く。
淵東クズハはゆっくりと歩き出しながら、自らの切断された腕を回収した。
そして、その手に握り締めた刀を回収して、刀を軽く振るう。
「ほら一緒だ、俺も、アニキを殺された、あの人は俺の大切な人だった、それを殺された恨みを晴らす為に、こうして復讐してんだ」
違う。
断じて違うのだ。
千金楽アカシは鞘を構える。
刀の柄を握り締めて戦闘態勢へ移る。
「重みが違う、俺は家族を殺されたッ!大切な家族を失ったんだ!!…あんな男のせいで、生きていて欲しかったのに!!」
脳裏に過る家族の顔。
その言葉を聞いた淵東クズハは、口を大きく開けて笑う。
「ぎ、ひゃひゃ…やっぱ同じじゃねぇか、俺とアニキは血は繋がらない関係だけどよぉ…テメェだって同じだろぉが」
指を千金楽アカシに向けながら告げる。
「血の繋がらない家族、言ってみれば赤の他人…俺とアニキの関係性と同じだ、それともなにか?『俺と家族には血は繋がってないが、家族の絆で繋がってる』なんて言う気か?…あぁそうだ、俺も『アニキとは血は繋がって無いが、それでも特別な関係で繋がってた』…俺とお前の何が違う?」
その言葉に反論する事無く千金楽アカシは聞いていた。
ただ、相手が何を言おうが、動揺などする事は無かった。
静かに、淡々と、相手の主張を聞いている。
「それとも…一緒に居た年月で大別をするかあ?長年一緒に居て、情も絆も深まった仲だと…そんなの俺が知るかよ!!年月も思い出も、その重みって奴もッ!!なぜなら、てめぇがッ!俺と、アニキの長い年月なんざどうでもいいと思う様になぁッ!!」
そして、千金楽アカシは相手の全てを吐き出した末に言い返す。
どれ程、講釈を垂れようと、それは淵東クズハの主張でしかない。
本人の視点ではどちらが悪か、どちらか善か、視る方向によっては善悪は替わる。
ならば、もっと客観的に見れば良い、それを見た上で、千金楽アカシは言い放つ。
「望月アクザが…俺の家族を殺さなければこんな事にはならなかった、揚げ足を取るなよ、最初に始めた奴が悪い」
前提として間違っている事を指摘する。
そもそも、この諍いを起こしたのは望月アクザ。
彼が事を起こさなければこの様な事態になっていない。
似た者同士だとか、そんな話はどうでもいい。
始めた以上、終わらせる他ない。
「あぁ、その通り、実質、八つ当たりかもな、だけど…俺はお前を恨み続ける、その為にこの一年と半分を、クソみてぇな慈善団体に属してやったんだからよ」
語り合いは終わる。
千金楽アカシは刀を構える。
淵東クズハも武器を構えた。
両者の殺し合いが始まる。
「
淵東クズハが刀を振るう。
千金楽アカシは抜刀と同時に闘猛火を放出。
斬撃が空を切り裂き重力の歪みを生み出すと、淵東クズハが射出した斬撃が軌道を変えた。
地面を蹴る淵東クズハ。
千金楽アカシは納刀した刀に闘猛火を流し込む。
「夜咫烏-〈
抜刀。
射出される斬撃を、淵東クズハは避ける事無く突進。
斬撃を受けて上半身と下半身が乖離した。
が、切断面からウジ虫の如き細胞が蠢き出すと、胴体を繋ぐ。
肉体を切り裂かれる行為は激痛だろう。
だが痛みを覚える所か興奮し、目を大きく見開きながら、再び刀を振るう。
「崩創流斬術戦法―――〈
息を吐くと共に廃棄瓦斯を放出。
刀身に宿る闘猛火を振るい斬撃を飛ばす。
「何度も同じ手を…」
刀を振るおうとした。
だが、その斬撃は千金楽アカシの目前で急降下し、地面に斬撃の痕が残る。
(不発?)
一瞬の疑問。
地面に刻まれた斬撃。
それはまだ生きていた。
木々を軋らせる様な音を響かせながら、傷跡が広がっていく。
それは千金楽アカシに向かっていき、直感的に触れたら不味いと察する。
地面を蹴り上げて跳躍すると共に、淵東クズハが接近する。
大きく刀を振り上げて攻撃をしようとする淵東クズハ。
千金楽アカシは刀を抜刀すると共に上から下へと振り下ろす。
「夜咫烏〈
闘猛火を莫大に消耗させ、刀へと流し込んで刀を振るう。
その際に斬撃の範囲の重力を下方へ向けさせ重圧を掛ける。
「がッ」
一瞬動きを止める淵東クズハ。
地面に着地する千金楽アカシは一歩踏み出し、刀を真上から真下に向けて振るう。
重圧を掛けられて動きが鈍い淵東クズハは、闘猛火を刀身から放出。
切っ先のみに集中させて放出させた事で重力に逆らう程の推進力を得ると、刀を上げてアカシの刀を受け止める。
「はぁぁぁ…すぅぅぅッ」
呼吸をする千金楽アカシ。
更に闘猛火を生成すると刀身へ流し込む。
紫と黒の色を帯びた刀身は、重圧を纏い淵東クズハの刀は、淵東クズハの刀を破壊し、腕を切り裂く。
「ぎッ、ひひッ!!」
切り傷を腕に作って嬉しそうにする淵東クズハ。
刀身の半分が砕けた刀を握り締めた状態で背後へと身体を動かす。
重圧の重しが発生する領域から脱すると共に、淵東クズハの傷は次第に修復していく。
「切り傷一つ作って満足かあ?この程度の傷なんざ〈散華流廻〉で治るぜ?」
得意気に語る淵東クズハだが、逆に千金楽アカシは冷静だった。
傷口が修復されていくが、淵東クズハは傷口に異変を覚えた。
次第に、腕部が重たくなっていくのが分かる。
だらりと腕を下ろしてしまう淵東クズハに、千金楽アカシは刀を納刀しながら告げる。
「傷口一つ治す程度で満足なんだな」
夜咫烏〈
傷口から千金楽アカシの闘猛火を流し込み、傷口に重さを与える斬術である。
だらりと垂れた掌が開かれる、紋様が刻まれた指先が見えた。
しかし、淵東クズハは腕の重さを承知の腕で人差し指を口に咥えると顔を上げる。
それと共に上腕部位を折れた刀を押し付ける。
闘猛火を流し込んだ刃は疑似的な〈流刃〉となり切断能力が上昇する。
その状態で腕を切り裂く事で、淵東クズハは重たくなった腕を捨てた。
人差し指を前歯で噛んでいるので、口から腕が垂れていた。
痛みを噛み締めている為に、人差し指が前歯に食い込んで、そして淵東クズハは人差し指を噛み切ると、腕が地面に落ちる。
「ぎひっ、ひゃひゃひゃッ」
楽しそうに笑いながら、人差し指を飲み込む淵東クズハ。
切断された腕は、白色の蛆虫の様な細胞がうねうねと蠢き、次第に腕を形成していく。
「すげぇなぁ…魔剣妖刀、身体を粉微塵にしても、治るんじゃねぇのかあ?」
笑いながら、淵東クズハは折れた刀を投げ捨てる。
相手は傷一つ無いが、それでも武器を失った。
状況として言えば、負傷している千金楽アカシであるが、それでも有利だと思えるだろう。
だが。
「武器が消えたと思ったろ?…安心しろよ、お披露目だぜ?〈
そう言うと共に。
淵東クズハは後ろの首筋。
脊髄に当たる部分に手を伸ばす。
そして、異様に盛り上がりを見せる部分に爪を立てる。
皮膚を破り、肉を切り裂き、骨を掴むと、思い切り引っ張った。
苦痛に対し恍惚な表情を浮かべながら、淵東クズハはそれを引き抜く。
刃に切れ込みが入った、さながら刃折器の様な見た目であり、その刃の合間からは、赤黒い血管や筋肉繊維の様なものが見えた。
甲殻類の脚の様な武器を、淵東クズハは軽く振るう。
「これが〈散華流廻〉だ、こいつは臆病者でなぁ…複数の斬人の中で、俺が選ばれた、この魔剣妖刀はよぉ、とにかく死にたくないって渇望に溢れた代物でなぁ?実力があって、一番若い俺が、生存確率が高いと判断されて、選ばれたんだ…お陰で俺は、不死身だぜ?」
斬られても死なない。
即ち殺す事が不可能。
痛みを度外視すれば、無敵の魔剣妖刀であろう。
だが、そんな事、千金楽アカシにはどうでもいい。
「それがどうした?それを引き抜かなくちゃならない状態にまで追い込まれたって事だろうが、己惚れるなゴロツキ」
相手が不死身だろうが関係ない。
千金楽アカシの言葉に舌打ちをする淵東クズハ。
彼もどうやら余裕が無い様に見えた。
「行けやッ!!」
刀を振るう。
距離は空いている。
だが、〈散華流廻〉は鞭の様に伸びる。
蛇腹剣と呼ばれる、複数の刃が連結し、振るう事で関節部分が伸びる武器。
それが〈散華流廻〉の魔剣妖刀としての形状であるらしい。
(斬ってやるッ!!)
魔剣妖刀諸共切り裂こうと考える千金楽アカシ。
刀を抜き放つと共に魔剣妖刀に向けて闘猛火を放つ。
「夜咫烏ッ〈落〉ッ!!」
切り裂いた空間に重圧が発生する。
魔剣妖刀の関節が伸びた刃が空間に入ると、重圧によって刃が重圧によって地面に叩き付けられる。
「っ」
淵東クズハは魔剣妖刀を引っ張った。
重力が圧し掛かり、引っ張っても回収する事が出来ない。
ならばそれを利用し、魔剣妖刀の関節を縮ませる。
これにより魔剣妖刀は重圧によって抑えられた刃の方へと高速で接近する。
それは即ち、千金楽アカシの方へと急接近した事となる。
「〈刺〉〈突〉―――ッ」
人差し指と中指を伸ばして揃える。
闘猛火による針の様な射出が来ると考えた千金楽アカシは攻撃せずに相手の行動を読む。
腹部に感じる痛み、それを我慢しながら、相手が何時攻撃をするかを待つ。
それを回避したと同時に攻撃を行い負傷させるそう考え相手に分からぬ様に深く呼吸を行うのだが。
(―――来ないっ)
人差し指と中指を構えた状態で千金楽アカシの顔面に向けて突きを繰り出す。
指が眼窩を狙うので、顔を動かして相手の突きに合わせて指に頭突きを行う。
淵東クズハの中指の爪が剥げ、第二関節から指が曲がらぬ方向へ曲がる。
痛みを感じる間を相手に与える事無く、千金楽アカシは刀を引き抜く。
零距離での抜刀、夜咫烏〈襲〉を放つ。
胴体を斜めに切り裂かれた淵東クズハだが、片方の手で握り締める魔剣妖刀の関節部位に伸びる繊維が紅色に光った。
それは鳴動であり、主が負傷をしたと言う事実を悟り、関節部位から針に糸を通した様な鋭い針が繊維から出ると、淵東クズハの手首に突き刺さり、腕部の皮膚を通って負傷した部分へと向かい出す。
肉体の内側から縫い付ける様に〈散華流廻〉が淵東クズハの肉体を癒した所で、再び牙を剥き笑う淵東クズハは千金楽アカシを睨んだ。
(〈襲〉を使った後ッ廃棄瓦斯の排出、再呼吸、追撃ッ)
息を吐く最中。
淵東クズハは千金楽アカシの腹を思い切り蹴った。
衣服を血で濡らした、淵東クズハが空けた傷穴に向けて、だ。
ぐじゅりと血が衣服に染み込む。
眉を一つ顰めるが、奥歯を噛み締めて構え直す。
(斬っても無理かッ、いや…あの魔剣妖刀)
鞘に闘猛火を貯め込む。
呼吸を行う様を見た淵東クズハは蛇腹の魔剣妖刀を振るう。
身を屈めると共に、千金楽アカシは攻撃を回避する。
魔剣妖刀そのものを破壊する事は、試す事はしない。
もしもそれを行えば、魔剣妖刀の破壊が出来ない、ならば次の手を、と順番に対策を取られてしまう。
(魔剣妖刀を握り続ける限り、奴は生き続ける、だったら)
大きく息を吸う。
炎子炉を全力で活動させ、闘猛火を生産。
肉体へと駆け巡らせる〈炉心躰火・爆〉により瞬間移動めいた高速移動を発揮。
(来いッ!千金楽アカシィ!!)
大きく魔剣妖刀を振った際、全ての刃の関節部分を伸ばし切った状態で戻す迄の間に時間差が生まれる。
それは敢えて、千金楽アカシを接近させる為に行った行為だった。
(此処、だッ!!)
千金楽アカシは、淵東クズハの両腕を捉える。
刀を振り上げて、夜咫烏〈刃〉により重力の闘猛火を宿す。
重圧を発生させる刀身を、その腕を切り裂く為に振り下ろす。
「ぐっ!!ぎゃッ!!」
そして、淵東クズハの両腕を切り裂いた。
切断された腕は、宙を舞う。
それと同時に、淵東クズハに向けて体当たりを行う。
淵東クズハを求める魔剣妖刀の触手が、彼を捕まえない様に。
(これで、終わりだッ)
腕が繋がらなければ、回復能力は発動しない。
ならば後は止めをさすだけ。
(勝てる…勝つッ!!)
千金楽アカシは淵東クズハへ向かい、刀を振るう。
その憎たらしい笑みを浮かべる顔も、これで終わりだと。
だが…千金楽アカシは勝利を確信した淵東クズハの顔を目に映した。
(口、が開いて…)
淵東クズハ。
その喉奥から見えるのは。
彼が腕を切断する際に咥えた、指だ。
人差し指が、喉奥に張り付いている。
「〈
指と喉が癒着しているのだろう。
手足を繋げる為に、魔剣妖刀から溢れる闘猛火が肉体へと逆流。
排気孔を駆け巡り、其処から闘猛火を分泌させて肉体を再生させる。
手足を繋げた後、排気孔がきちんと手足に繋がる様に、あるいは、繋げた後に排気孔の管を無理矢理作り、繋げているのだろう。
それの応用であり、喰い千切った指先を喉奥に着け排気孔を繋げたのだ。
其処から闘猛火を流し込む事で、焔転変火によって闘猛火が射出され…千金楽アカシの喉を貫いた。
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