魔剣妖刀を持つ者
重要人物・台明寺ギンジョウ。
国内に十人居るとされる神器指定・
その炎命炉刃金に眠る斬神との契儀は〈国の守護〉であり、有する能力は地盤操作であった。
これにより、物理的に磐戸国周辺の地盤を操作し、殻を形成。
海外からの輸入輸出・密輸入等を物理的に防ぐ事となった。
契約者が死亡しても、他の契約者が居る為に、例え複数の契約者が死亡しても〈巖龍〉を使役出来る状態となっている。
即ち、〈巖龍〉の使用は個人の意思では無く、国家の意志にして、国の頂点に君臨する〈
故に、台明寺ギンジョウ自体は最重要人物では無い為にある程度の活動が認可されていた。
後進の育成でもある試刀院の指南役は認可されているが、祅霊などの討伐任務には極力参加しない様に契約されていた。
「…なんだ?」
衆難山、千階段。
山の頂点へと登る為に作られた階段を歩く一人の男性。
門番役にして護衛任務に就く抜刀官は警戒する。
「知ってるか?」
近くに居た同僚に聞く。
目を細める同僚は声を挙げた。
「国賊…ッ!妖刀師だッ!!逆瀬川サネミ!!逆瀬川サネミだァ!!」
叫ぶ。
その声と共に警戒態勢を取る。
「目的はなんだ?」
「知るかそんな事ッ!」
腰に携える刀に手を伸ばす。
それを見た逆瀬川サネミは咳をしながら告げた。
「ことを争う気は無い…台明寺先生に話をさせて欲しい」
そう言うが、彼らは悪人に耳を貸す事は無かった。
重要なのは、その男が、国の反覆を目論む犯罪者であると言う事。
しかし、悪である事は理解しているが。
その男の情報はあまり共有されていない。
刀の能力が何であるか、彼らは知る由も無い。
「構えろッ!!」
「攻撃はしない方が良い…が、それはキミたちの自由だ、穏便で済ませないのならば、仕方が無いが」
逆瀬川サネミは一度、警告をした。
だが、彼らは警告を聞き売れるワケが無かった。
炎命炉刃金・影打。
試刀生が在学中に炎命炉刃金を使用し、斬神を発現させる事無く試刀院を卒業した場合、在学中に使役した炎命炉刃金を加工し、抜刀官に使用する武器として支給される。
名称は〈
「式神ッ!!
抜刀官の一人が叫ぶ。
刀身が燃え盛り、闘猛火を糧に出現する式神は、甲冑を着込んだ人型の式神である。
有する能力は単純な〈身体能力強化〉であり、抜刀官の肉体を、式神が顕現する限り強化する事が出来る。
「征くぞォ!!」
走る抜刀官。
先陣を切るのは機冑人妖。
式神、斬神問わず、実体は刀身であり、式神の移動範囲は刀を中心とする、範囲の限界は刀身に込めた闘猛火の量に比例する。
大太刀を振り上げる機冑人妖に対し、男は咳をする。
そして片手で鞘を握り締め、もう片方の手で柄を握り締める。
機冑人妖の動きを見詰めていると、刃が男の体に向けて振り下ろされた。
同時、抜刀する、刹那よりも早く、瞬きの合間に抜刀と納刀を終える。
…そして、男の肉体は右肩から左脇腹へと切り裂かれた。
「ぐ、ぶぁッ」
口から大量の血液を吐き出し、ずるりと、肉体が切断され、上半身が零れ落ちる。
切断面からは大量の血を流し、腸が切断面から盛り上がっていた。
「が、ぁ…?」
抜刀官は困惑した。
先程、一撃で殺したのは、着物を着込み、笠を被る男だった筈だ。
如何にも病弱で、指先一つで押せば倒れそうな程に弱々しい男が、無惨に死体を晒した筈なのに。
倒れているのは自分だった。
肉体を切断され、大量の血を流すのが、自分だった。
何が起こったのか、理解出来ない抜刀官は、何も分からずまま、死を迎える。
抜刀官が立っていた場所に、男が立ち尽くしていた。
後ろを振り向き、抜刀官を一瞥して、そして、前を向き直す。
「けほっ…ごほッ」
苦しそうに、痰に血が混ざる咳をしながら、男は歩き出す。
もう一人の抜刀官が訳も分からず、困惑していた。
(なん、だ…妖刀師の居た場所に、アイツが、倒れてる、逆に、アイツが居た場所に、妖刀師が…位置が入れ替わったのか?まさか…斬神の能力、なのか!?)
しかし解せない。
ただの位置の入れ替えならば、何故、妖刀師が、式神の大太刀によって斬られた姿が一瞬見えた?
そして何故、その次の瞬間には、仲間が死んだ事になっているのか。
何も分からない、だが、仲間が殺されたと言う事実を受け入れるのならば。
「うぉおお!!」
此処で斃さなければならない。
声を荒げる様は、単純に酸素を供給した末、闘猛火へと変換した後の排気瓦斯を吐く為の行為、それはつまる話、戦闘を開始する合図でもあった。
闘いへ、前へ出た瞬間。
「〈
名前を告げた。
それと共に抜刀したかと思えば。
抜刀官が〈炉心躰火・煙〉から〈炉心躰火・爆〉へと切り替える。
瞬間的な身体能力の超向上を行い、相手が抜刀と同時に切り裂いた。
「ぐ、おっ!?」
そして、次の瞬間。
肉体を斬られていたのは、逆瀬川サネミではなく…抜刀官そのものであった。
肩から血液を噴出しながら倒れる抜刀官。
二人の死体を横目にしながら、彼は笠を下げて虚しく呟く。
「これも…大義故」
そうして、門番の居なくなった正門を潜り抜ける。
石庭を歩き進めると、
寺の奥から歩いてくる男たちの影があった。
その中には白髪の男性も居て、それが逆瀬川サネミが逢いたがっていた人物である。
台明寺ギンジョウが、予め事態に気が付いていたのか、屋敷の門の前へと繰り出していた。
「…お久しぶりです、台明寺先生」
逆瀬川サネミは、久方ぶりの恩師と出会い、笠を上げて挨拶をした。
台明寺ギンジョウの登場。
背後から、複数の抜刀官が前に出る。
刀を抜き放とうとする抜刀官たちに向けて、台明寺ギンジョウは告げた。
「全員、刀を納めよ」
そう言われるが、一人の抜刀官が反感した。
「この男が、先生のお知り合いだから、手を出すなと言う事ですか?」
公私の私であるならば、その忠告は聞けない。
しかし、台明寺ギンジョウはそれを言う理由があった。
「現場に居合わせた者のみ情報を開示する」
その言葉を聞いた抜刀官たちに緊張が走る。
その常套句は、彼ら抜刀官が説明はされたが、現場では初めて聞く台詞だからだ。
「情報の開示…?それは、つまり」
抜刀官に就職した後、教習をする機会がある。
その時に、上官がその台詞を告げた場合、どの様な意味を持つのか、と言う内容も教えられていた。
『全員、抜刀』であれば、その意味通り、戦闘態勢に入る様に。
『情報の開示』と言われる事で、彼らの脳裏に思い浮かべる事は一つのみ。
「
台明寺ギンジョウは告げた。
基本的に魔剣妖刀は伝説上の武器だ。
政府に属する者は、特級抜刀官を除き、魔剣妖刀の使用は妖刀師と断定され処分される。
魔剣妖刀とは負の遺産である、三十年前に起きた、第二次世界大戦にて、猛威を振るった。
数多くの人間を犠牲にし、魔剣妖刀は量産されてしまったのだ。
終戦後、政府は帝国陸軍の解体と共に魔剣妖刀の回収を行った。
種類によっては、その魔剣妖刀は人を狂わす魔性を秘める。
第二の悲劇を齎さぬ様に、現・治安機関〈大國主〉の下で管理されていた。
が、十数年前、大國主の襲撃の末に百振りの魔剣妖刀を強奪された。
大國主は、その失態を世間から隠す為に公表せず、どの魔剣妖刀が奪われたものかすら、関係者に開示する事すら許されなかった。
魔剣妖刀の詳細を知る者は、それこそ、台明寺ギンジョウと同等の階級を持つ抜刀官のみである。
そうして、この現場に居る抜刀官を含めた者たちには、情報が知らされるのだった。
「
名前を聞いた所で、ピンとこないだろう。
なので、その能力を説明する事で、如何にその魔剣妖刀が凶悪であるかを示す。
「能力は事象の反転、〈甲〉と〈乙〉に起こる結果を入れ替える魔剣妖刀を持つ」
つまる話。
〈甲〉が〈乙〉を斬ったと言う事象を〈乙〉が〈甲〉を斬ったと言う結果にさせると言う最強の迎撃能力である。
先程の逆瀬川サネミが斬られたと言う事象を反転し、抜刀官が斬られたと言う結果へ齎した、それこそが、逆瀬川サネミの持つ魔剣妖刀〈
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