計算され尽くされた斬術?


頂上から降りた時、俺は道中で祠を発見した。


「…ふぅ、とりあえず、刀は手に入れたぞ」


俺は、手に入れた刀を引き抜き、状態を確認する。

…刀には一切の刃毀れも、錆も無かった、新品同様であり、俺が今まで入手した刀の中では一番の当たりである。


「良し…これで、明日の修行が楽になるぞ」


俺はユノに感謝した。

そしてそれを言葉にしようと、ユノの方に顔を向けるのだが。

しかし、ユノは相変わらずの無表情だった。

その鉄仮面は中々、脱がす事が出来ないらしい。

残念に思いながらも、俺はユノに感謝の言葉を告げる。


「ありがとうな、ユノ」


ユノに感謝の言葉を告げると、俺の方へ近づいて来て、頭を差し出した。

感謝の気持ちを行動に移せと言う事らしく、俺はユノの頭を撫でる。

ユノは何も言わず、俺のなでなでを甘んじて受け入れていた。


「…」


しかし、本当に。

ユノには世話になりっぱなしだ。

やはり、俺よりも実力はユノの方が上なのだろう。

もしも、ユノと戦えば、俺は簡単に敗けてしまう。

そう思う程に、ユノの実力は遥かに上だった。

が、俺も成長している、なので、ユノと拮抗する程の実力はあるのかも知れない。

これはあくまでも自分の願望だ、けれど、実際に戦ってみるまでは、分からないでは無いか。


「…ユノ」


俺は手を離す。

ユノは首を傾げて、なでなでが終わった事に不満を覚えていた。

そうだ、そもそも、何よりも、彼女が居るでは無いか。

台明寺先生は、ユノが俺の先生と言っていた。

それは即ち、ユノは俺を守る保護者としての存在では無く、俺にものを教える為の先生と言う意味合いでもある。

つまりは、ユノを最大限有効活用する為には、守られるのではなく、戦う事なのだと、そう察した。

だって、俺と同じ体格でありながら、俺よりも強いユノがいるのに、それ以外の祅霊と戦った所で、技術を学ぶ事など出来ない(あくまでも斬術を使うものとの戦闘である場合だ)。

ユノと稽古を行い、其処で自分に足りない力の調整や、ユノの技術を目で盗む事で、己の実力を底上げする。


「俺と、一度、戦ってみないか?」


その為に、ユノと戦う、と言う選択肢を選ぶ。

無論、ユノが戦いたいかどうかは分からない。

けれど、言うだけでも損になる事は無い、言うだけタダなのだから。

そして、俺の言葉を聞いたユノは。


「…?」


其処に立ち尽くすユノは、過ごして来た中で、初めて見た表情を。




















―――満面の笑みを浮かべながら紅潮する、ユノの顔が其処にあった。














「ゆ、の?」


彼女の表情は喜びを表現している。

だが、俺の言葉を聞いてその顔をしたと言う事は、彼女は了承したのだ。

俺との斬り合いを望み、喜びと言う表現を以て肯定したのだ。


最初から望んでいたのだろうか。

それとも、俺の提案を受けて初めてその感情を思い浮かばせたのか。

それは分からないが、ただ一つ、確実に分かる事があるとすれば。


「…良いよユノ、本当はそれを望んでいるのなら」


ユノは俺と斬り合いたい。

その願いは、ある意味、俺の為にもなる。

彼女程の実力、経験を肉体で受け切る事が出来れば、更なる成長をする事が出来る。

ならば、今更、無かった事にして欲しいなど言えないし、言うべきでは無い。

俺は腰に携えた刀を引き抜くと、白刃に彼女の姿を照らし出す。

甘く蕩けた表情をするユノは長刀を構えると共に、引き抜く。

その瞬間を狙い、俺は地面を蹴って接近。

炉心躰火による身体能力の強化、爆発するかの様に飛び出すとユノに向けて刀を振るう。

ユノの弱点は既に理解している、超遠距離による抜刀術。

即ち、ユノに近付けば、それだけで完封する事が出来る。

だが…果たして、己の弱点が明確であるのに、何も対策などしていない筈が無い。

現に俺が接近し、刀を振り下ろすと、ユノはその攻撃を回避し、地面を蹴って距離を開ける。


「くっ」


こういう時、斬撃を飛ばせればどれ程良いだろう。

飛ばせるには飛ばせるが…しかし、俺の斬撃は重力を伴う。

斬撃は自重によって地面に向かって沈没していくので、相手に当たる前に地面の中へと消えてしまう。

なので、俺は遠距離技が使用する事が出来ない、必死になって、ユノに近付こうとするが。


ユノが刀を構える。

そして俺が近づいているにも関わらず抜刀した。

銀色の光が散る。

俺は刀を構えて防御態勢を取る。

しかし斬撃は来ず、ユノは更に刀を振った。


「っ!? 何処を狙って」


ユノは俺では無く、真横を向きながら刀を振るった。

斬撃が射出されて、俺とはあらぬ方向へと飛んでいくのを見掛ける。

祅霊が接近した為に、先に其方へ斬撃を飛ばしたのだろうか?

とそう思ったが、違う。

射出された斬撃は、飛距離に応じて威力が増加するのだろう。

原理は分からないが、距離が遠のけば遠のく程に威力が増す。

なので、遠くへ飛ばす様に、斬撃を工夫しているのだ。

そして、ユノが真横へと飛ばした斬撃は、孤を描き、さながらブーメランの様に曲がり、速度を増した状態で俺の真横に向けて斬撃が飛んできた。


「ぐ、ぉッ!!」


斬撃の方に目を向けていた為に、辛うじて斬撃を刀で受ける事が出来るが、衝撃を殺す事が出来ずに俺は弾き飛ばされる。

樹木に向けて体を叩き付けられるが、それだけじゃない、一番最初、ユノが抜刀した時、既に斬撃を放っていた。

上空へ向けて放たれた斬撃は、山なりを築きながら落下していき、何と、俺が樹木に背を預ける箇所に向けて斬撃が振り落ちる。


「ッ!!」


計算して、最初に斬撃を放ったのかッ!?

俺は驚きを浮かべながら、刀を真上に向けながら闘猛火を放つ。

斬撃を受け止めると、俺は刀を斜めにして斬撃を逸らす。

斬撃はそのまま地面へと落ちていき、地面を抉り土煙が舞った。


「ッげほッ…けほッ」


俺は咳をしながら、土煙の中から出て来る。

そして、ユノは此方を見ながら首を傾げていた。

その表情は少し困惑しているのか、いや、それは残念そうな顔をしている。

この程度で、音を上げるのか?と聞いているかの様な表情だ。

無論、この程度で終わる筈が無い。

俺は刀を握り直しながらユノに言う。


「とことんやろう、ユノ」


俺の言葉を聞いて、ユノは再び笑った。

嬉しくて仕方が無い様子で、ユノの顔を見て、俺も思わず笑みを浮かべてしまう。

仕方が無い子だ、必死になって、彼女に追い付ける様にしなければ。



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