お嫁さん候補
成程、斬術戦法と言うのは、剣術と言うカテゴリでは無いらしい。
先ず、闘猛火と言うエネルギーを増量させる特殊加工された刀を使い、エネルギーによる攻撃を行う事を、斬術戦法と言うらしい。
だから剣術では無く、斬術戦法と言う特殊な名前を名付けられたのだとか。
斬撃を飛ばすと言うよりかは多彩なレーザービームを斬撃と称してる様なものだ。
どっちにしても格好良いので全然問題は無い。
実際の所、肉体から生産される闘猛火と言う熱量を利用するので、熱光線兵器と変わりない。
それを斬術戦法と言う剣術として語っているだけの事。
成程と納得する俺は、父さんの伝手で最高の先生に出会ってしまった。
そう、銅島先生である。
銅島先生の斬術戦法に魅了されてしまった俺は、銅島先生のご教授を得る為に、自宅へと押し寄せていた。
『肉体を鍛えたいのなら、仕事の休みにでも教えてあげよう』
と、銅島先生直々にそう言われたので、俺は銅島先生が休みの暇を見て貰える事になった。
道路を走るだけでも、肉体を強化する為に必要な技術が培われると、銅島先生は仰った。
人より倍以上の呼吸をしながら走り、心臓と炎子炉の両方に酸素を送り込む。
そうして、肉体に蓄積された闘猛火が溜まり続けると肉体が高熱を発してしまうので、闘猛火を冷ます為に、肉体全体の排気孔を巡らせて闘猛火を冷却させるのだが、その際に闘猛火の熱が肉体の神経や筋肉を刺激させ、常人より倍以上の身体能力を発揮させるらしい。
これを〈
勿論、全身の筋肉と神経が刺激され続けるので、長時間使用し続けると筋肉痛で気絶してしまう。
が、幼い頃から鍛える事により、筋肉繊維が断裂と再生を繰り返し、強靭な肉体になるのだとか。
基本的に炎子炉は早くても五歳から七歳の間で開花し、其処から鍛錬を積めば抜刀官の中でも上澄みの身体能力となるらしいので、一日も欠かす事無く出来る鍛錬方法だ。
三十分、炉心躰火を使い続けて移動して、ようやく銅島先生の家に到着した。
銅島先生は分家筋でありながら待遇が良く、抜刀官でもある事から銀嶺家から援助金を貰っているらしく、その家も道場付きの武家屋敷であった。
それでも、家政婦や使用人とか必要最低限しか雇って無いので、基本的に門は開けっぱなし、部屋の掃除は暇があれば屋敷の当主である銅島先生自らが行っている。
現に、休みの日でも、銅島先生は一人、縁側の廊下を雑巾がけしていて、一番端から一番端へと、とっとっと、と足音を鳴らしながら拭いていた。
「…ん、来たか、アカシくん」
銅島先生はバケツに汚れ切った雑巾の汁を絞りながらそう言った。
俺は銅島先生に頭を下げると大きく挨拶を行う。
「どうじませんせいッ!おつかれさまですッ!!きょうこそ、斬術せんぽー、教えて下さい!!」
俺はそうお願いする。
すると、銅島先生は困った様な顔をして言った。
「何度も言ってるが、雷迅流斬術戦法は門外不出でね、銀嶺家の血筋しか教えられないんだ、他の流派なら教えられるんだが…」
と、また銅島先生にそう言われて俺はがっくりとした。
古流斬術である雷迅流斬術戦法。
これは、宗家である銀嶺家の血筋しか教わらない斬術なのだ。
なので、俺の様な他人には、教える事が出来ない決まりとなっている。
まあ、ダメであるのは元から知っていたので、ショックはあまりない。
ただ、ダメ元でお願いし続けたら教えてくれるんじゃないか?と言う期待を込めて言った程度である。
「こほっ…こほッ」
咳をする声が聞こえてくる。
その声に反応して、俺は視線を向けると、襖が開かれていて、其処から小さな女の子が顔を出していた。
この世界では珍しい、銀髪をした少女であり、背は低く、華奢な体をしている少女だ。
歳は俺とあまり大差が無い、が、表情は死体の様に蒼褪めていて、色白だった。
「すぅ…はぁ…アカシちゃん、来てたんだね」
掠れた声で、少女は言う。
彼女は、銅島先生の娘さんだ。
名前は銅島ハクアと言う子供だった。
「うん、だいじょうぶ?ハクア」
俺は心配しながら彼女に言う。
銅島ハクアを見ていると、前世の俺の事を思い出して、少し胸が痛んだ。
銅島ハクアは、見ての通り病弱で、あまり外を出歩く事が出来ない。
だからか外に遊びに行く事も出来ないので、友達が少なく寂しい思いをしているのだ。
「うん…アカシちゃん、…お父さんと稽古?」
そう聞いて来る銅島ハクアの視線は羨望を浮かべている。
自分が外を出歩く事が出来ないので、俺の様に活発に動き回る事が出来て羨ましいらしい。
俺も、身体が未知の病に犯された時、誰も遊んでくれず、一人寂しい思いをしていたから、彼女の寂しさは理解出来た。
だから、銅島先生に顔を向けて、詫びの言葉を脳内で浮かべると共に、銅島ハクアに話し掛ける。
「…ううん、今日は、ハクアと遊ぼうと思ってきたんだ、からだの具合はどう?」
と、俺がそう聞くと、ハクアは嬉しそうに笑みを浮かべてくれる。
小さいのに、何処か未亡人の様な雰囲気を漂わせているハクアは、咳をしながら襖を大きく開けた。
「はいって、アカシちゃん、おとうさん、ごめんなさい、アカシちゃんにお菓子、持って来てあげて?」
そう言うと、銅島先生は申し訳なさそうに頭を下げて頷いた。
先に、銅島ハクアが部屋の奥へ入り込むと、俺は縁側から部屋に入ろうとして、銅島先生に呼び止められる。
「アカシくん、…うちの娘と遊んでくれて、ありがとう」
また、俺に対して申し訳なさそうな表情で謝ってくれる。
別に大した事じゃない、昔の自分がして欲しい事を、彼女にしているだけに過ぎないのだ。
「おれこそ、ごめんなさい、どうじませんせい、また稽古、つけてくださいね」
一言、俺はそう言うと、ハクアの部屋へと足を踏み入れた。
ハクアの部屋は実に殺風景な部屋だった。
布団と、勉強用の机、枕の隣には、寂しくない様にと、小さなラジカセが置かれている。
そのラジカセがハクアにとっての世界であり、そこから情報を聞いているのだが、それだけでは外の全貌を知る事は出来ないし、田舎で起きる身近な事件などは教えてくれないのだ。
だから、田舎町で自由に歩き回れる俺が、彼女に屋敷の外は何があるのか、語るだけで彼女は目をキラキラさせながら聞いてくれる。
とても聞き上手な子だと、俺はそう思っていた。
俺が面白可笑しく話していると、ハクアはそれが新鮮でよく笑ってくれる。
銅島先生には悪いが、彼女と銅島先生は似ても似つかない容姿をしていて、大人になれば絶世の美女になるのではないかと思う程に容姿端麗だった。
「けほ…けほっ」
ただ、感情が昂ると、より多く咳き込んでしまう。
どうやら、肺に酸素を多く吸い込むと、肺が異常を齎して咳をしてしまうようだった。
それが原因で、喉が傷ついたりして口から血を吐いてしまう事もしばしばある、と言う様子だ。
だからあまり笑わせるのも良くないのだが、銅島先生は娘が笑ってくれる事、楽しいと言う気持ちを塞ぎ込まないで欲しいと考えている。
「ごめん、だいじょうぶ?」
俺がそう言って背中を擦る。
擦ると背中が暖かくなって、喉の痛みや、肺の痛みが和らぐので、ハクアは背中を擦って欲しいと懇願していた。
俺が擦ると、ハクアは咳をする事を止めて、何とか呼吸をする事が出来る。
けれど、今度は涙を流していた。
「ごめんね、アカシちゃん…わたしに、つきあってくれて…」
と。
ハクアは暗い表情をする。
病弱になると、誰彼構わず、誰かに謝りたくなる。
自分の不甲斐なさを強く感じているのだろう、もう少し強い体に生まれて来れば良かったと自己嫌悪すら覚えている様子だ。
何が申し訳ないのだろうか、身体は弱い事は肉体の悪さであっても、個人が悪いわけでは無いのだ。
「いいよ、べつに、おれが、好きでやってるから、ハクアと一緒にいるのが、おれは好きなんだ」
だから、気が引けない様に、俺はハクアと一緒だから楽しいと言う事をキチンと伝える。
それを伝えるだけでも、心の持ちようは違ってくるだろう。
ハクアは、そう言われて顔を真っ赤にしていた。
嬉しそうにしながら、ハクアは俺の手を優しく掴む。
「…うれしい、アカシちゃん、ほんとうに」
そう言いながら、ハクアは着物の隙間に、俺の手を入れた。
布団と着物、彼女の体温で暖かくなった胸元が、俺の手に温もりを与える。
すべすべで陶磁器の様な感触をするハクアの肌に触れて、年甲斐もなく俺はドキドキしてしまう。
「きこえる?アカシちゃんに、そう言ってくれて…嬉しくて、心臓が高鳴ってるの…ほんとうに、ほんとうに…嬉しいんだよ、アカシちゃん」
ハクアの目はとろんと蕩けている。
酒に酔っているかの様に、紅潮しているハクアは、人を魅了する魔性の女の様に見えた。
俺も心臓が高鳴っていて、極めつけにハクアは俺の耳元に唇を近づけて言った。
「おっきくなったら、ハクアをおよめさんにしてね…?」
艶めかしい声色だ、これが六歳児に出せる色気だろうか。
すっかり顔を赤くしてしまった俺は、まともにハクアの純真無垢な瞳を見る事が出来なかった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
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