第2話 抜刀官って何?



「良いかアカシ、抜刀官と言うのは、だなぁ?」


父さんが語り出す。

その話はとても興味深いので、俺は父さんの言葉に被り付きで聞いていた。

一時間にも渡る父さんの話に、俺は思わず目を輝かせてしまう。


つまり、抜刀官と言うものは何であるのかと言うと。

・祅霊と呼ばれる化物を退治する事。

・妖刀師と呼ばれる刀を使った悪党の処刑や、確保をする事。


これが主な業務であり、それだけならば危険な仕事である事に違いないのだが、俺が興味を引いたのは刀に関する事だ。

父さんが腰に携える刀は、所謂、異能を宿す刀であり、必要に応じて使用する事が許可されている。

そして、刀を器用に扱う為には、体術の基本となる炎子炉の操作と、其処から発生する、闘猛火ともしびと呼ばれる運動エネルギーを扱う事らしい。


「取り敢えず、俺が炎子炉の遣い方を教えてやろう」


父さんはウキウキとしながら俺を庭へと出した。

そこで父さんは、俺の胸元に手を当てて教えてくれる。


「先ずは炎子炉を知る事だな、普通は肺の中心からやや下の部分、心臓の下にある臓器の事だ」


炎子炉と言う概念は、肉体の内部に備わる臓器であり、心臓の高鳴りに重なる様に、どくん、どくんと、炎子炉が微かに動いているのを感じている。


「心臓の役目は血液を運ぶ事だ、口から酸素を供給して、肺にたっぷり膨らませると、そこから血液が酸素を運んでくれる、其処から通常は心臓を通して二酸化炭素を排出するんだが、呼吸をして肺へ空気を送った時に、心臓にじゃなくて、炎子炉へと流し込むんだ、口にして見ると分かり難いだろうが、一度出来たら、後は簡単だ、それが出来る事が当たり前になるんだ」


父さんの言葉は何やら難しい。

炎子炉と言う臓器の概念は何とか分かる。

俺の過去の記憶、前世では俺の肉体には無い筈の臓器、それが現世では異物として違和感を覚えていた。

この炎子炉と言う臓器があると言う事を明確に理解している。


俺は深く深呼吸をする、胸が大きく膨らんでいくのが分かる。

そのまま大きく息を吐き続ける、自らの吐息には二酸化炭素が排出されるが、これはあくまでも心臓に酸素を供給しただけに過ぎない。

再び俺は呼吸を大きく吸う、心臓に酸素を送るのではなく、炎子炉に酸素を送るイメージを持ちながら酸素を吸い続けると、ぼこんと、胸元の空洞が膨れ上がった様な感覚を覚えた。


「ぐうッ」


そして俺は息を吐く。

胸元が熱くなっていき、苦しくて俺は胸元を抑えると、父さんは背中を擦りながら俺の手を掴んだ。


「炎子炉を稼働させたな、初めてにしては凄いぞッ!!このままだったら熱が体内に残り続けてしまう、だからそれを排出するか、体内に廻らせて熱を冷却させる必要がある、…後者はまだお前には難しいから、排出させる事を優先するぞッ!掌に意識を集中させるんだ!!」


興奮して声を大きくする父さん。

その言葉に頷いて、俺は目を細めながら指先に集中する。


「炎子炉は熱を排出する排気孔が全身にある、毛穴よりも小さくて普段なら見えないけど、その孔に熱を通すイメージを浮かべるんだッ」


言われた通りにする。

兎に角、この苦しい熱から解放する為に、掌から排気孔へ放出するイメージを持ち続ける。

すると、胸元に感じる熱は次第に肩へと移っていき、二の腕、上腕と続き、手首、最後に掌から、白い煙が排出された。


「凄いぞ、アカシ…ッ!これが闘猛火ともしびだ、抜刀官が、刀を扱う為に必要な生命力の源なんだ」


一発で成功した事で、父さんは喜んでいた。

俺も、まさか成功するとは思って無かったので素直に喜び、笑みを浮かべる。

ただ、苦しいのは変わらない、胸元に感じる熱は消えたけど、どうすればこの苦しみは消えるのだろう。


「…?おい、アカシ!?大丈夫か!?空気を吸え!!肺に貯め込んだ空気を炎子炉に流し込んだんだ、体内には二酸化炭素しか無い状態、吐いて、酸素を取り込め」


あ、成程、そういうこと、か…。

しかし、少し言うのが遅かったらしい。

頭の中に酸素を供給する事が出来ず、俺は酸素不足で気絶をしてしまう。


「あ、アカシーッ!!」


父さんの叫び声だけが聴こえてくる。

でも大丈夫だよ父さん、やり方は覚えた、後は失敗なんてしないから…。

そんな事を考えながら、俺は気絶をするのだった。



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