第100話 シメの一人旅19・Aランク試合の後

 シメ達が優勝した後当然「銀嶺の咆哮」達も礼を言いにやって来た。


 当然だろう自分達を縛り付けていた呪詛魔法から解放してくれたのだ。


 魔法を掛けていた悪魔を直に倒して自由にしてくれたのは確かにヨシアだ。


 ただディルク達獣人はヨシアよりもシメに興味があった。自分達と同じ技を使うシメに。


 いや、もっと言うなら自分達以上の技を使うシメにと言った方がいいだろう。


 自分達以上にこの技を使える者は遊軍騎士団長のダッシュネルかその師たるハンナしかいないからだ。


 彼らはまだシメとハンナの関係を知らなかった。いや、それ以前にゼロと言う伝説の軍師との関係をと言っても良いだろう。


 彼らはシメに自分達の話をした。彼らはダッシュネルより特命を受けてカールの地を離れ、悪魔の残党を探していたと言う事を。


 ディルクは遊軍騎士団特別班の班長をしていた。そしてクレグスはその片腕だ。


 ただそれはシメがこの世に現れる前の話だ。シメの事を知らなくて当然だろう。


 そして遂に一人の悪魔に出会ったが残念な事にその悪魔の呪詛魔法の虜になり今日まで操られていたらしい。


 彼らの腕を持ってすれば下位、いや普通の悪魔であれば中位程度までは戦えただろう。


 しかし今回は相手が悪かった。力こそ普通の悪魔程度ならこの呪詛魔法だけは光魔法でも使えない限り対処は難しかっただろう。


 それはヨシアにしても同じ事だ。ヨシアはまだ光魔法が使えない。だからこそシメが無謀な波動拳の奥義を使わせたのだ。唯一のこの技のみが波動拳の中でこの呪詛魔法に対抗出来たからだ。


「あんたはそんな理由で無茶をさせたの。下手をしたらヨシアが死んでいたんだぞ」


 確かにナナシの言う通りだった。あの奥義は体内の魔力操作の実力が伴わないものが使うと例え未完成でも死に至る危険な技だった。


 ただ今回はシメが自分の気力を分け与えた事で辛うじて死を逃れたと言えるだろ。


 それでもヨシアの体内では魔力の暴走が起こり、その後は魔力の枯渇状態になったと言っても良いだろう。


 勝利宣言を受けた後ヨシアは3日3夜意識を失って生死の狭間を彷徨っていた。


 確かに無謀な事をさせたとシメも思っている。しかしあの場合はあれしか方法が無かった事もまた事実だ。


 後は自分の命に替えてもヨシアの命は守って見せるとシメは思っていた。


 何故お前が自分で戦わなかったと言いかけたナナシだったがその理由を察してして言うのを止めた。


 そこはやはり武人同士だ。理解出来たのだろう。


 ディルクの疑問にはヒューマンの中にもこの技を継承する者がいるとだけ伝えておいた。


 その代表がヘッケン王国にいる「自警団カリヤ」だ。


 特にその団長のダニエルは獣人国の遊軍騎士団長のダッシュネルに匹敵する力を持っていた。


 なるほどそれなら可能かとディルクも一応は納得した。


 ただ最後にヨシアが見せたあの技は伝説の波動拳最終奥義ではないかと疑っていた。


 ディルク自身もまだ見た事はない。話だけで聞いているまさに伝説の技だ。


 それをまさかこのヒューマンの魔法使いが使ったとはとても信じられなかった。


 聖地に於いてもその伝説の技が使えるのは師たるハンナ様ただお一人と聞いていたからだ。


 しかしだからこそあの悪魔の使う呪詛魔法を突破して倒せたと言えるだろう。そしてその代償は大きかったと言う事か。


 そう言う意味ではこのヨシアの力を持ってしてもあの伝説の技は完全には使い切れなかったと言う事だろう。


 しかしそれでもあそこまで使えただけでも大したものだとディルクは思った。


 ただしそこにはシメの助けがあった事はディルクは知らなかった。


 ディルク達は今日までの事を本国に報告すると言って獣人国に帰って行き残ったクレグスはまた一人で冒険者を続けると言っていた。


 向こうでハンナにでもシメの話を聞けば納得するだろうと思ってシメもそれ以上詳しい事は言わなかった。


 こうしてAランクパーティ達の戦いと悪魔退治は終わった。


 しかし全てが終わった訳ではない。悪魔の残党がいたと言う事は何処か他にもいる可能性があると言う事だ。


 この地がまだ獣人の支配地だった頃キングサルーン国の右大臣は悪魔に操られていた。


 そしてその悪魔達を完全に消滅させたのはハンナだったがあれがこの地にいた悪魔の全てだったと言う確証はない。


 だからこそハンナとダッシュネルは悪魔専門の特別班を作って悪魔の探索をさせていた。


 ヨシアやカミルはまだ悪魔の恐ろしさを知らない。今回出会った悪魔は魔法こそ優れていたが悪魔自体のランクで言えばまだ下位と言った所だろう。


 ヨシア達が本当の悪魔と戦うにはまだまだ修行が必要だなとシメは思っていた。


 その点ナナシやキサメには悪魔に対する経験がある様に思えた。


 何処で悪魔と戦ったのかは知らないが、キサメが元勇者ならそれもありかとシメは思った。


 そしてあのナナシは。彼女は特別だ。彼女なら例え上位悪魔と戦っても決して引けは取るまいと思われた。


 それはナナシの思いにしても同じだった。元勇者キサメ、彼女こそ本来は悪魔と戦い魔王を倒す者としてこの世界に召喚されたのだから。


 この程度の悪魔でアタフタしていては話にならない。それこそあの魔界将軍を倒すには程遠いと言う事だ。


 しかしナナシもキサメも知らなかった。今やあのガルーソルやカロールは魔界四天王をも凌ぎ魔王に迫る実力を持っている事を。


 正に彼らは魔界の頂点に君臨する者達だ。


 彼らに届く為にもキサメは更に修行に励まなければならなかった。


 それはヨシアやカミルもまた同じだ。今回初めて悪魔や獣人と言う存在に触れて自分達の実力の無さを切実に感じさせられたと言う所だろう。


 彼らもまたこれから益々修行に励まないといけないと思うのだった。


 それぞれの思いを胸に込めて、ナナシ達はナナシ達の道へ、そしてシメ達はシメ達の道に向かってそれぞれにまた歩み始めた。

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地上最強の傭兵・再び異世界へ編 薔薇クルダ @Hydra

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