第99話 シメの一人旅19・Aランク試合決勝戦
この戦いの主眼は相手の本当の実力を見抜く事だ。実力ではディルクの方が上なのにどうしててこのロータルがリーダーを張っているのかと言う点だ。
何か特別な力を持っている。そう考えるしかないだろう。ならその力を引き出してやろうとシメは考えていた。
その為にシメ自身も今回は実力を隠すのを止めた。
相手と対峙してシメは自分の気を解放した。
「面白い。あいつ本気を出す気か」
「何ですかナナシさん本気って」
「見てるがいい、あのシメの本気が見られるぞ」
「ええっ、今までは本気ではなかったと。ま、まさかナナシさんと戦った時の力を出すと言うんじゃないでしょうね。そんな事をしたらこの会場が、いえ、この町が吹っ飛びますよ」
「まぁ見てるがいい」
今まで完全に優位な立場にいると思っていたロータルが今では猛吹雪の前に何も持たずに立たされた様な感覚を受けていた。
「ま、まさかこいつはあのドシュレン以上だと言うのか。そ、そんなバカな事があってたまるか。あいつは俺が今まで出会った中で最強の戦士だ。ヒューマンに中にもあれ以上の戦士は見たことがないと言うのにこの女は一体何なんだ。バケモノか」
一歩一歩とシメが近づくだけでロータルは冷や汗を流していた。いや、それ以前に震えてもいた。
『ま、まさかこの俺が震えるだと。そんな事があってたまるか』
しかしこの試合場の外で見ている者にはここで何が行われているのか知る者は誰一人としていなかった。ただ一人ナナシを除いて。
「ナナシさん、これは一体どうなってるんですか。ロータルの魔力が小さくなってしまった様に感じるんですが」
「威圧だ」
「威圧ですか。えっ威圧って」
「シメが局所的に指向性のある威圧をあの敵の大将に当てているんだ。それもかなり強力なものをな」
「まさかAランク冒険者が威圧一つで怯むなんて」
「つまりシメの威圧はそれほどの物だと言う事だ。今のお前ではまだ耐えられんだろう」
「そんな威圧一つで。一体あの人は何者なんですか」
「それほど恐ろしい女だと言う事だ」
「それじゃナナシさんと同じじゃないですか」
ロータルはこのシメを前にして死の恐怖さえ感じていた。これ以上この場にいれば確実に殺されると。
なら仕方がない。最後の手段を出すしかないと一つの魔法を放った。
それはこの世の誰もが使える魔法ではなかった。まさに闇魔法。しかもそれは呪詛魔法だった。
この魔法に対抗出来る者は聖教徒教会の護神教会騎士団の高位にいる聖騎士だけが使えると言う光魔法だけだ。
しかしキサメの話では今残っているのは護神教会騎士団長のハルメル一人だと言う。
それではこの種の相手にどう戦うと言うのか。
この魔法の種類と威力を知ったシメは直ちに試合場から降りて負けを認めた。これさえ分かれば十分だと。
問題はヨシアがこの魔法使い相手にどう戦うかだ。並みの魔法では対処出来ない。ヨシアに対処出来る魔法はただ一つだ。
なるほどこれならこのロータルがドシュレンの上に君臨する事も可能だろうとシメは理解した。そしてその正体も。
シメは試合場に向かう前のヨシアの手に触れ気力の供与を与えて相手の最終魔法に対してあの技を使えと言った。
「ええっ、あれってまだ完成はしてませんが」
「それでいいわ。今はそれしかないから。後はわたしが何とかしてあげるから」
「わかりました」
ここに再び魔法使い対魔法使いの対戦が始まった。共にAランク同士だ。途方もない魔法の応酬が見られるだろうと観衆は期待し喜んでいた。
「ナナシさん、この戦いはどうなるんですか」
「ふむ、難しいな。しかしシメの奴、何故自ら戦わない。まさかあいつでもあの魔法には対応出来ないと言うのか」
「どう言う事です。あのシメさんに対応出来ないなんて。そんな魔法があるんですか」
「ああ、ある。一つだけな。それは闇魔法の中の呪詛魔法だ」
「そ、そんな。呪詛魔法なんて人間の使える魔法じゃないじゃないですか」
「そうだ。だからあいつは人間ではないと言う事だ。絶対に倒すべき、いや滅殺すべき相手だ」
「そ、そんな。それってまさか」
果たしてそんな相手を前にヨシアに何が出来るのか。
試合は予想通り魔法の応酬となった。流石はAランク同士の戦いだ。その魔法もまたものすごいものだった。
何種類もの魔法が飛び交い、もしこの中に誰かがいたら一瞬にして消滅していただろう。
ここに結界魔法がなければ会場の全員が死人になっていただろう事は確実だった。
それでも二人の勝負はつかなかった。共に互角と言った所だ。
「ディルクどう見る、この戦いを」
「確かにあの魔法使いは良い腕をしている。しかしあれではまだ無理だ。しかしあの女、いや、シメ殿と言ったか。何故あの人が戦わなかった。可能性があるとすれば彼女だけだろう」
「どう言う意味だディルク。あの女が何だと言うんだ」
「お前にはわからなかったか、あの人が使った技を」
「何だとあの技だと、俺やお前を倒した技の事を言っているのか」
「そうだ記憶にないか、あの技の事が」
「なに、ま、まさかな」
「そうだ。それだ」
これでは埒が明かないと思ったロータルは遂に闇を纏い始めた。
その時だ、ヨシアの取った姿勢は半身に構え片腕を突き出していた。
「な、なに、馬鹿な。あの技を使おうと言うのか。無理だ。お前ではまだ無理だ」
「ナナシさん何なんです。その技と言うのは」
その技こそこの世でたった三人しか継承する事が出来なかったと言う波動拳最終奥義烈破だった。
シメの持つ最終奥義は烈破に勝るとも劣らない物だが似て非なるものだ。しかしシメもまたゼロの弟子、その技の使い方は知っていた。
その技をヨシアに伝授したのだ。未完成だと知りつつ。しかしこの程度の相手になら通じるかもしれないと。
そして闇と光が交差した。その二つの人外の技は互いに殺し合い共に無力と化した。
問題はそこではない。その後に訪れるチャンス、隙だ。ヨシアは最速の縮地で接近し、シメから分け与えられた気力の残り全てを乗せて浸透勁をロータルの体に打ち込んだ。
その瞬間ロータルの身体形状が変形し悪魔の姿を現しそして息絶えた。
これにはこの試合の主催者もパーティーメンバーも会場の全員が驚いた。まさか本物の悪魔が紛れ込んでいたなど誰が想像しただろうか。
当然疑われたのはこの「銀嶺の咆哮」の残りのメンバー達だった。彼らもまた悪魔ではないかと。
しかしその疑いは神官によって晴らされた。彼らは悪魔の呪詛魔法によって縛られていただけだと。魔法を仕掛けた本人が死ねばその魔法もまた消滅する。
これによってディルク達は自由になれたと言う事だ。
最後の試合で予想外の事が起きたが結果としてヨシアの「再生の翼」が優勝と言う事になった。
しかも伝説の悪魔を倒したと言う事でヨシア達は一躍英雄扱いされていた。
ただこの試合の後ヨシアは意識不明に陥り介護室で看病を受けていた。
試合の後「銀嶺の咆哮」のメンバー達がヨシアの所に礼を言いに来た。
彼らはあのロータルと名乗る悪魔の呪詛魔法によって縛られていたのだ。
彼らはロータルを倒してくれた事に礼を言い、特にディルクとサレントはシメに向かってある事を聞いた。
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あとがき: ドミニクをディルクと変えました。
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