第98話 シメの一人旅17・Aランク試合決3
ナナシは考えていた。彼女亡き後も獣人国であの技を継承する者がいたのかと。そして今は一体誰が指導しているのかと。
シメはシメであの二人は獣人国では見た事がないが技にはまだ少し荒さはあるがしっかりと波動拳は受け継げている様に思えた。
あれならダッシュネルさんの副官位は務まるんではないかとシメは思っていた。
しかしあの二人と戦うとなるとヨシアとカミルではちょっと厳しいなと思った。
だからあの二人はわたしが相手するしかないだろうとシメは考えていた。
それはナナシも同じ事を考えていた。あの二人の相手はシメしかいないだろうと。
そしてこの最終戦の第一試合はカミルと剣士のクレグスの戦いになった。
今回クレグスは接近戦で戦えると自信満々になっていた。あんな戦闘も出来ない付与魔法師に負ける訳はないと。
前回「魔法騎士団」の二人が負けたのはカミルの奇襲戦法に付いて行けなかっただけだ。所詮魔法使いの戦闘技量とはそんな物だとクレグスは思っていた。
しかし自分には剣技がある。どんな奇襲で来ても返り討ちにしてやれる自信があると自負していた。
カミルは今回も自分自身を筋肉強化し、その敏捷性とトンファの攻防合体の技術を駆使してクレグスに挑んでいた。
クレグスは剣士だ、こんな基本動作も出来ない奴に負けるはずがないと思ったが、カミルの操るトンファの攻撃軌道は今まで経験した事もないものだった。
それはそうだろう。こんな武器はこの世にはないのだからその技法もわかるはずがない。
しかもカミルの身体能力と併用された攻撃は防ぐので精一杯だった。まさかこんな付与魔法師に自分が苦戦を強いられるとは思ってもみなかっただろう。
そしてクレグスは翻弄された挙句果てに力付きて負けてしまった。無理もない、カミルはいつもシメに接近戦での戦い方の特訓を受けていたのだから。
そして一般の予想に反してカミルが勝利を収め、この時点でカミルはあっさりと引き下がり後をシメに譲った。
これもまた初めからの計画だった。次の二人の獣人の相手はシメがすると。
これを見ていたナナシもそれが順当だろうと思った。あの二人の相手はシメ以外にはいないだろうと。
そして次鋒としてシメと最初の獣人サレントとの対戦となった。
シメは前回と同じ様に片手に盾をそしてもう一方に剣を持って対峙していた。今回サレントは剣だけだったがこれでも十分過ぎると思っていた。
ヒューマンの女、しかもEランクだと聞いている。とても俺の相手ではないと。
2-3合も打ち合えば決着が着くと思っていた。しかし意外とこのヒューマンの女は粘った。
普通ではあり得ない事だった。素でも獣人の方が腕力は強い。その上にサレントは筋力強化の上乗せをしていたのだ。
こんな事は普通ではあり得ない事だった。しかしこの時シメはサレントの全ての攻撃の軌道を読んで直接受けないで全て掠らせ流していた。
だから全く力を必要としなかった。しかしこれは相当な高等技術だ。奥伝以上でしか出来ない事だろう。
サレントではまだ無理だ。そこでサレントは一気に勝負を付けようと縮地の体勢に入った。
しかしシメはその瞬間を見逃さなかった。彼の縮地はまだ完全ではなかった。
縮地に入る瞬間に力の溜めが入ってしまう。その為に動きが一瞬止まるのだ。
その刹那を予測してシメは飛び込み剣を上段から撃ち下ろすと同時に躓いた真似をしてサレントに倒れかかって行った。
最初の太刀は受けなければならない。その太刀を受けた瞬間を狙って倒れ込んで行ったシメはシメは肘を出して猿臂で勁を打ち込んだ。
まるで中国拳法八極拳の頂心肘の様な技だった。しかしその威力は桁違いだ。
それだけでサレントは場外に飛ばされた。しかし傍目には躓いたシメにぶつかられてバランスを崩して場外に落ちた様に見えたかも知れない。
その真相を知る者はただ一人しかいなかった。
「あいつ倒れかけた様に見せかけて寸勁を肘で打ったな」
「何ですかそれはナナシさん。そんな事が出来るんですか」
「ああ、あのシメ位の腕ならな」
流石は波動拳の皆伝者、シメならではの事だろう。
会場の外に落とされたサレントですら何故こうなったのか初めはわからなかった。
そこにディルクが駆けつけて介抱しながら打たれた箇所を見て、お前もしかしたらこれはと言いかけたが止めておいた。
次はシメ対「銀嶺の咆哮」の副将ディルクだ。シメはこいつは今さっきのサレントよりも強いと思っていた。もしかすると大将よりも。
この二人の対戦はシメは前回と同じスタイルで、しかしドシュレンは素手だった。
一体何を考えているのか、戦士が素手になってどうするんだと言う所だが、ディルクはこれこそが最良の方法、いやこの相手には必要な戦闘手段だと思っていた。
そして戦闘が始まるとディルクは至近距離から熾烈の攻撃を仕掛けて来た。この一発でも食らえば体はバラバラに飛び散ってしまうだろう。
何故ならディルクはその一撃一撃に魔力操作による闘気を乗せていたのだから。これこそまさに波動拳の戦闘スタイルだった。
それに対しシメは手に持った盾で防いでいたが普通ならそんな事は不可能だった。大岩をも一瞬で砕く打撃だ。それをそんな薄っぺらい盾で防げるはずがない。
普通ならそうだが、シメもまたそこに気を乗せて対抗していた。その力はディルクの打撃に対し同等の力で完全に相殺していた。
打ち込んだディルクの方が唖然としていた。これほどの防御力と技、まるで師匠のハンナ様の様ではないかと。
そして時々見せるシメの剣技、いやあれは剣技ではない。剣の柄を使って打ち込んで来る打撃。それは自分の打ち出す拳と同等、いやそれ以上の力で体に浸透してくる。
「ま、まさかこれはあの伝説の浸透勁か。こんな技が使えるのはハンナ様お一人。いや」
ディルクがこの事実を悟った時決着が着いた。シメも前の試合の様に胡麻化して負ける方法もあったが相手が悪い。
ましてこの後に控えている大将の実力を少しでも知る為にはここから先は少し本気を出そうと。
傍目には理解出来ない事と映っただろう。何故EランクがAランクに勝てるのだと。
しかしディルクには分かっていた負けて当然だと。それはナナシも理解していた。
それを知ったディルクはその場で最上の礼をし、その別れ際に「我がパーティーのリーダー、ロータルにはお気を付けください」と。
それだけ言ってディルクは引き下がって行った。
これで勝敗は三勝0敗のシメ達の完全勝ち越しとなっていた。
後は「銀嶺の咆哮」の大将ロータルとシメと最終戦となった。ただここでシメが仮に敗れても「再生の翼」の大将ヨシアが残っている。
まだ「銀嶺の咆哮」側が有利だ。
こうしていよいよシメと相手の大将ロータルとの戦いとなった。
ただシメは訝んでいた。何故ディルクより実力で劣るロータルが大将でありリーダーなのかと。
パーティーのリーダーであると言う事はそれなりの物を持っていると言う事だろう。それが何なのか。
ここはヨシアの為にも見定めておく必要があると思っていた。それにあのディルクの言葉も気になる。
仮にここでロータルが勝っても勝率は三対一でシメ達の勝ちになるのだが、これは勝ち抜き戦だ。最後に立っていた者が勝者となる。
ロータルはここで勝って優勝を攫って行こうと考えていた。ここで勝てば更に名声が上がるし、この町で集められた大金の賞金も手に入ると言うものだ。それにそれ以外の目的もある。
この「銀嶺の咆哮」のリーダーはヒューマンの魔法使いだった。一般的にこの「銀嶺の咆哮」は剛力パーティーの様に思われているが魔法系もいたと言う事だ。
となれば最終戦はこれはまた魔法使い対魔法使いの戦いとなる。しかしこのロータルは何となく普通の魔法使いの雰囲気ではなかった。
だからこそシメはこの相手の正体を暴いておこうと思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます