第97話 シメの一人旅16・Aランク試合2

 シメが感じた違和感は何だったのか。ともかく戦って見れば分かるだろうとシメは試合に臨んだ。


 同じAランクでもさっきのAランクとは桁が違った。その魔力量が半端ではなかった。


 そして撃ち出される魔法力の強さも。これでは流石のヨシアも気をつけないと危ないなと思っていた。


 それなら一層の事ここでシメが片付けてしまっても良かったのだがそれではヨシアの成長の妨げになると思って敢えてそれはしなかった。


 この男も全属性の魔法が使える様だ。会場すら粉砕する勢いで各種の魔法がシメを襲って来た。


 勿論それでもシメの防御は揺るがない。しかしそこで不思議な事が起こった。


 視界が煙で突然見えなくなりその煙の中から人間がシメを襲って来た。


 「何これは」とシメは思ったがまさか本当の人間の姿をした者が襲ってくるとは思いもしなかった。


 しかしこれはシメにしか見えない事だった。全ての者の視界はこの煙で塞がれていた。


 そしてこれは普通の魔法ではなかった。シメはハンナの様に魔法に詳しくはないがこれは明らかに異常な魔法だった。


 まさかこれは転移魔法か。何処か別の所から戦士を呼び出したと言う事か。ならこれは明らかに違反行為だ。


 しかもこの戦士何かおかしい。シメは一人を打ち倒した。当然即死する打撃だった。


 しかし立ち上がって来た。あり得ない事だ。不死身か。いや、違うはじめから死んでいるのだ。


 この魔法使いはネクロマンサーか。まずいな。


 ともかくこの煙を消してこの現実を皆んなの目の前に晒さないといけない。


 そこでシメはコマの様に自分自身を回転させてそこに気を乗せて竜巻を作った。


 これで煙は結界ドームの上空に吹き飛んで行った。こうなれば相手の大将ガルゲッシュも闇魔法を解かなければならないだろう。


 そこでシメは魔力切れを装うって敗北宣言をした。にも関わらずガルゲッシュはその敗北宣言の後に高密度のファイアボールで攻撃を仕掛けて来た。


 余程反則攻撃が好きな人物と見受けられる。


 シメはうずくまってダメージを受けた様に振る舞っていたがダメージは全くない。


 ただシメは最後の瞬間に一つの手を打っておいた。


 そしてシメは試合場を降り、遂に大将対決になった。


 勿論シメは相手の手口を教えて目眩しを使わせない様にしろと言っておいた。


 あれさえなければ優位に試合を進められる。今回ヨシアは初めから両手にプロテクターを嵌めて試合に臨んだ。


 相手は純粋な魔法使いだ。なら相手の持ってないもので戦った方が勝機は高くなる。


 Aランク試験でのヨシアの戦い方を見てない者は魔法使いが一体何をする気だろうと思った事だろう。


 相手の大将ガルゲッシュもそうは思ったが攻撃こそ最大の防御なりと初っ端から攻撃魔法の総攻撃を掛けて来た。そしてその火力は副将の比ではなかった。


 しかしヨシアは良く凌いだ。自らの防御魔法とプロテクターに仕込まれた防御機能によって。


 これは前のカミルやシメと同じくこのパーティーには本当に魔法攻撃が効かない。ともかく全て弾かれてしまうのだ。


 こうなれば勝機はただ一つ、例の闇魔法でアンデットソルジャーを呼び出すしかない。


 しかしそれを聴衆に見せる訳には行かなかった。それが違法魔法だと言う事はガルゲッシュも知っていたのだ。


 だからこそカムフラージとしての煙だった。そこでガルゲッシュは煙魔法を使おうとしたが出来なかった。


 何故だかこの煙魔法を使おうとすると頭が痛くなって魔法を構築出来なかった。この煙魔法もまた闇魔法の一部に属するものだった。


 この種の魔法を発生させる時に脳のどの部分を一番よく使うのかと言う事をあの試合の中で確認したシメは、敗北を認めた時にそこに向かって小さな指気弾を撃ち込んでいた。


 しかしその指気弾があまりに小さいので気が付かなかったのだ。しかもそれはシメの聖気を凝縮させた気玉だった。そしてそれはその種の魔法の発生を阻害した。


 もはや表の魔法しか使えなくなったネクロマンサー、ガルゲッシュに勝機はなかった。


 ヨシアが身に付けた波動寸勁で眠らされてしまった。これでシメ達の勝ちだ。


 こうして準決勝第一試合はシメ達「再生の翼」の勝ちとなった。


 続いて第二試合は「黄金の獅子」対「銀嶺の咆哮」と言う事になる。


 しかしこの試合の勝敗は非常に判断が付きにくかった。特に「銀嶺の咆哮」側の力が良くわからない。


 それは半分獣人が入ってるからだ。獣人自体この国では非常に少ない。


 以前は獣人がこの国を支配していた時期もあった。しかし今はその獣人達もこの国を去り、それ以来獣人の冒険者の存在も本当に見る事が少なくなった。


 だから獣人とはどれほどの力を持ってるのかと言う事が普通のヒューマンには図れないのだ。


 ただシメは違った。彼女は獣人の国に住み獣人の戦士達と共に訓練をしていた。だから獣人を見れば大体の強さがわかる。


 そのシメの目から見て今回のこの「銀嶺の咆哮」の獣人達の実力はリーダーのヒューマンよりもかなり上と言う所だった。


 だから気を付けないといけないのはそのその獣人達と言う事になる。


 果たして「黄金の獅子」達はそれがわかっているのだろうか。いつもの様に獣人の力を過小評価し見下していると手痛いしっぺ返しを食らう事になる。


 先ずは先鋒同士の対決だ。これは共にヒューマン同士の対決になった。


 「銀嶺の咆哮」側は剣士のクレグス、対して「黄金の獅子」側は弓使いのマルクだった。


 これは 「銀嶺の咆哮」側に取って少し分の悪い戦いになった。遠距離から弓矢の総攻撃を受けて剣士クレグスの苦戦となってしまった。


 結局は反撃のチャンスもないまま、クレグスは負けた。


 ただここまでの戦い、簡単に極まっている様に見えるが、その攻防のレベルは並みの冒険者ではとても付いて行けるものではなかった。


 やはり流石は高ランク同士の戦いと言う事だろう。


 マルクはそのまま残り、「銀嶺の咆哮」側の次鋒は獣人のサレント、彼は戦士だった。片手の盾、もう一方に剣を持っていた。


 この戦いはさっきとは逆になった。マルクの矢が全く意味をなさなかった。全ての矢はサレントの盾で防がれ、接近を許して剣で倒されてしまった。


 勿論その矢は普通の矢ではない。しっかりと魔力を上乗せしてあったがそれでもサレントの前では役に立たなかった。


 こうして二戦目はサレントが勝ち一勝一敗となった。勿論サレントはそのまま継続し、「黄金の獅子」側は次鋒のシーフ、マレンキルクが出て来た。


 マレンキルクはスピードが自慢の剣士だった。流石はシーフだけはある。


 このスピード攻撃も重厚なサレントの盾の前では突破出来なかった。そしてマレンキルクもまたサレントに敗れた。


 これで勝敗は二勝一敗の「銀嶺の翼」の勝ち越しとなった。


 これで「黄金の獅子」側は副将の魔法使いブリキッタが出て来た。ブリキッタはAランクの魔法使いだ。


 ここでもまたヨシアとガルゲッシュの様なAランク同士の対戦となった。


 魔法使いと戦士どちらが強いのか。しかも同じAランク対決。普通なら遠距離の魔法使いの方が有利に見えるが勝負はわからない。


 この戦いは多くの人達が見ていたがその中にナナシとキサメもまたこの試合の観戦に来ていた。


 シメ達が出るのだ、当然だろうと言う事で。


「ナナシさん、今度の魔法使いと戦士の戦いどっちが勝つと思います」

「遠間で戦えば魔法使い、近間だと戦士と言うのが常識だが何しろ相手はAランク同士だ。何が起こってもおかしくはないだろう。しかし」

「しかし何です」

「あの獣人は強いな」


「獣人がですか。私は獣人に関しては知識がないのでよくわかりませんが、本来獣人と言うのは強いのですか」

「ああ、強い。中には途方もなく強いのがいる。たった一人で国一つを崩壊出来る様な奴がな」

「そ、そんな。それってもうSSランク以上じゃないですか」


「そんな奴がいたと言う話だ」

「あはは、それって伝説か御伽噺ですか」

「そうだな、今ではもう御伽噺だろうな」


 この戦いでサレントは前回と同じように剣と盾を構えていた。


 ブリキッタは流石はAランクの魔法使いだ。戦士の接近など1ミリも許す事無く四方八方から魔法攻撃を仕掛けていた。


 この飽和攻撃の前では盾も役には立たす、時間を置かずに戦士は丸焼きにされたと思われた。


 そして炎が消えた後に残った物は焼き爛れた死骸だと誰もが思った。


 この大会の主催者ももしかするともう遅いか知れないが救命隊を出す準備をしていた。


 しかし獣人サレントは生きていた。しかも火傷一つせずに。そんな事は不可能だった。あの猛火の中で生き残れる者などいるはずがないとブリキッタもそう思っていた。


「ナナシさん、どうなってるんです。あの獣人生きてますよあの猛火の中で」

「大したものだ。良く練れた魔鋼気だ。まさかあれの使える者がいたとはな」

「何なんですか、その魔剛気と言うのは」


「防御技法の一つだ。自分の体の表面に張り巡らせる結界だ。かなりの高等技術のはずだが」

「そんな物があるんですか、聞いた事もありませんが」

「だろうな、ある流派に伝わる奥義の一種だ」


「そ、それってナナシさんも使えたりします」

「さーどうかな」


 ブリキッタが唖然とした一瞬をサレントは見逃さなかった。縮地で間合いを詰めて打撃の一撃で場外に叩きだした。これでマルクの勝ちとなった。


 「黄金の獅子」の最後は大将のパウルだが、ここでサレントが下りた。何故だとみんなは驚き、所々でブーイングもあった。


 サレントに代わって出て来たのが「銀嶺の咆哮」の副将ディルクだった。勝敗は三勝一敗で「銀嶺の咆哮」が勝ち越している。


 「黄金の獅子」が勝つにはこの副将と大将の二人を倒さなければならないが大将のパウルは自信満々だった。


 こちらもAランク同士の対決だ。パウルは魔法剣士、そしてディルクはサレントと同じ戦士だった。


 このディルクと先のサレントの二人は「銀嶺の咆哮」のリーダーを支える両翼の様なものだ。そしてその実力はリーダーすらも超える。


「シメさん、今度の試合はどうなりますかね」

「ヨシアやカミルはどう思うの」

「獣人の実力と言うのが今一わからないのですが、あの「黄金の獅子」の大将の強さってハンパないんじゃないですか。ヨシアさんが戦ったガルゲッシュよりも強いかも」


「確かに魔力量ではね。それに彼の持ってる剣は業物みたいね」

「でしょう、でしょう。あれはやばいですよ」


 魔力量に関してはあのディルクはなかり落としてるなとシメは思った。本当の魔力量はあんなものではないだろうと。


 試合開始と共にパウルは全開で攻撃して来た。後一人続けて勝たなければならないのだ、こんなとこで時間を掛けてはいられないと言う事なんだろう。


 しかしディルクは良く捌いていた。魔力を纏った剣を物ともせずに。


 そして剣から放たれた魔法もディルクに届いたと思った瞬間にディルクの姿が消えていた。まるで瞬間移動の様に。


 それは何度も起こった。だからパウルの魔法もディルクには効果がなかったと言う事になる。


「どうなってるんです。彼も魔法を使うんですか、それもあの古の失われた魔法を」

「何それ、ああ、カミル君が言ってるのあの瞬間移動の事?」

「はい、そうです」

「あれはそんなんじゃないわよ」


「そんなんじゃないってどう言う事ですか、シメさん」

「あれはね幻想拳と言う技よ、まだ残像拳には届かないけどね」

「何なんですか、さっきから言ってるその技は、それも何処かの流派の技だと言うんですか」


「そうね、あれなら中伝と言ったとこかしら、それにしてもよく修行したものね」

「シメさん、何なんですかそれは、中伝とか幻想拳とか」

「それが彼が使った技の事よ。そろそろ勝ちに行くわよ」

「えっ、えええっ」


 ディルクは相手の魔法を無効にして縮地で間合いを切ってこれもまた一撃で場外に弾き飛ばした。


 こうして準決勝第二試合は「銀嶺の咆哮」の勝ちとなった。


 そして決勝戦は ヨシアの「再生の翼」と「銀嶺の咆哮」と言う事になった。


 ヨシアとカミルはこれらの強敵相手にどう戦うつもりなのか。


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あとがき:ドミニクをディルクと変えました。

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