第95話シメの一人旅14・パーティーリーダー
ナナシ達はそのまま真っ直ぐ東に向かったがシメ達は少し北東に舵を切った。
次はどんな町に辿り着くか楽しみな事だった。
その間にもシメは二人を特訓していた。特に今回はカミルを中心にだ。
カミルは基本的に付与魔法師なので直接的な戦闘能力はないに等しい。
普通はそうだがシメのトレーニングとカミルの努力によって相当なレベルで戦える様になっていた。
そしてカミルの付与魔法を自分自身に付与する事によってAランクに近いレベルで戦える様にさえなっていた。
後はそれをもう少し実践的に磨き上げる事だった。
それにしても面白いパーティだ。EランクとCランクとAランクがいてEランクがリーダーと言うのだからこれを誰が信じるのかと言う話だ。
しかしヨシアがAランクに合格してそれなりに有名になってしまったのでいつまでもシメがリーダーでは都合が悪いだろうと言う事でヨシアとリーダーの入れ替えをした。
しかし本人達の中では実力的にも今でもシメがリーダーだ。だからこれはあくまで表向きの事にしてあった。
そしてシメのパーティも少しづつ有名になって来たのでこのパーティに入りたいと言う者も出て来た。
表向きのパーティランクは中を取ってCランクと言う事になっていたが皆んなはAランク相当だと理解していた。
そして皮肉な事に事情を知らない者はパーティランクが低いのはシメのEランクが足を引っ張っているからだと思っていた。
まぁ無理もない。普通はそう思うだろうし規則的にもそうなっているのだから。
しかしシメは好きな様に思わせておいた。そう言う事に関してシメは無関心だった。
ただ中には面と向かって苦情を言う者もいた。ランクが低いのはあんたの性だと。
シメはゼロさんならどうするだろうかと思った。あの人なら強制的に黙らせるだろうなと思った。
あの人はそう言う人だ。敵対しない者には何もしないが敵対する者は徹底的に叩き潰す。それが例え言葉でも。
まだシメはそこまでは出来なかった。それはそれでシメの性格だ。それもまたいいだろう。
ただ一つ面白い例があった。ある日の事、シメが一人で町を歩いていると一人の男がシメの前に立ちはだかった。
「お前があの『再生の翼』のヘタレ冒険者か。お前があのパーティーのレベルを下げてるって話じゃねーか」
「それが何か」
「お前みたいな奴がいるからそうなるんだよ。あいつ等の名誉の為にもお前を取り除いてやろうと思ってな」
「へーわたしを取り除く。面白い事を言うわね。あんたの力でそれが出来るの」
「馬鹿やろう。俺はCランクだ。俺が入ればあのパーティーはBランクになるんだよ」
「Bランクね。あんたにはその資格も実力もないと思うけど」
「じゃかましーわ」
そう言って男はシメに襲い掛かって来たが。一瞬にして地面の上にのばされていた。背骨にかなりのひびが入った事だろう。そしてしばらくは動けないだろう。
シメも降りかかる火の粉は振り払う、確実に。それはこの世界で身に付けた事だった。
内情を知らずに入って来た冒険者もいた。いや、知ってはいたが逆にEランクがいるので無理な依頼は受けないだろうと高を括っていたんだろう。
この時は少し人手がいったので一時的にメンバーを募集した。その時に入って来たのがそのCランクの剣士だった。
パーティーの内容を見てみるとAランクの魔法使い。これは如何にランクが高くても後方支援だ。そしてもう一人は付与魔法師、これでは戦力にならない。そして最後の一人はEランクのヘタレだ。
これなら俺が第一線の花形になれるとでも思ったのだろう。そして実際の魔物討伐に出てみると相手は全てBランク以上の魔物だった。
それなのに全員が平然と倒していた。あのEランクのヘタレですら。いや、そのヘタレが一番多く倒していたかも知れない。
その剣士は死に物狂いでやっても一匹の魔物も倒せなかった。それどころか何度死にかけた事か。
こんな所にいたら命がいくらあっても足りないと一日で逃げ出した。
そんなこんなでシメのパーティーはメンバーが増える事はなかった。むしろその方が安心して活動出来ると言うものだ。
次にシメ達が辿り着いた所はヘッケン王国北東の地、このベルヘルと言う町は冒険者活動の活発な町だった。
近くに森もあり少し足を延ばせばダンジョンもあった。しかも鉱物が良く取れる所でもあったので武器等を作る鍛冶屋も沢山あった。
そしてシメ達がこの町に来た時点でシメ達のパーティーはこれまでの貢献度を考慮されてヘッケン王国よりの推薦でAランクパーティーと言う事になった。
実は国王はもっと早くシメ達のパーティーをAランクパーティーに格上げしたかったのだが、いくら何でもリーダーがEランクではそれも難しかった。
しかしシメがリーダーを降りてAランクのヨシアがリーダーになったと言う事でそれも可能になったと言う訳だ。
勿論実力ではシメの方がヨシアよりも上だと言う事は国王も知ってはいたがこれは表向きの処置だった。
その方が特使メダルも使い易いと考えたのだろう。食えない国王だった。
そこでシメ達はこの町で少し長居をして冒険者活動を楽しむ事にした。特に急ぐ旅でもなし。
そんな時だ、ひとつのパーティーがこの町にやって来た。それは他所の町では有名なAランクパーティーだった。
リーダーと魔法使いがAランクでこの魔法使いは回復魔法も使えた。そして戦士とシーフと弓使いがBランクと言う理想に近いパーティーだった。そのパーティー名は「黄金の獅子」と言った。
更にもう一つ、同じくまたAランクパーティーがやって来た。今度のパーティーは「銀嶺の翼」と言った。
面白い事にこのパーティーは混成部隊だった。ヒューマンと獣人が五分五分と言うものだった。この国ではまだ獣人の冒険者は数が少ない方だろう。
リーダーはヒューマンのAランク、そして副官の様な立場で二人のAランクの獣人が入っていた。そして後一人がBランクのヒューマンだ。ユニークなパーティーと言ってもいいだろう。そしてパーティー名は「鮮烈の嵐」だった。
更にもう一組、これもAランクパーティーだった。これは全員が四人の魔法使いのパーティーで二人がAランク、二人がBランクとなっていた。ここのパーティー名は「魔法騎団」だった。
どれもこれも一癖も二癖もあるパーティーだった。
しかし一体どう言う事だ。この町で何かがあるとでも言うのだろうか。どうしてこうもAランクパーティーがここに集まるのか。
シメ達のパーティーを入れると四組のAランクパーティーがここに集まった事になる。滅多にある事ではない。
これは何かのAランクのレースでも始まるのか。
むしろ冒険者ギルドのギルドマスターの方が驚いていた。一体どうなっているんだと。
当然これはギルドマスターもあずかり知らぬ事だった。
ともかく彼ら全員が冒険者登録をしてしばらくここで冒険者活動をすると言う事だった。
しかしそんなに多くのAランクパーティーが必要な依頼など一件もなかった。
それでも彼らはいいと言った。しばらくはダンジョンに潜るからと。
ダンジョンならランクに制約はない。むしろ高ランクの方が美味しい物を持って行ける。
こうしてダンジョンの中で魔物の争奪合戦になってしまった。
俺の所のパーティーが一番多く倒すのだとか、俺の所が一番ランクの高い魔物を倒すのだみたいな。
そう言う意味ではダンジョンに活気が出来て良い事は良い。
ただとばっちりを受けたのは新人クラスの冒険者達だった。
魔物達を片っ端から狩り取られてしまって新人達が手に出来る魔物がいなくなってしまった事だ。
流石にこれには冒険者ギルドも苦慮していた。ダンジョンでの活動を止めてくれとも言えず、また新人冒険者達をどうするかと言う事で。
そこで「黄金の獅子」は面白い事を言い出した。Aランクパーティー同士で交流試合をしないかと言うものだった。
一位を除いてそれ以外のAランクパーティーはこの町を去ると言うものだった。
これなら負けたからと言って特に実害はない。まぁ名声に少し傷がつく位だがそんなものは活動していれば直ぐに消えて行く。
と言う事で「銀嶺の翼」も「魔法騎団」も同意した。後はシメのパーティーだけだった。
ヨシアはどうしましょうとシメに相談したがシメは良いんじゃないあっさりと了承してしまった。
それで四組のAランクパーティーが戦う事になった。場所はこの前Aランク冒険者の試験場になったミヒエルと言う町の闘技場だった。
やはりAランク同士の戦いとなると会場もそれなりにしっかりとした丈夫な所でないと持たない。
その点Aランクの試験会場なら言う事はない。その申し出に対して町長も了承した。これはこれでまた一つの大きなイベントとして町も潤う。
と言う事でヨシアはまた同じ所で戦う事になった。
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あとがき:
明日からまた15日ほど海外旅行をしてきますので投稿が出来ません。
帰って来るまでの間しばらくのご猶予をいただきます。
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