第94話 ナナシのダンジョン攻略3-死滅竜
キサメは遂にこのラスボスとの戦いを始めたが流石はドラゴン、途方もなく強かった。キサメの渾身,最大の攻撃も何一つ通じなかった。
しかしキサメもドラゴンの攻撃をよく凌いでいた。並の冒険者なら、いや例えAランク冒険者と言えどもこのドラゴンの前では駆け出しの冒険者に過ぎなかっただろう。
流石は元勇者と言うべきか。しかしその勇者の力を持ってしても徐々に押され始めていた。にも関わらず相手のドラゴンは全くの余裕だった。
どうやらこのドラゴン,並のドラゴンではない様だ。もしかしてこのドラゴンはあの神にも等しいと言われる「破滅竜」と対をなすと言われた「死滅竜」なのかとナナシは思った。
もしそうなら残念ながら今のキサメではまだ倒せない。いや、このわたしでも難しいだろうとナナシは思った。しかし無理だと言わない所がナナシらしかった。
この戦いの中ではその場にいるだけでこの強力な魔力場によって並の生物など余程の防御力がない限り簡単に消滅してしまうだろう。
今まではナナシの結界魔法で守っていたがナナシは強力な魔石を使って結界を作りアルマとヨミに施しナナシもこのドラゴンとの戦いに向かった。
「大分苦戦している様だな」
「ナナシさん,こんなの反則ですよ。これってこの世の生き物なんですか」
「無理もない、神竜が相手ではな」
「神竜って何ですか。そんなバケモノがいるんですか」
そう言ってナナシはキサメの横に並び「死滅竜」を見上げた。
「小さき者よ。主は我の名を知っておるのか」
「ああ知っているとも。『破滅竜』と並び称される神竜『死滅竜』だろう」
「ほー『破滅竜』とはまた懐かしい名を聞くものだ。もう彼奴とはここ2千年ばかし会っておらんかの」
「ナナシさん、その名前,聞いた事がありますがそれって御伽噺の竜の事ではないのですか」
「神竜は現存する。わたしは『破滅竜』に会った事がある」
「そ、そんな事が」
「ほー面白い事を言うの小さき者よ。彼奴と会って主はまだ生きていると言うのか」
「ああ,そうだ。彼の方は言うほど怖い方ではなかったぞ」
「ならば彼奴が主を生かしたその力見せて貰おうか」
ここで何とか出来なければ全員殺されると思ったナナシはもう使うまいと思っていた波動拳最終奥義烈破の体勢に入った。
右手を突き出し半身になったナナシの体は黄金色に輝いていた。
「何じゃこれは」
そしてナナシから「最終奥義烈破」が放たれた。この衝撃はこの階層全てを揺るがしたかも知れない。
しかし心臓に穴を空けられた神竜はそれでもまだ生きていた。
そしてその穴は徐々に塞がって行った。ただこの神竜の力を持ってしても急速再生とまでは行かなかった様だ。
「ワハハハハ、久々に冷や汗をかいたぞ。なるほど彼奴が生かすだけの事はあると言う事か。面白い。良かろう合格じゃ、ここを出て行くが良い。そうじゃ土産を一つやろう」
そう言って神竜は一個の自分の鱗をナナシに分け与えた。
それは神竜の鱗。市場価値など付け様もないほど高価な物だった。それを持ってナナシ達は地上に転送させられた。
キサメのパーティーがダンジョンを踏破した事を知った冒険者ギルドも町も驚嘆と共にキサメの功績に沸き返っていた。まして幻の神竜の鱗を持ち帰るなど前代未聞の快挙だった。
勿論今回のダンジョン踏破の本当の功労者はキサメではなくナナシだと言う事は今回のパーティーの全員が知っていたがそれはナナシの要請により封印された。
やはりパーティーのリーダーでありAランク冒険者がそれに相応しいと。
その事に聊かの疑問を持つ者もいなかったがただサポーターを束ねるボスだけは微かな疑問を抱いていた。
「あのバケモノサポーターが何もしなかったなんてありねぇー」と。しかしそれは口が裂けても言える事ではなかった。彼もまだ命は惜しかったのだ。
そしてこの鱗、余りの代物の為に市場価格など付けようもなかった。まさに国宝級の代物だった。
それにこの鱗から放出される魔力は並みの者ではコントロール出来るものではなかった。
その為に冒険者ギルドもこれを買い取る事が出来ず、また競売に掛けても競売価格が付かず誰も落札出来ないと言う事でキサメが所有する事になった。
何時かこの鱗が役に立つ事があるだろうと。
またアルマの弟はナナシの治療の甲斐あって健康な体に戻った。この事にアルマはどれほど感謝した事か。
病気さえなければ弟のサメルは頭の良い健康な獣人だった。
能力的にも姉のアルマに勝る事はあっても劣る事はなかった。
そして弟もまた姉と同じサポーターの道を目指すと言い出した。
その話を聞いたナナシは良い機会だ後学の為に今回は自分達のダンジョン攻略にアルマと弟のサメルをつき合わせた。
既にダンジョン攻略を果たしたのに何故また潜るのか。
それはあの79階層があれからどうなったか調べる為だ。もしかするとあそこにはまだヨミの過去に関する何かがあるかも知れないと。
そして同時にダンジョンを攻略する事でアルマの弟にダンジョンに付いて学ばせようと言うナナシの意向だった。
アルマの弟ならきっと色々な事を吸収し学ぶだろうと。
そしてその79階層に辿り着いてみるとそこにはもう鳥居も祠も何もなかった。あの狛犬の像すらも。もうまるで用は済んだと言うように。
ただ一つあの祠のあった跡に直径30センチ位の石がありそこから何か不思議な力を発していた。
その石を動かせてみるとその下から首飾りが出て来た。その中央に小さな不思議な形の石が付いていた。
そしてそれを勾玉だと理解したのはキサメだけだった。
ただヨミが何故かその勾玉を見て懐かしそうにしていたのでその首飾りはヨミに掛けてやる事にした。
すると不思議な事にその怪しげな勾玉の力はヨミの体の中に溶け込み極普通の飾り石になってしまった。
不思議な事もあるものだと思ったがヨミに異常がなければそれでいいだろうと言う事にした。
そして祠のなくなったこの79階層は本来のダンジョンに戻っていた。それこそAランクの魔物が跋扈する魔層だった。
並みの冒険者ではここを攻略する事はまず無理だろう。 その事も含めて冒険者ギルドに報告しておいた。
これでやるべき事は全て終わったとナナシとキサメはこの町を去る事にした。
アルマとサメルはナナシとキサメに心の底から感謝の気持ちを伝えていた。
そしてこれからは兄弟二人してサポーターとして恥じない人生を歩んで行くと言った。
アルマの弟ならきっと良いサポーターになれるだろうと思いお互いの再会を誓って別れた。
こうしてナナシ達は謎の少年ヨミを連れて次の冒険に向かって行った。
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