第93話 ナナシのダンジョン攻略2-ラスボス
アルマは弟がそんな事になっているとは露も知らず家に戻ってみるとそこに弟がいたので驚いて言葉が出て来なかった。
弟から詳しい話を聞いてナナシさんが弟を救ってくれたんだと言う事がわかってアルマは涙を流していた。
あの人達を裏切った自分を助けてくれた事に対して。
その後サポーターの何人かが消えた事は他に職でも求めて何処かに行ったんだろうと言う事になった。
この件に関してはあのサポーターのボスも口が裂けても何も言わないだろう。命が惜しいので。
キサメには今回の事は後で報告しておいた。
「そうですか、そんな事になってたんですか、私は全く気が付きませんでした。まだまだですね」
「それでいい。あんたは冒険者活動に専念してくれ。だからこそ相手を騙せたんだから」
「そうですか、それならいいんですが。それでこれからどうするんですか」
「それは勿論ダンジョン踏破だ」
「ですよね」
こうして再びキサメ達のダンジョン攻略が始まった。この頃には元気になったアルマが嬉々としてサポーターに専念していた。
アルマのサポートは正に痒い所に手が届く程の気配りの行き届いたものだった。
そしてその更新記録は毎日冒険者ギルドに届けられ、それを聞くたびにみんなが歓喜した。それは冒険者達に取って希望と可能性の光だった。
キサメ達の攻略はとうとう70階層に届きあと10階層を残すのみとなった。
この辺りになって来ると魔物のレベルも上がり、Bランクがざら、時にはAランクも出て来るようになっていた。
しかしそれでもキサメ達の敵ではなかった。アルマは思っていた。一体この人、いやこの人達の強さは何処まで届くんだろうと。
そして遂にキサメ達は79階層に来た。ここは最終階層の一つ手前。ここさえ攻略すれば踏破に王手が掛かる所だ。
しかしここは何だかおかしい。魔物が一匹もいなかった。何故とキサメは思った。
いや、全くいない訳ではない。弱い魔物ならいた。しかしここは最終層の一つ手前だ。ここに相応しいそれ相応の魔物の気配が何も感じられなかった。
それともそれよりも強い魔物がいて他の魔物達はみな食べられたかそれとも逃げたか。
キサメとナナシは意識センサーを広げて周りを探ってみたがやはり強い魔物の意識や魔力は感知されなかった。
まるでここだけが空洞化したダンジョンの様に。普通はそんな事はあり得ない。きっと何かの理由があるはずだとキサメとナナシは更に奥まで探知範囲を広げて行った。
そしてやっと何か小さな強い意識を拾った。何だこれは。
その意識の感じられた所に行ってみるとおかしな物が建っていた。
ナナシもアルマも初めて見る物だった。しかしキサメが「こ、これって鳥居じゃないですか」と言った。
「『鳥居』何だそれは」
「えーっとですね、私の故郷で神様を祭る館の門に当たるものです」
「神様の館、ではこの奥には神の館があると言うのか」
「さーどうでしょう。わかりません」
答えたキサメの方がうろたえていた。ここは異世界だ。その異世界に何故日本の鳥居があるのかと。
三人がその鳥居を潜ると何かが変わった。まるで別の世界に入った様な。ナナシはこれは一種の結界だなと理解した。
中に入って行くと少し広い庭を経てその奥に祠があった。これでは本当に日本の神社だ。
所が奥に進むと祠の前に設置してある二匹の狛犬が突然実体化して襲って来た。
確かに狛犬の役割は神聖な場所を守る物ではあるがまさか本当に実体化するとはキサメには想像もつかなかった。
その為に反応が少し遅れてしまった。普通の冒険者としてならどんな魔物の攻撃にも後れを取る事はないだろう。
しかし事が事なだけに、余計な知識があるが為にその反応が遅れ狛犬の爪によって腕を傷つけられてしまった。
その点ナナシは流石にこの世界の住人だ。ちゃんと対応していた。
戦いながらもナナシはキサメに治癒ポーション放ってよこした。流石に戦い慣れている。
ポーションを飲んで傷を治したキサメは目が覚めてやっとこの狛犬と向き合う事が出来た。流石は元勇者と言った所か。
この後の戦いは想像を超えたものだった。相手はまさにSランク級と言っても良かった。
なるほどこれならこの地の強力な魔物達がいなくなった理由も理解出来ると言うものだ。
この鳥居の中に入り込んでこの狛犬達によって討伐されてしまったと言う事か。
ともかく激戦の末にナナシ達はこの狛犬を倒した。するとまるで煙の様に消えてまた元の石造の狛犬に戻った。
これはどう言う事だ。狛犬達の役目は終わったと言う事なのか。それともまた復活して来るのか。それは分からないのでナナシ達は慎重に歩を進めた。
するとやはりキサメの想像通り小さな祠があった。まさにあの狛犬達はこの祠を守っていたと言う事になる。
注意をしながら祠を覗いてみると中に何かがいた。何だあれは人か。それも子供だ。歳の頃なら4-5歳と言った所だろうか。
まさかあれも物の怪かとは思いながらもキサメはゆっくりを祠の扉を開いてみた。
その小さな子供は横になって眠っていたがその周りには結界が張られてあった。
そうか、あの時感じた小さな意識とはこの事だったのかとナナシもキサメも理解した。
ただアルマは一連の事が理解出来ずただただ唖然としていた。
これ位の結界なら問題ないとナナシがその結界からその少年を引き出した。
そして体を調べたが特に怪我をしている訳でも病気に掛かっている訳でもなかった。ただ眠っているだけだった。
その子供はどう見ても日本人の子供に見えた。そこでキサメはその子供を起こしてみる事にした。
何度か揺すって声を掛けているとようやく子供は目を覚ました。
「あ、あのー僕は一体ここで何を」
ポカンとした感じで周りを見つめていたが、想像したよりも意識ははっきりしているし反応もしっかりしていた。
むしろその意識は大人びていると言っても良かった。
どうしてこんな祠の中で寝ていたのかとキサメが尋ねたら、少年は神様に召されてここに来たが疲れたので眠っていた言った。
それ以外の事は何もわからないと言った。自分の事も両親の事も何処に住んでいたかも。ただ不思議な事に自分名前だけは分かる様で僕は「ヨミ」ですと言った。
不思議な事だ。普通記憶喪失になると自分の名前も分からなくなるものだがこの少年は何故か自分の名前だけは覚えていた。
そしてキサメにわかったのはこの少年はこの世界の言葉と日本語も話せると言う事だった。
なのでやはりこの少年は日本から来た日本人だと言う事になる。しかしそれ以外の事は何一つわからなかった。
ただこの少年をここに残したままで行く訳にも行かず、取りあえずは一緒に連れて行く事にした。
訳のわからない少年を連れてダンジョン攻略など飛んでもない話だが、事ここに至ってはそれも致し方なしと言う事で先に進む事にした。
それにこの少年をこの聖地から連れ出しても狛犬は再び襲ってくる事はなかった。まるでもう自分達の役目は終わったと言わんばかりに。
ただ少年がお腹が空いたと言うので休憩にしてみんなで食事をする事にした。
不思議な事にこの少年、今のこの状況に何の驚きも悲しみも恐怖も感じてはいない様だった。
まるであるがままを受け入れている様に。大人でもここまで冷静ではいられないだろうと言うのに何と言う強靭な意思を持っていると言うか肝が据わっていると言うか。
ともかく普通の少年でない事だけはキサメにもナナシにもいやアルマにもわかった。
このまま少年を町に連れて行きそこに置いておく訳にも行かず、仕方ないのでこのまま最後まで連れて行く事にした。
そして遂に最後の階層80階に辿り着いた。するとそこにはお約束のボス部屋の扉が大きく正面に立ちはだかっていた。
泣いても笑ってもこれが最後だ。キサメはその扉を押し開いた。
そしてそこに見たものは、まさかと思う反面やはりと言う気もあった。
それは紛れもないドラゴンだった。この世界最強の生物だ。物理的にも精神的にも。
まずこのドラゴンに魔法は効かない。いや、効かない事はない。しかしそれは人類を超えるレベルの魔法でないとだめだと言う事だ。
そんな魔法を使える者はこの世でただ一人、伝説の大魔法使いカラス位のものか。いや、ハンナならそれも可能かも知れないが。
ともかくキサメとナナシは目の前のドラゴンと対峙した。
「ほー珍しいな。ヒューマンがここに辿り着いたのは何百年目だ」
「お前がこのダンジョンのラスボス、つまりここの守護者と言う訳か」
「小さき者よ、間違えるな。我はこのダンジョンに束縛されるものではない」
「な、何んだって。ではお前はこのダンジョンが産んだ魔物ではないと言うのか」
「そうよな、ここは居心地がいいのでな。一時しのぎの場所として使っているだけじゃ。しかしいつの間にか我がここのラスボスと呼ばれるようになってしまった様だが、それもまた良しじゃ」
「そうか、ではお前を倒したらどうなる。我々はこのダンジョンから地上に戻る事が出来てダンジョンは再生されるのか」
「まぁそれは可能じゃろう。そう言う采配は我に任せれているよってな」
「そうか、わかった。では倒させてもらおう」
「面白い事を言うの、小さき者よな。ではその力見せてもらうか」
こうしてドラゴン対キサメの戦いが始まった。一応キサメがこのパーティーのリーダーであり、Aランク冒険者であり、それよりも先にキサメはこの世に召喚された勇者だ。
こう言うこの世界のバケモノと戦う為にこそ勇者は存在する。
それを理解しているナナシは後ろにさがりアルマとヨミの防御に回った。
そしてとうとうこのダンジョン最後にして最大の戦いが始まろうとしていた。
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後書き:申し訳ありませんが今日から4日間、ちょっとした旅行に出ますので投稿は休ませていただきます。
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