第91話 ナナシ達のサポーター
ナナシ達はシメ達から別れてここヘッケン王国南東部の町アルビノーに来ていた。ここにはダンジョンがあると言う話だったので。
そこで早速キサメは冒険者登録をした。この前のAランク試験の評判が高くて、ここでもキサメは一種の有名人になっていた。
しかもAランクで一人冒険者ともなればサポーター達に取っては願ってもない上客と言う事になる。
この冒険者についていけば基本報酬は同じとしてもその戦果に応じた余剰金も入ると言う計算だった。
しかもそれがAランクともなると桁違いになる。それは誰でもキサメのサポーターになりたがる訳だ。
しかしここに一つ問題があった。
キサメは未だに一人で冒険者活動をやっている。しかし実際にはナナシとの二人のパーティーの様なものだ。
ただナナシは冒険者登録をしてないので名目上キサメの専属のサポーターと言う事にしていた。
そこが問題だった。キサメには既にサポーターが付いていると言う事だ。
しかしそれでもまだチャンスはある。それはそのサポーターはここのダンジョンの事を何も知らないと言う事だ。
ダンジョンはそれぞれのダンジョンで特徴があり、その内部も全て違う。それを一番よく把握しているのはサポーター達だ。
彼らはここでは自分達こそがここでのプロフェッショナルだと思っている。
他所から来たサポーターにここのダンジョンの事はわからないと。あれでは単なるに持ち運びに過ぎないと。
ある日ナナシがここのダンジョンの下見に来た時にダンジョンの入口にはいつもの様に多くのサポーター達が群がって冒険者の品定めをしていた。
普通サポーターを選ぶのは冒険者だが不慣れな冒険者などは逆にサポーターに選ばれてしまう。
そしてここにはそれを取り仕切るボスの様な者がいた。
ナナシがダンジョンの入口に立って中を意識センサーで探っているとここのボスがやって来た。
「あんたか、あのAランクのキサメに付いてるサポーターと言うのは」
「そうだが、それが何か」
「サポーターにはサポーターの仁義って物があってな、ここではここのルールに従ってもらうぜ」
「何の事だ」
「つまりここではここのサポーターに任せろと言う事だ」
「それは困るな。わたしはキサメの専属だ」
「それならそれでもいいが、ここのサポーターも嚙ませろと言ってるんだよ」
「つまり分け前をよこせと言うのか」
「そう言う事だ」
「断る」
「何だとてめー、ここのダンジョンの事は何も知らないくせに偉そうな事言うんじゃねー。冒険者が迷って危険な目に遭ったり罠に嵌ったりしたらどうする気だ。それはみんなサポーターの責任になるんだぞ」
「心配するな、わたしはそんなヘマな事はしない」
「何だと、てめーに何がわかると言うんだ」
そう言われたナナシは、このダンジョンの規模と内容、各階層の魔物の種類の強さなど、かなりの経験者になってやっとわかるような事をすらすらと語った。
これには流石のサポーターのボスも驚いてしまった。
わたし達に追加のサポーターはいらない。そう言ってナナシが背中を向けた時、そのボスがナイフを握ってナナシを殺そうとしたが、その時吹き荒れた威圧にそのボスは硬直してしまった。
今までの長いサポーター人生の中でこれほどの威圧を出せる冒険者には出会った事がなかった。
しかもこいつは冒険者ですらない。一介のサポーターだ。それがどうしてこんな物凄い威圧を放てるんだ。
ボスは体が硬直して動けなかった。それどころか自分は殺されるとすら思った。
その瞬間に急にその威圧が去ってそのサポーターは去って行ったが、もう二度とこいつに絡むのは止めておこうと思った。
ナナシがさっきのサポーター達の溜まり場を通り過ぎようとした時に、みんなの輪から少し離れた所にポツンと一人座っている兎族の獣人のサポーターがいた。
獣人のサポーターとは珍しいなと思った。この国が獣人の国だった頃には獣人のサポーターも多くいた事だろう。
しかしヒューマンの国に戻ってからは獣人達も撤退して行きこの国に残ってサポーターをする獣人など数えるほどしかいないだろうと思われた。
同じ仕事をするにも獣人と言うだけで条件は過酷になるんではないかと思われた。
しかしそれでも食って行く為にはやらないといけない事もあるのだろう。
ナナシは昔の話を思い出していた。一人の成功した獣人の女の子の話だ。
その子は小さい時から奴隷だったと言う。厳しい生活を余儀なくされたがある日一人のヒューマンに救われて、その後はそのヒューマンの為に尽くし、後世は大成功を収めたと言う話だ。
しかしその過程は楽ではなかっただろうし、例え後に成功したとしてもそれが本人に取って幸せだったかどうかはまた別の話だ。
しかしその獣人はきっと自分の人生に満足し幸せだっただろうなとナナシは思った。
心から尽くせる人がいると言う事はそう言う事ではないだろうかと思った。自分には出来なかったが。
ナナシはその獣人の所に行って、何故お前はみんなの輪に加わらないんだと聞いた。
ボクは獣人ですからとその一言が返って来ただけだった。しかしその一言が全てを物語っていた。
「いいだろう。お前をサポーターとして雇ってやろう」
「や、雇ってやるって、あなたもサポーターじゃないんですか」
「明日の朝、ここで待っているといい」
そう言ってそのサポーターは去って行ったが、一体どう言う事なのか、このサポーター、アルマには訳がわからなかった。
翌朝もアルマが一人ポツンと待ってると昨日のサポーターがやって来た。しかも一人の冒険者を連れて。
長年この仕事をやってると服装と動作を見ただけで冒険者かどうかはわかるものだ。しかもそのレベルもある程度は。
「昨日話してたのはあの子だ。いいよな」
「ええ、ナナシさんがそう言うのなら私に依存はありません」
「あのさー、今のあんたはAランクの冒険者なんだからその言葉使いおかしくないか。普通に行こう」
「そう言われても。わかりました頑張ります」
と言う事で二人はアルマのもとに行って、今日からのダンジョン踏破に付き合ってくれと正式にサポーターとしての契約をした。
「ええっ、本当にボクでいいんですか」
「いいわよ。これからよろしくね」
「は、はい。頑張ります」
この光景に周りのサポーター達は驚いていた。あのAランクの冒険者がアルマなんて獣人のサポーターを使うなんてと。
まして一人専属のサポーターがいるのに一体どうなってるんだと。
昨日ここのボスがあのサポーターに引導を渡したはずなのにそれは実行出来なかった。
それどころかボスからは絶対のあのサポーターには手を出すなと釘を刺されていた。だからこの結果についても何も言えなかった。
キサメはこの新しいサポーターを連れてナナシと共にダンジョンに潜って行った。
このサポーターアルマはまだサポーターとしての経験は浅いが実によく勉強していた。
何処にどんな魔物がいてどの様な能力と特徴を持ってるとかそう言う事が完全に頭に入ってる様だった。
そしてこのダンジョンの作りそのものに関してもかなりの知識を持っていた。
一体どうしてその知識を得たのかと聞いたら、ダンジョンの潜る度にメモを取ってそれをいつも暗記していたと言う。
などほど勉強熱心なサポーターだった。これなら安心して任せられそうだ。
「あのーちょっと聞いていいですか、どうしてキサメ様の持ち物はそんなに少ないんですか」
「様はいいよ。それに私一人だからね。そんなに持ち物はないのよ。それに必要ならナナシさんが、いや、ナナシがやってくれるから」
「そうなんですか。わかりました。でも必要になったらいつでも言ってください。ボクは獣人ですから体力はありますので」
「わかったわ。ありがとうね」
「いいえ、どういたしまして。ボク感謝してるんです。こんなボクを雇ってもらって」
こうしてキサメ達は5階層を過ぎようとしていた。
「あのーここまで一匹の魔物も倒しておられませんがそれでいいんですか」
「いいのよ。この辺りはまだ初級クラスでしょう。そんな所の魔物を私が狩ったら若い冒険者達が困るでしょう」
「確かにそうですがそれを実際にやってくれる人は少ないんですよ。楽出来ますし、それに数集めればそれなりにはなりますから」
「なるほどね。でもそれって新人には酷な話よね」
「はい、そうですが現実はこんなものです」
なるほど理想と現実とは違うと言う事か。それはわかってはいたが現実の話としてそれを聞くと嫌になって来る。
取り合えず7階層辺りで少し魔物を狩っておいた。あまりに何もしないではギルドも困るだろうしアルマへの報酬にも響くので。
表向きには入ってないが、冒険者が魔物討伐に成功するとそれなりの成功報酬の様なものがサポーターに渡されると言う事がある。
ただし全く渡さない冒険者もいる。まぁこれは言ってみればチップの様なものだ。
そしてキサメは今日の成果に合った報酬をアルマに渡した。
これにはアルマ自身が驚いていた。今までこんな物は貰った事がないと。それはきっと彼女が獣人だからだろう。こう言う所にも差別はあるようだ。
ここまではそれりの成果を得たので続きはまた明日する事にしてその日は解散した。
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