第90話 シメの一人旅13・幽霊の正体
ファーメル伯爵家の騒動も終わって、これでやっと一安心出来ると思っていたが、カミルがまだ一つ残っていませんかと言った。
それは何かとシメが尋ねると、それは幽霊の正体ですよと言われた。
確かにあの幽霊の正体についてはまだ解決していない。そしてまたこれにはキサメも関わっていた。
なのでこの件が解決するまでキサメもまたこの町に滞在すると言った。そうなると当然ナナシもだ。
ナナシもまたそれなりにこの幽霊には興味を持っていた。転移魔法を使うかも知れないと言う幽霊に。
そんな魔法を使える者はもうこの世にただ一人、伝説の大魔法使いと言われたカラスだけだろう。いや、ハンナなら使えるかも知れないとシメは思っていた。
しかし問題は何処をどう探せばいいのかと言う事だ。その幽霊はファーメル伯爵家の関係者を襲っていたがもうファーメル伯爵は死んでいない。
なら次は誰を狙う。誰もいないだろう。
そもそも何故あの幽霊はファーメル伯爵家の関係者を襲っていたのか。
それはファーメル伯爵家の誰かに恨みがあっての事だろう。いや、ファーメル伯爵その人かもしれないがそのファーメル伯爵は既に処刑されている。
ならもう狙う相手はいないはず。なら幽霊はもう出ないか。
しかしここでまた新たな犠牲者が出た。その手口は今までの幽霊の手口と同じだった。まだ幽霊はいたと言う事だ。
そして今回の被害者は奴隷商だった。つまりそれはファーメル伯爵に奴隷を斡旋していた人物と言う事か。
シメ達はこの事から幽霊はファーメル伯爵と奴隷に関係のある者と言う結論に達した。
しかしあの奴隷は半分が人族、そして後の半分は獣人だった。そんな関係者であれだけの魔法力を持つ者がいるのか。
ならもしかしてエルフの関係者か。しかしその様には見えなかった。
シメ達は保護してある元奴隷達の所に行ってみた。今ではその子供達はみな養護施設で暮らしている。
中には両親が見つかった子もいてそう言う子供は親元に引き取られて行った。しかしみんながみんなそうではない。
元々奴隷になる子供達と言うのは暮らしも貧しく、または虐待等で親から見放され逃げ出した子供達も多い。
もしくは強制的に拉致されたとも考えられる。
だからいくら奴隷から解放されても行く当てがないのだ。だからこう言う所でも生活して行けるようになっただけでも随分と改善されたと言う事だ。
その子供達は下は4歳くらいから上は17.8歳くらいまでいた。
シメもみんなも全員を見て回ったが、これと言って注意するようなものはなかったが、ただ一人ナナシだけが何かを考えていた。
子供達と幽霊を繋げるものはこれと言ってなかったので、その周辺をもう一度調べてみる事にしてその日は引き上げた。
ただ夕方になってキサメがナナシがいない事に気が付いた。まさか道に迷ったと言う事でもないだろうし、あの人を襲ったり誘拐しようなんて物好きは地獄行きだろうしと思っていた。
その頃ナナシは隠形の術を使って養護施設に中に潜んでいた。ナナシの隠形の術はシメと同じレベルだ。
その存在に気付ける者はまずいない。
そしてナナシが想像していた通りそれはやって来た。
「やっぱり来たわね。あんたが幽霊」
「何者だ。何処にいる」
「やっぱりあんたでもわからないか。私はここよ」
そう言ってナナシはその幽霊の前に姿を現した。これには流石の幽霊も驚いた様だった。自分に認識出来ない者がいた事に。
「お前は何者だ」
「あんたもう止めない。ファーメル伯爵は私達が捕らえて王城に突き出して処刑されたわ。それにあんたはそれに関わった奴商人も殺した。もうこれでいいでしょう」
「しかしヒューマンは許さん」
「そうね、あんたの仲間の魔族の子供を誘拐したのはヒューマンだからね。きっとその時あの子の親も殺したんでしょうね」
「何故だ。何故俺が魔族だとわかった」
「以前にね、魔族と会った事があるのよ。それにあの子魔族よね。同じ匂いがしたわ」
「ほーヒューマンで魔族を知る者がいるとはな」
「復讐は何も生まないわ。負の連鎖が続くだけよ」
「ヒューマンのお前に何がわかる」
「わかるわよ。ヒューマンの中には魔族に両親を殺された者もいるからね」
「それは悪魔人だ。俺達ではない」
「なら尚更の事でしょう。あんたがこれ以上やったらまたヒューマンと魔族の戦いの再現になるのよ」
「しかしそれでもヒューマンは許せん。殺されたのは俺の兄夫婦だ」
「それは無念だったでしょうね。でももう止めてくれる。これ以上やると言うのなら力ずくでも止めなければならなくなるわ」
「お前達ヒューマンの力で俺達魔族に対抗出来るとでも思っているのか」
「それはやってみなければわからないわ」
こうしてナナシと幽霊こと魔族の戦いが始まった。
魔族は魔法に長けているし体力もヒューマンより優れている。それにこの魔族はAランクを超えていた。
魔族は数々の攻撃魔法を撃ち出してきたが全てナナシの剣に弾かれていた。何一つ有効にはならなかった。
そんな馬鹿なと今度は魔族は自分が最も得とする究極奥義を撃ち出した。
それは魔弾丸と呼ばれる技だった。今まで誰一人として避ける事の出来なかった技だ。何故ならそれは魔法ではなかったからだ。
なのにこの女はそれすらもかわした。しかも意識すらせずに。そんな事が出来るのは彼の知る限り総師ただ一人だけだった。
「何故だ。何故お前にそんな真似が出来る。これは」
「そうよね、これは魔法ではないわ。魔力操作が出来て初めて出来る技よ」
「そ、そんな、何故お前がそれを知る。ま、まさか総師が仰っていたこの世に二人いると言う高弟のお一人なのか」
「でも総師とはまた随分と大層な名前を付けたものねあの魔族も。波動拳の継承者でいいんじゃないの」
「波動拳、やはり貴方様は。申し訳ありませんでした。師が仰っておりました。ヒューマンにも魔族よりも強い者がいる。そして魔族にも獣人にもヒューマンにも囲いを作らない心の広い方がいると。その方こそが波動拳宗家だと」
「ならあんたもその系譜を継ぐのならくだらない選民意識は捨てて宗家の境地に立ちなさい」
「はい、申し訳ありませんでした。憎悪で感情を制御する事が出来ませんでした。武人としては失格ですね。もう一度一から出直します」
「わかったらそれでいいわ。あの魔族の子供を連れて行きなさい。後は私が何とかするから」
「はい、ご配慮感謝いたします、師よ」
「わかったら早く行きなさい」
「はい」
この幽霊はどうやら強力な魔石の力をかりて転移魔法を可能にしていた様だ。だから乱発は出来ない様だった。
幽霊は子供を連れて消えた。彼に取っては甥に当たる子だ。しっかり面倒を見てくれるだろう。
そして幽霊に関してはナナシが問題のない範囲で話しておいた。
これでここでの仕事は本当に終わった事になる。さてこれからどうするかだがシメ達はいつもの様に冒険を続ける事にした。
ナナシ達も冒険は続けるがシメ達とは少し違う目的があるので別々に行動する事にした。
またの再会を誓って。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます