第88話 シメの一人旅11・Aランク試験最終日
今日はAランク試験の最終日だ。
昨日は準決勝まで進んだが1日置いて決勝は今日になった。双方共に万全な状態で戦ってもらいたいと言う心遣いなんだろうか。
ともかく双方共に一日とは言え休めた事は助かった。決勝はキサメとヨシアだ。
キサメは剣士でありヨシアは魔法使いと言うお互いのジャンルは違う。
しかし事魔物を相手にした時は、どちらのジャンルであろうかが関係ない。要は勝つか負けるか生きるか死ぬかだ。
そう言う意味で今回はその実力の全てを試される事になった。
キサメには例のサポーターとされているナナシと言う者がコーナーについた。ヨシアにはシメとカミルがついた。
もしヨシアに万が一の事が起こった時にはカミルが治癒させる事になっていた。
そしてこの時初めてシメは相手の相棒を見た。そして感じた、強いと。いや途方もなく強いと。わたしで勝てるだろうかと。
カカシもまたシメを見ていた。こんな強い人間は始めてみると。
普通の人間にシメの強さは見抜けない。魔力がないのだから。ではナナシは何を持って強いと感じたのか。
遂にここにAランク受験者による最終選考の試験が始まる事になった。
試合場に立つのは剣士のキサメと魔法使いのヨシアだ。この試合には多くの冒険者と町の住人達が見に来ていた。それも領地を超えて。
それはそうだろう。Aランクともなると滅多に見られる試合ではない。
しかもその力は軍にも匹敵すると言われるバケモノ達の戦いだ。見逃がして良いものではない。
そして試合の幕は切って落とされた。
定石通りヨシアは遠間からキサメに魔法の嵐を見舞った。キサメは全てをかわしていた。時には体捌きで時には剣捌きで。
全ての魔法がキサメに届く事はなかった。これは初めからわかっていた事だ。こんな簡単な事で倒せる相手ではないと言う事は。
「おい、どうなってるんだ。ヨシアの奴は勝てそうなのか」
「何あんた。ここで何やってるのよ」
「何ってお前、応援に決まってるだろうが」
「ヨシアに負けたくせに何が応援よ」
「うるせー。でどうなんだよ、勝てるのか」
「さーどうかしらね。相手は相当強いからね」
「おいおい、まさかお前より強いって事はないだろうな」
「さーどうかしらね」
遠距離ならヨシアが有利だと思う者も多くいたがそんな簡単な物ではなかった。そもそもその魔法も当たらないのではどうにもならない。
しかも相手は剣士だが斬撃を飛ばして来る。これはもう魔法攻撃に勝るとも劣らない遠距離攻撃だ。
ヨシアが防御魔法でこれを防げばその分間合いが削られ剣による攻撃を受けやすくなる。
しかも相手は剣に関しては達人クラスだ。安易な防御魔法でどうにかなる様な相手ではない。
いい加減な防御魔法など切り割いてしまう。しかも長引けばやはり魔法使いは不利になる。魔力の消費は剣士よりも魔法使いの方が激しい。
以上の事を鑑みると遠距離だからと言って決して魔法使いの利点には繋がらないと言う事だ。
そろそろ攻防も佳境に入って来た。ヨシアも何時までも魔法で対応出来る訳ではない。その魔力も削られてきている。
キサメの接近戦を許しヨシアの体のそこかしこに切り傷も増えて来た。さていつまで持つかだ。
ここで一つ不思議な事が起こった。ヨシアが結界魔法を解き両手にプロテクターを出現させた。
一体何を考えているのか、そのプロテクターでキサメの剣を防ごうと言うのか。それは魔法使いには無理な話だ。
所詮技術体系が違い過ぎる。剣士相手に付け焼刃の体術でどうこうなるものではない。
これを勝機と見たキサメはここで勝負に出て来た。この距離を瞬時に消した。それは縮地を使ったのだ。
この技術を知らない者にはキサメが瞬間移動を使った様に見えた事だろう。
しかしその時ヨシアもまた間合いを外していた。そんな馬鹿なとキサメは思った。あの縮地から逃げられる方法などない。
それはヨシアが氷魔法を使って一瞬縮地の足を止めたのだ。これは縮地の構造を熟知してないと出来る技ではなかった。
しかしどうしてそんな事が出来るのか。そうか、かってシメと戦った時、シメは見事な縮地を使っていた。もしその知識がヨシアに伝授されてたとしたら。
危ない。間合いを切ろとしたその瞬間にヨシアは近間に入り込んできていた。
そしてそこで壮絶な接近戦になった。これはもはや剣士対魔法使いの戦いではなかった。剣士対拳闘士の戦いだ。
キサメの剣は全てヨシアの手甲によって防がれ突き蹴りの攻撃が雨あられの如く襲ってきた。
これもまた達人の域に達した攻撃だった。到底魔法使いがやる攻撃ではなかった。
「おい、あいつは何をやってるんだ。あれは何だ。あんな魔法使いが何処の世界にいる」
「いるのよ、ここにね。あれは魔闘拳の使い手よ」
それは剣と拳の壮絶な戦いだった。そして距離を取ればどちらからも魔法と斬撃が飛び交う。もはや四次元的な戦いだった。
こんな戦い誰が想像しただろうか。
そして決着は双方場外と言う事で勝負がつかなかった。しかし会場は割れんばかりの拍手に覆われていた。
そして主催者は双方引き分け、双方にAランク合格と言う結果を与えた。
これは正に近代稀に見る壮絶な名勝負となった。そして誰もが彼女達のAランクに文句を言う者はいなかった。
「全くなんて奴らだ。俺が負けたのも無理ないな」
「当り前じゃない、あんたではまだまだ役不足よ」
「何だと、見てやがれ。次は必ず勝ってやるからな」
「次はもうないんじゃないの」
「うるせー」
試合を終えて、シメ達とキサメ達はお互いの健闘を称えて双方の祝勝会を開いた。
その時ナナシがヨシアに聞いた。あんたのその技誰に教えてもらったのかと。
「えっ、これですか。これは私達のリーダーにです」
「リーダーってこの人?確かEランクだと聞いたけど」
「はい、そうですけど私よりも強いんです」
「わたしも聞きたかったんだけど、あなたのその縮地、誰に教えてもらたの」
「えっ、これですか。これはビーと言う人からです」
「ビー、そこのナナシさんからじゃないの?」
「いいえ、ナナシさんには瞑想の仕方とか魔力操作の仕方とかを教わりましたけど技は何も教わってません」
「あんたこそヨシアにあの寸勁を教えたのはあんただろう。あの技、誰に習った」
「やっぱり知ってたんだ寸勁だと」
その時カタカタとテーブルが震え二人の目から火花が飛び交っていた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよお二人共、今日は祝勝会なんですから」
「そうだったわねカミル君。ごめん、ごめん。みん飲み直しましょう」
もう少しであわやの惨事になる所だったがカミルのお陰で事なきを得た。
こう言う時はやはりカミルのあの温かみのある性格は場を和らげる良い薬となる。それは言ってみればカミルの取り柄の様なものだ。
しかし当の二人は後日またゆっくりと話しましょうと言う事でその場は終わったが、本当に話だけで済むものかどうか。
「シメさん、どうしたんですか。あのナナシさんと言う人がそんなに気になるんですか」
「そうね、気にならないと言えば嘘になるわね。ただ一つどしても確認したい事があるのよ」
「確認したい事ですか。でも何か天変地異みたいな事が起こりそうで怖いんですけど」
「それって大げさよ」
「カカシさん、どうしたんですか。あのシメさんが気になりますか」
「あんたはあのシメと言う人と一度戦た事があると言ったな」
「はい、でもちょっとした手合わせだけですよ」
「で、どうだった」
「はい、強かったです。それも滅茶苦茶。しかも私以上の縮地を使ってました。まるでナナシさんの様な」
「やっぱり。じゃーどうしても確かめないといけないかもな」
「まさか、変な事は考えないでくださいよ、あなたとシメさんが戦ったら、私とヨシアさんとの戦いの比ではなくなってしまうんですからね。この町が潰れますよ」
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