第86話 シメの一人旅9・Aランク試験
シメ達とキサメは気持ちを切り替えて、先ずはAランク試験を受けるべくミヒエルの町に向かった。
Aランクの試験ともなると一年に一度となる。これを逃すと翌年まで待たないといけない。
ゲルボーンと言う町から5日かけてシメ達はミヒエルの町に着いた。
先ずは宿屋を確保して体調管理だ。残してきた心残りはしばらく忘れてヨシアの体調管理に努める事にした。
試験間近ともなると通常はどの町でも宿屋が満杯になるものだがこれはAランク試験だ。受験者がそんなに多くいる訳ではないのでそこそこには宿屋も空いていた。
ただキサメ達が滞在してると言う宿屋は流石に満室になっていたのでシメ達はその近くで宿屋を確保した。
キサメとは友達と言う訳ではなく、もしかするとライバルにならないとは限らないのでこの程度は距離を取っておいた方が良いだろうとシメは考えていた。
それにキサメにはここに仲間がいる様だ。
諸々の事を考えてその様にしておいて先ずはこの町の冒険者ギルドに試験の登録をしに行った。
やはり試験間近ともなるとギルド内も少し人で込んでいた。これは何も全員が受験者と言う訳でもないだろう。
中にはその仲間や興味本位で見に来ている者もいるのだろう。
Aランク試験受付と言う所があったのでそこでヨシアの試験の受付の為に並んだがそこには既に数人が並んでいた。
確かにAランクともなると一癖も二癖もありそうな者達が多い。そしてやはり強い。
ただしそれはヨシアレベルでの話だ。シメの目から見て本当に強いと思われたのは今の所あのキサメしかいなかった。
しかし受付自体はもう昨日から始まっている。だからその時にいたかも知れないし、これから現れる可能性もある。
少なくともAランクともなると滅多にいないレベルだ。それにその力は一国の軍にも匹敵するとさえ言われている極めて貴重で危険な人物でもある。
だからその権威もまた高い。Aランク冒険者には数々の特権が与えられている。だからこそ試験も厳重にそして慎重になる。
その試験管もまたAランクに匹敵する者達が選ばれている。
彼らが使う武技も魔法も通常のものではない。そのレベルは特別だ。だから会場もそれ様に特別に作られていた。
この町はこの国でも数少ないその為の試験会場の一つだった。
幸いヨシアにそれほどの緊張感はない様だ。それだけシメに鍛えられていたと言う事かも知れないが普段の力を100%出せばいい。それだけだ。
キサメの方はこれまでゲルボーンと言う町であった事をナナシに報告していた。
ナナシは幽霊の事も伯爵の事もそれほど興味を示さなかったがシメの話になると興味を示した。そしてシメが使った技の数々を詳しく聞いていた。
ナナシなりに何か感じるものがあったのかも知れない。ただしナナシは冒険者ではなかった。いや、冒険者登録をしていない。
それで生活が成り立つのか。普通なら難しいがナナシ位の腕があればそれは何とでもなる。
狩った魔物を冒険者ギルドで買い取ってもらえばいい。それは特に冒険者でなくてもいいのだ。ただし冒険者よりは少し買い叩かれるが金にさえなれば食っては行ける。
それはそれとして受験者達の情報集めは少し難しかった。相手もAランク候補者だ。そう簡単に手の内は見せてはくれないし隠蔽もまた得意だろう。
そうなると後はやはり本番勝負と言う事になる。この試験、シメは始め個々の技術試験だけだと思っていたがどうやら最終試験として個々の試合もある様だ。
となるとあのキサメと当たる可能性もある。さてその場合どうするかだ。
その対策を立てる為にヨシアとカミルを連れてシメは近くの森に入った。
シメが考えて一番厄介なのはやはりあの「縮地」だろう。残念ながらヨシアはまだその「縮地」が使えない。
「縮地」が使えないと相手との間合いが取れなくなってしまう。そうするとどうしても接近戦で戦う事になるがそれは魔法使いには不利な戦い方だ。
しかしシメはヨシアにも接近戦での戦い方は教えたがそれでも尚キサメの方に利があった。それは多分経験の差だ。
かと言って今更特訓した所で直ぐにどうこうなるものではない。ならそれに代わる手段が必要になる。
そこでシメはヨシアに水冷、冷凍系の魔法を特に修練させた。凍らせれば攻撃と同時に防御にもなり、また相手の足を止める事も出来るだろう。突破口があるとすればその辺だろうか。
ただこれが二人だけの試合ではなく普通の戦いならカミルの付与魔法を使えば対等以上の戦いが出来るだろうがそうもいかない。
そう言う試行錯誤を繰り返しながら今日のトレーニングは終わった。
そして町へ帰ろうとしていた所に突然物凄い雷撃魔法が飛んで来た。
「ヨシア、防護結界!」
「はい」
ヨシアの作った防御結界で無事この攻撃を防ぐ事が出来たが何事だ。敵か。
「ほー流石だな」
「一体どう言うつもりよ。私達を殺せとでも頼まれたの」
「いや、そうじゃないんだが、肩慣らしでもしようと思ってこの森に来たら、大きな魔力を持った奴を見かけたんでな、もしかしたらと思って試してみたまでだ」
「たったそんな事でこんな物騒な事をするの。あんたの頭の中いかれてるんじゃないの」
「何を言ってる。これ位どうにか出来なくてAランク試験が受けられるかよ」
「へーあんたも受験者と言う訳?」
「そうだ。俺はゲオルクと言うんだ。宜しくな」
「これが宜しくって挨拶なの。あんたどうかしてない」
「それはいいんだが、そっちにいる二人は何だ。まさかそいつらもAランク試験を受けるって言うんじゃんないだろうな」
「彼女達は私のパーティー仲間よ」
「それでお前がここのリーダーって訳か。だろうな。そっちの男の魔力はまだ小さいし、そっちの女に至っては魔力がちいさ・・ん?おいおい、魔力がないなんて言うんじゃないだろうな」
「へー流石はAランク受験者と言う所かしら。あんたには鑑定眼があるって事ね」
「そうだ、俺の目からは何も隠せねーんだよ」
「それと戦闘力とはまた別だと思うけどさ」
「言ってろ。魔力ゼロのお前が言っても説得力はねーんだよ」
「ああ、紹介が遅れたわね。わたしはシメ、こっちがカミルであんたの前にいるのが、あんたのライバルになるヨシアよ宜しくね。そしてわたしがこのパーティーのリ-ダーよ」
「おいおい、冗談だろう。何で魔力なしがリーダーなんだよ。ってお前もしかして飾りか」
「そう思ってくれてもいいわ」
「おい、大丈夫かお前こんなパーティーで」
「それこそ余計なお世話よ。あんたこそパーティー持ってないの」
「俺は一匹オオカミを貫いてる孤高の冒険者さ」
「でしょうね、あんたと一緒にやろうなんて物好きはないでしょうからね」
「何だとこのあまぁ、言わしてりゃいい気になりやがって」
「まぁまぁその力は本番に残しておくのね」
「ちぇ、まぁいい。そう言う事にしておいてやらぁ。ところでようお前ら、キサメとか言う奴の事を知らねーか」
「キサメさんがどうかしたの」
「何だお前ら知り合いか」
「知り合いって言う程ではないけど顔見知りではあるわね。それが何」
「いや、なにな。あいつは本当にAランク試験を受ける資格があるのかって思ってよ」
「それってどう言う意味よ」
「お前、あいつについてるサポーターを知ってるか」
「知らないけどそれがどうかしたの」
「そいつは冒険者でもないただのサポーターなんだ。なのによ、あのキサメの奴いつもそのサポーターの指示を受けている様でよ。おかしくないか」
「サポーターって言うのは魔物やダンジョンに関する知識が豊富なのよ。あんたみたいに一人でやってる人にはわからないでしょうけどね。だからそのサポーターの指示を受けてもおかしくはないと思うわよ」
シメ達はかってダンジョン踏破の時にチェロと言うサポーターを使った事があった。そしてその彼女は実に博識で優秀だった。
「そんなもんかね。俺にはよくわからないんだが何だかそのサポーターの方が格が上の様な気がするんだがよ」
「それでキサメさんにAランク受験の資格があるかどうか疑ってる訳。なければあんたに取っては良い事じゃない。でも言っておいてあげるわ、腕はあんたより彼女の方が上よ」
「な、なんだとこのあまぁ」
「まぁ、ドジを踏まない様に気を付ける事ね」
「うるせー、じゃーな」
破天荒なゲオルクと言う冒険者は去って行ったが、シメには彼が言った言葉が少し気になった。「格が上」と言う所に。
その人物ともきっと近い内に会えるだろうとシメは思っていた。
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