第85話 シメの一人旅8・幽霊騒ぎと貴族
シメ達とキサメはしばらく共闘して例の幽霊と戦う事になった。
幽霊と言っても正体は恐らく魔法使いだろうと言う予測を立てていた。
それもかなり上位の魔法使いだろうと。そしてどうやらその相手は転移魔法を使うのだろうと言う事も。
それだけでも厄介だがまだ瞬間移動の魔法よりはいい。もしこれが瞬間移動だったらそれこそお手上げだ。
それだけ瞬間移動と言うのは厄介な魔法だ。ただその魔法を使える人間は今の世の中には居ないと言われている。
それは超ユニークな古代魔法だからだ。だからそうで無い事を祈るばかりだ。
転移魔法なら高価ではあるが魔導具を使っても可能だ。それならまだ対処の仕様もある。
そう言う事を頭に入れて夜回りをしていた。しかし前回人を襲う所をシメに見られたのでもしかしたらしばらくは姿を現さない可能性もあった。
だからシメ達は夜回りと並行させてこれまでに襲われた人達の人間関係を調べ始めた。
襲われた者に何か共通点はないかと。すると意外な事がわかった。
全ての人間がファーメル伯爵家に関わりのある人間だった。
ではそのファーメル伯爵家と言うのはどの様な貴族なのか言うと正直評判は良くない。
横柄,搾取,暴力,恐喝と悪の頂点の様な貴族だった。では何故そんな貴族がのうのうとしていられるのか。
それはやはり武力だ。この領地きっての兵力と魔法軍団を抱えていると言う事で誰も文句が言えないらしい。
この周辺の領主でさえも。勿論冒険者ギルドはこう言う政治事には介入しない。
だからこれは言ってみれば国や領土の問題だ。しかしそこに住む者達に取っては切実な問題となる。
しかも悪い事にこのファーメル伯爵家は王家の親戚筋に当たると言う。なるほどこれでは誰も文句が言えない訳だ。
本当に厄介だけどゼロさんならどうするだろうかとシメは考えてみた。
結論は恐らく何もしないだろうと思われた。あの人は自分や自分の身内に何らかの被害が及ばない限り何事にも関与しない人だ。
だからこそあの人は強いのだと思った。情に流されない人だから。
でもわたしにはまだ無理かなとシメは思っていた。確かにゼロと共に戦乱の中東で戦い傭兵として鍛えられた。
しかしシメにはまだゼロの様にはなれなかった。でもそれで良いと思っていた。わたしはわたしなんだと。
そしてまたこのキサメと言う人間もシメに近い感情の持ち主の様だ。勿論それはシメのメンバーも同じだ。
ならする事は一つだろう。先ずはファーメル伯爵家の偵察から始めた。
伯爵家にしては頑丈な門構えにしてあった。これならかなりの攻撃にも耐えられるだろう。流石は武力を誇るだけの事はある。
しかも表にも警備兵を配置してあった。それもかなりの数だ。それに訓練も行き届いている様に見受けられる。
これなら通常の兵で突破する事は難しいだろう。それに兵はこれだけではないだろう。きっと中にも多くの兵を配備していると考えられる。
しかし何でまたとシメは思っていた。今は戦時中ではない。なにのこの物々しい警戒は一体何の為だと。
取りあえず相手の状況は分かった。それならもっと詳しい情報を集めてみようと言う事で町に戻った。
ファーメル伯爵家の事についてもそうだが、もう一つ面白い事がわかった。
今回加勢してくれたキサメも次回のAランク試験をミヒエルの町で受けるのだそうだ。
今回の事は腕慣らしも兼ねていると言っていた。面白い人物だ。
しかしシメの見る所、このキサメの腕は既にAランクを超えているはずだ。なのに何故今更Aランクを受けるのか。
それはまぁシメと似たような理由があるのかも知れない。
それはまたキサメも同じ事を考えていた。Sランク以上と言ってもおかしくないのに何故Eランクなんだと。
シメはこのキサメがヨシアのライバルと言う事になるのかと考えていた。ただカテゴリーが剣士と魔法使いと言う違いがあるので直接ぶつかる事はないだろうとシメは思っていた。
このキサメと戦っては流石のヨシアも危ないかも知れないなと思っていた。ただまぁ、試合はやってみないとわからないものだが。
そして改めてファーメル伯爵家の事を聞いて回ってみるとやはり良い話は聞こえてはこない。
中には多くの違法奴隷を抱えているのではないかと言う話もあった。
獣人国から人族の国への国替えがあり、一旦は奴隷と言うものが国から消えていたが、犯罪者を取り締まる中で奴隷に落とすと言う罪がある以上奴隷制度が無くなる事はなかった。
そしてそこに付け込んで違法奴隷を商いとする者もまた現れて来た。この負の螺旋は誰にも止める事が出来なかったと言う事だ。
この町は獣人国カールとの国境線を挟んで獣人国の北側にある。なら当然獣人の奴隷が連れて来られていてもおかしくはない。
また獣人以外の奴隷がいる事も考えられる。
それでは実際はどうなのか調べてみようと言う事になった。それにはやはりシメの隠形の術だろう。
するとキサメが私も行くと言い出した。キサメもまた隠形の術が使えると言う。それは面白い。
シメとキサメが中に潜り込み、カミルとヨシアが表で待機と言う事になった。
シメが見てみるとキサメの隠形の術もかなりの物だった。やはり魔力操作が出来ると言う事か。これを見破れる者は誰もいないだろう。
二人はファーメル伯爵家の中を調査していたが一階部分、二階部分、更には三階部分にも怪しい所は何もなかった。
ただ意識センサーを広げて行くと地下に何かありそうだったが地下への出入り口は普通ではわからないようになっていた。
ただそれも人が触れた所には魔力の残滓が残る。これを完全に消せるのは相当な魔法使いだけだろ。ならそれを見つければ秘密の入口を見つけるのもそう難しくはない。
と言ってもこれは誰にも出来る事ではない。ゼロやハンナ、シメなら可能だがキサメではまだちょっと難しい様だ。
地下はシメ達が思った通り鉄格子の部屋になっていて奴隷達が監禁されていた。
その種族は色々だった。やはり獣人が一番多く、それに人族、そして非常に少ないがエルフもいた。
シメもキサメもエルフを見たのはこの時が初めてだった。その分貴重種族と言う事できっと値段も高いのだろう。
ここにいる奴隷は30人程だ。問題はどうやって開放するかだった。
この家の内外には多くの兵士がいる。ただ戦うのならそれも可能だろうが、奴隷を守りつつ戦うとなるとこれはかなり難しい戦いになる。例えカミルやヨシアの力を借りたとしてもだ。
と言って相手がファーメル伯爵では冒険者も領土の兵も助けにはならないだろう。
しかも伯爵家の内外、その周辺まで入れると8,000もの兵がいる。この地で8,000と言えば周辺のどんな貴族も手を出せない。
ここを攻め落とそうと思うと一大決戦になってしまう。なるほどこれでは誰も手を出せない訳だ。
これはシメ達に取っても同じだった。少なくとも4人では人手が足りな過ぎる。もっと加勢がいる。
しかしこの町や周辺からではどうにもならない。しかも王家の親戚筋となると迂闊には戦えない。
やるなら覚悟を決めてやらなければならないだろう。そしてその援軍が必要だ。
シメなら何とかその戦力の確保も可能だがそれでも時間がかかる。
Aランク試験を目前に迎えて今ここでそこまで時間を割いている訳にはいかなかった。
みんなと話し合った結果、非常に悔しいが今回は一旦引く事にした。
シメはヨシアとキサメのAランク試験を先ず優先して、その後でまたこの町に帰って来て奴隷奪還作戦を遂行する事にした。
それに例の幽霊も敵はファーメル伯爵家関係者の様だ。それなら一般人に被害が出る事はないだろうと考えて、心残りではあるが今回は撤退する事にした。
正直忸怩たる思いはあるが人生時にはこんな時もあるだろう。
そして今はやるべき事を先にやる事にした。キサメもこれに賛成し共にAランク試験の町ミヒエルへ向かう事にした。
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