第51話北の討伐依頼

 北の町シュピロバーグで最初の依頼をこなして最近の森の状況について聞いてみると最近は怪我人が多くなったと言う。


 それは普段なら難なくこなせた依頼が難しくなったと言う事らしい。つまりは魔物の強さが増したように感じると言う報告が増えていた。


 普段ならDランクの冒険者なら簡単に討伐出来たEランクのバフラビットに苦戦するとか、逆に手傷を負わされたと言う報告もあったと言う。


 それは冒険者の不注意または腕が落ちていたからとか言う事でもないらしい。


 要するに魔物の力が増していると考えていいだろう。


 ギルドでもその件に関して周辺ギルドと連絡を取り合って調査しているとの事だった。


 低ランクの魔物ならまだしも、もしこれが高ランクの魔物にも起こっていたら怪我程度では済まないだろう。


 これは少し調査してみる必要があるなとゼロは思っていた。もしかするとダンジョンの魔素球と何らかの関連があるかも知れない。


 そこでダンジョンについて聞いてみるとダンジョンはこの町と隣町の中間あたりの山脈の中腹部にあると言う。


 この町と隣町がその足場となる基地になっているので冒険者達が多いのだと言う話だった。


 ここからそのダンジョンまでは馬車でほぼ1日掛かるらしい。


 なのでその山脈の麓には簡易宿泊施設と最低限の必需品を販売する店もあるがみんな高いと言っていた。


 まぁそうだろう。


 ただギルドの話ではそのダンジョンは危険レベルがかなり上がっていると言う話だった。ここでもか。


 それと共にその周辺の森の魔物の動きも活発化し狂暴化ているらしい。


 さてどうするか。いきなり乗り込むと言うのもありだがそんなに急ぐ事もないだろう。


 まずはこのあたりの状況を調べてからにする事にした。


 マテップ公爵の例もある。最近は悪魔が随分と暗躍している様だ。確かに魔王は人間界への進軍の中止を宣言したが個々に動いている悪魔もいるだろう。


 そんな悪魔達がどのくらい人間界に侵入しているか調べてみる必要があるだろう。


 それと魔王の復活と共に魔物達の力も増大して来ているようにも思えた。


 それと今回の事が関係あるのかどうか。それも検討する必要があるだろう。


 この80年間全ての魔力が減退傾向にあったがここに来て少し様子が変わって来た。


 人族や獣人族の魔力は以前のままでそんなに復活はしていない。しかし魔物の魔力だけは何故か増大している様だ。


 これは魔素球の連鎖魔法陣とはまた別の何かの力がい動いているのかも知れない。


 魔素球に関してはこれまでに西の魔素球は破壊したので全部とは言わないまでもそれなりに連鎖魔法陣に破綻が生じているはずだ。


 ただゼロは南の魔素球もナナシ達の手によって破壊されている事は知らなかった。


 仮に連鎖魔法陣が崩壊したとしてもこの80年間に築き上げられた魔力削減の影響が直ぐに元に戻る訳ではない。それなりに時間はかかるだろう。


 それよりも急激な魔物の魔力増大が気になる。


 まずは森の魔物討伐から始めてみるかとゼロは考えていた。シメに取ってもレベルアップの良い経験になるだろう。


 翌日ゼロ達は先ずゴブリン討伐から始めた。幸いここから少し離れたサルギル村と言う所からゴブリン討伐の依頼が出ていた。馬車で5時間位の所だ。


 その村に着いて村長に話を聞いてみると、そこは小さな村だったが周囲からはジャガイモが良く取れるのだそうだ。


 こう言う寒冷地にはジャガイモは栽培し易い野菜だ。しかしこれはゴブリンの好物でもあった。


 毎年ゴブリン対策には頭を痛めているそうだが、それでも何とか村の警護団で凌いでいたそうだが、今年になってからそれが上手く行かなくなったと言う。


 それは何故かゴブリンが強くなって警護団ではもう防ぎ切れなくなったと言う。もう数人の怪我人が出て死人も二人出たと言う。


 最弱の人型魔物ゴブリンが強くなったか。おかしな話だ。


 ゼロとシメはゴブリンが出ると言う所にテントを張ってゴブリンを待った。


 すると明け方十数匹のゴブリンが畑を荒らしに来た。荒らすと言うより食料を回収に来たと言う感じだった。


 こんな明け方に来る事自体珍しい事だった。


「シメ、あいつらの八割方を殺せ」

「全部でなくいいんですか」

「ああ、それでいい」


 シメはあんなの素手で殴ったら手が汚れると言って剣で切り殺していた。


 どんなに強くなったと言っても所詮はゴブリンだ。到底シメの敵にはなり得なかった。八割方が瞬殺されてしまった。


 すると敵わないと分かったゴブリンは逃走を図った。それ位の知恵はあるようだ。


 ゼロの目的はゴブリンの巣を突き止める事だった。だから二割ほどを生かしておいた。


 予想通り逃げ出したゴブリンはそこから少し離れた所にある岩場の洞窟の中に逃げ込んで行った。


 なるほどここがゴブリンの巣かとゼロは中に入って行った。まるで警戒する事もなく。ゼロだから出来る事だ。シメがその後に続いた。


 そして途中で出会ったゴブリンはゼロが全て瞬殺した。


 その洞窟は入り口こそ狭いものの中に行くほど広くなり、奥には広場の様な空間があった。


 それは自然に出来た洞窟ではない様にも思われた。誰かの手によるものか。


 こう言う場合は通常上位種が統率するものだ。それはゴブリンと言えども例外ではない。


 いるとすればホブゴブリンかゴブリンシャーマン程度かなとゼロは思っていた。


 洞窟の奥の祭壇のような所にボスとなるゴブリンがいた。確かに体の大きなゴブリンだった。


 普通のゴブリンの3-4倍はあるだろう。人間よりも大きい。3メートルを少し超える程度か。これはゴブリンチャンピオンか。それにしては少しおかしい。


 ゴブリンチャンピオンクラスになればそれなりの知恵も持つがどうもこれはそれ以上に思える。


 ともかく巣の中心に入ったゼロ達は100匹近いゴブリンに取り囲まれた。


「愚かな人間よ、餌になりに来たか」

「随分と人語が達者なようだな、ゴブリン」


 周りを見渡してみると何処の村から攫われて来たのかわからないが人間の女が3人いたがこれはもう助からないだろう。体は生きているが心はもう死んでいた。


 後は子袋にされてゴブリンを産まされるだけになる。


「仕方がないなシメ、闘気で殲滅するぞ。あのボスだけは残しておけ」

「わかりました」


 どんなに強くなったゴブリンと言えどもこの二人にかかったらゴミムシのようなものだ。


 ゼロとシメは3メートルの制空圏を形成し中に闘気を充満させた。入って来る物は二人の体に触れる事すら出来ず片っ端から消滅して行った。


 この程度の弱い魔物ならこれだけで殺せる。


 それは魔力と気力の潜在力の差だ。途方もないゼロ達の闘気の前では存在自体が維持出来ずに消滅してしまうのだ。


「な、何だお前達はバケモノか」

「お前こそバケモノだろう。その体何処で手に入れた」

「な、何を言っているバケモノが」

「そうか、言う気はないか。なら体に聞くしかないな」


 ゼロの指気弾がゴブリンチャンピオンの心臓を貫いた。脳を壊さなかったのは記憶を探るためだ。


「何なんですかこのゴブリンは」

「種族的にはゴブリンチャンピオンと言う上位種だがそれだけではない気がする。ちょっと記憶を探ってみる」


「ふむ、やっぱりな」

「何かわかったんですか」

「いや、わからん。自己破壊魔法が掛けられていたようだ。しかし一つ分かった事がある。この個体は自然物ではないと言う事だ。何かの、いや誰かの手が入っている様だ」


「ロボットかサイボーグだとでも言うんですか」

「いや、そんな科学的なものではない。やはりこの世界の技術だろう。そしてこいつが他のゴブリン達の能力を上げていたようだ」

「つまりは司令塔でありエネルギーの供給源と言う事ですか」


「まぁそんな所だろうな。それとな魔石が壊れた」

「魔石がですか。そんな事があるんですか」

「いや、普通はないはずだ。これにもきっと何か理由があるんだろう。じゃー帰ろうか

「はい」


 この洞窟のゴブリンは跡形もなく消滅してしまったので証拠物は持って帰れないが畑で倒したゴブリンの耳は持って帰れそうだ。それとゴブリンチャンピオンの体も。


 あと生贄にされていた人間の女達は既に精神が壊れていたので成仏させて来た。その方が彼女達にとっても幸せだろう。


 村の村長にはもうゴブリンの被害は出ないと報告して依頼達成とした。


 後は冒険者ギルドに報告するだけだが、さてどうしたものかとゼロは考えていた。


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