第50話 北の冒険
一方北に向かったゼロとシメは中央モラン人民共和国とカール国との国境線に沿って旅をしていた。
この国の北側に位置する森の国が獣人達の住むカール国と言う事になる。
そしてそこはまたゼロとピョンコとで創った国でもあった。
あれからもう100年以上にもなるのか、懐かしいなとゼロは思っていた。
獣人国と接しているだけあってこの辺りの町には比較的多くの獣人も住んでいた。
そして獣人と人族との関係はそれほど悪くない。それはこの国があの人獣大戦に参加せず敵対しなかった事もある。
それでもやはり人と獣人との間にはそれなりの垣根はある。それは仕方ないと言えば仕方のない事だ。
取り合えずゼロはこの町シュピロバーグの冒険者ギルドに行って冒険者カードの登録をする事にした。
冒険者ギルドの依頼をこなし乍ら魔素球の探索をしてもいいと考えていた。
そう言えばシメがヘッケン王国以外の国でまともな冒険者活動をやった事はなかったなと思った。
冒険者とは世界を渡り歩く職業だ。それだけ誰からも束縛されずに生きて行ける。ただしその分生活の保障と言うものはない。
自分の体と命を盾に生計を立てる職業と言ってもいいだろう。言ってみれば傭兵と共通する部分が多い。
ゼロの今の冒険者ランクはCだ。そしてシメもまたCランクになっていた。
ゼロは今回もまた受付で薬草採取の依頼を受けていた。
「ゼロ様、本当に薬草採取でよろしいんですか。お二人ともCランクなんですよね」
「俺は薬師だしな。相応の仕事だろう」
シメの職業は今はシーフと言う事になっている。つまり冒険者活動における探索係だ。
ゼロのこの依頼を聞いていた他の冒険者達は「Cランクの癖に薬草採取しか出来ないのか、屑冒険者だな」と言う顔でゼロの事を見ていた。
ただ奥のテーブルにいた一つの冒険者パーティの一人だけは怪訝そうな顔でゼロ達を見ていた。
他の者達にはわからなかった様だが、魔力感知の出来る者から見ればこれはとんでもない事だった。
二人には魔力がないのだ。普通こんな事はあり得ない。にもかかわらずCランクでいる。いや、冒険者をやっていられる事が信じられなかった。
この世界で魔力がないと言う事は死人と同意語だからだ。それでも冒険者をやり尚且つCランクについている。これを信じろと言う方が無理な話だった。
なら考えられる事は魔力を押さえてるかだがそれでも魔力をゼロにする事はない。少なくとも人並位にはするはずだ。
では何故ゼロなのか。もしそれが本当なら彼らは特殊個体と言う事になる。もしかすると彼らは「迷い人」なのか。
「迷い人」と言うのは異世界から来た者の名称だ。ただし召喚されて来た者とは違う。
何かの間違いでこの世に落とされたと考えられている。だからその際に普通なら受けるであろう神の加護がない。
そして「迷い人」が長生きする事はまずない。魔力がなく加護がなければ生命維持すら難しく、普通はこの世に落ちても直ぐに死んでしまう。長く持っても数年だ。
だから普通は「迷い人」なる言葉すら知る者は殆どいない。
なのにあいつらは一体何だ。何故Cランクまで生き残れているとその冒険者は思っていた。
「おいケルン、どうかしたのか」
「いや、ちょっと珍しい者もいたもんだと思いまして」
「それをお前が言うか。しかしまぁ、Cランクで薬草採取とは確かに変わってるな」
「ヨセムそれってさ、実力もないのに金か何かの力でランクは手に入れたものの何も出来ないので薬草採取してるってケースじゃないの」
「きっとそうよ。私達冒険者の面汚しよ」
「おいおいケニシアにアデリナよ、そう言ってやるな。彼らにもそれなりの理由があるんだろうよ」
彼らはこの辺りを中心に活動している冒険者パーティ「ムーンリング」だった。
ただ彼らが驚異的だった事はこの距離にいてあの会話が聞こえている事と魔力感知能力を全員が持っている点だろう。
彼らはこの辺りで唯一の全員Aランクの冒険者パーティだった。
それ位の事はゼロにも分かっていたが邪魔さえしなければそれで良いと思って無視する事にした。
「それじゃー俺達は俺達の仕事をやるか」
そう言ってゼロは薬草採取に向かった。
ゼロ達が町を出て森に差し掛かったあたりで、ゼロ達の前に立ち塞がった者達がいた。
ゼロ達が完全に町を離れるのを待っていたのだろ。この辺りなら何が起こっても誰にもわからないと言う事らしい。
「俺達に何か用か」
「特にお前にはない。俺達が用があるのはそっちの姉ちゃんの方だ」
「人攫いするにはこいつはちょっとひね過ぎてはいないか」
「ゼロさん。それはちょっときつくないですか」
「うるせぇ、俺達が楽しんで後は売り飛ばせばそれなりの金になるんだよ」
「しかしお前らDランクだろう。それでよく俺達Cランクを襲う気になったな」
「はん、薬草採取しか出来ねぇ奴のランクなんぞ、金で積み上げたランクだろうが、そんなもんで俺達がビビるとでも思ったか」
「だとよシメ、相手してやってくれ」
「何で私なんですか」
「お前が目当てなんだからやっぱりお前だろう」
「しゃらくせぇ、まずそいつからやっちまえ!」
後はお定まりの一方的な制裁だった。殆どが半死半生の形で転がっていた。
「へー最近はよくわかるようになって来たな」
「ゼロさんじゃないですか敵対者には容赦するなと言ったのは」
この様子を陰から見ていた者がいた。そして「へー」と言った。
『まさかですね、何なんですかあの強さは。魔法は使っていませんね。まぁ魔力がないのですから当たり前ですが。ではあれは体術、しかしあれほどの体術は見た事がありませんね。私の国でもあれほどの手練れはいないかも知れません。もしかするとあの伝説の方なら』
「今度はあんたかい。まだ俺達に何か用でもあるのかいAランクの冒険者さんよ」
「やっぱりばれてましたか。でしょうね。CランクでありながらAランクの力量が計れる。それだけで既に規格外ですからね。やっぱり貴方達は『迷い人』でしたか」
「何だその『迷い人』と言うのは」
この冒険者は特に敵対する気配もなかったのでゼロ達も警戒を解いた。
細身でありながら力でない強靭さを持ち深くフードを被って顔がよく見えないがゼロにはその正体はわかっていた。
「珍しいなエルフの冒険者と言うのは、この大陸でもそうはいないだろう」
「へーやっぱりわかりますか。私をエルフだと見抜いた人間はまずいないんですがね」
「いや、昔エルフの知り合いがいたのでな感じが似てたんだよ」
「それはそれは、是非ともその人にお会いしたいものですね。何しろエルフは少ないですから」
「それでそのエルフさんが俺達に何の用だ」
そのエルフ、名をケルンと言いムーンリングと言う冒険者パーティの一員だと名乗った。
「そうか、俺はゼロでこっちはシメだ。二人でパーティを組んでる」
本当は3人のパーティでもう一人はハンナなんだが今はここにはいない。
そしてケルンは貴方達は「迷い人」ではないのかと問うた。
ケルンの説明を聞いて確かに部分的にはその範疇には当てはまっている。しかし「迷い人」が短命だと言う点ではゼロ達には当てはまらないようだ。
その点に関してはケルンも不思議に思っていた。もし本当の「迷い人」なら何故ここまで生きていられるのかと。
そもそもゼロは「迷い人」など見た事もなかったがそんな人間が本当にいるのかと聞くと150年ほど前にはちらほらといたと言う。
流石はエルフだ。それなら今の世の中で「迷い人」など知る者がいないはずだ。
多分何かの事故で次元の割れ目に取り込まれてしまった者達だろうとゼロは思ったが、しかしそれで何故短命になるのかはわからなかった。
しかもそれが150年前と言うのは何故だ。その頃に何かあったのか。それともたまたまか。
しかし今はその「迷い人」がいないのでは調べようもない。
「ともかく俺達は俺達だ。その『迷い人』とは違うと思うぞ」
「見たいですね、失礼しました。しかし興味ある存在ではありますが」
「おいおい、俺達は実験動物じゃないぞ。それと一つ言っておく。俺達に余計なちょっかいを出すな。俺達の邪魔をしたら消すぞ」
「怖いですね。しかもそれをCランクの貴方が言いますか。でも貴方が言うと本当に聞こえます。ではまた何処かでお会いいたしましょう」
そう言ってそのエルフは去って行った。さてそのエルフこの先でまた出会う事になるのか。
その時は敵か味方か、面白い冒険になりそうだとゼロは思った。
「それじゃー俺達は俺達の仕事をするか」
「そうですね」
ゼロ達が森に入って目的の薬草を摘んでいるとシメがおかしな事を言い出した。
「ねぇゼロさん、この森少しおかしくありませんか」
「何が」
「何がって言われても困るんですが、雰囲気がざらついていると言うか荒いと言うか、何か刺々しいんですよね」
「そうか、それに気が付いたか。恐らくは魔力場が強くなっているんだろうな。それに応じて魔物の気性も荒々しくなっていると言う所か」
「そんな事ってあるんですか」
「普通ではないはずだがともかくギルドで確認してみよう」
「はい」
森で何かが起こっているとゼロは思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます