第41話 王女の帰還とスタンピード

 ゼロはこの部屋の主人ハジバール王子に一つの物を投げつけた。


「な、何だ貴様は。ここを聖教徒法国国王第一皇子の部屋としっての狼藉か、きさま死罪だぞ。それにこれは何だ、こ、これは・・・」

「お前がここの王様、つまりお前の父親を殺す為に放った刺客の首だよ」

「何を馬鹿な事を言っておる、私はそんな事は知らぬ。おい、衛兵はおらぬか、狼藉者だ出会え」


 王子の声でドカドカと飛び込んで来た護衛達は全員ゼロの打撃で周囲の壁に貼り付けられ誰一人として再び立ち上がって来れる者はいなかった。


 これには王子も驚いていた。この者達は城下でも屈指の者達を選りすぐって自分の護衛にしたのにこの狼藉者に指一本触れる事も出来ずに倒されてしまうとは。


「どうしたこれで終わりか、お前の護衛は」


 王子は魔導士を呼んだがこれには誰も応答しなかった。四人の魔導士のトップは既にゼロによって葬り去られていたからだ。


 そして彼らの後に続こうとする魔導士はこの宮廷の中にはいなかった。


「あの王に呪詛を掛けていた4人の魔導士か。あいつ等なら先にあの世に行ったよ。今度は前の番だな」

「ま、待って、そんな事をしたら教会が黙ってはいないぞ。教皇様の怒りを買う事になるぞ」

「その教皇ならもうこの世にはいない。あいつもまた死んだ」


「な、何だと、そんな戯言が信じられるか、あの教皇様が」

「なら教会に確認を取ってみるんだな、教皇を殺したのは俺だ。教皇様はゼロと言う冒険者に殺されたのかと聞いてみるんだな。機会があればだが」

「ば、馬鹿な。そんな。しかし私が父を殺害しようとした証拠が何処にある」


「王を殺そうとした刺客は二人だ。一人のその首の奴だがもう一人がお前の目の前にいる奴だよ。お前が首尾を問うたな」

「知らん。私は何も知らんぞ」

「無駄だな。そいつはもう吐いたぞ。お前に指示されたとな」

「そ、そんな。こ、これは何かの陰謀だ!」


 その後王子は牢獄に閉じ込められ、王の容態が回復した後で御前会議が開かれた。


 当然そこには教会のNo2,バルツ枢機卿も参加していた。今ではバルツ枢機卿は教会の教皇代理となっていた。


 そして王の長女、ゼロに救出された聖女もまた参加していた。


 その場でこれまでの王子の悪行の全てが暴露され、王子は父親たる王の暗殺未遂の罪で王位継承権を剥奪されて極刑となった。


 後妻の王妃は離婚され次女もまた王位継承権を剥奪されて実家へ追放された。


 教皇が例え単独であれ獣人国に宣戦布告しそして負けたとあれば国王としても敗戦国としての責任を取らなければならなかった。


 たとえ直接に手を下したのではないにしても国の王としての責任は負わなければならないだろう。


 少なくとも獣人国が寛大な処置をしてくれたので国の崩壊にはつながらなかった。


 そこにはまた立会人の立場で参加していた中央モラン人民共和国、王家の代理人であるゼロの力も大きかったことは言うまでもない。


 正直な話、国王もゼロには頭の上がらないと共にまた娘共々命の恩人ともなれば二重三重の意味でゼロには感謝仕切れなかった。


 遂に王は我が娘、聖女を嫁に貰っては貰えないだろうかと言い出す始末だった。


 流石のゼロもこれには這う這うの体で遁走をはかった。


 ただこの時聖女には是非ともゆっくりお話がしたいと言われたが用事が済めばまた寄ると言って逃げた。


「良いんですかゼロさん、あんな良いお話を蹴って」

「何が良い話だ。俺を檻に閉じ込めるつもりか」

「ゼロさんを閉じ込められる檻などあの世界にもこの世界にもない様に思いますが」


「ともかく行くぞ」

「行くって何処に行くんですか」

「次の冒険に決まってるだろう」


 聖教徒法国のゴタゴタは一先ず終わった。そして魔界の進軍も今はまだ止まっている。


 勇者に関しては抜け出した二人に関してはわからないが少なくとも残った二人の勇者は覚醒した。


 その力もほぼ掴めた。確かに強大な力を得た事は確かだがまだシメやハンナで対応出来ない事もない。


 それならカロールやガルーゾルでも何とか戦えるかも知れないとゼロは思っていた。


 つまりそれは勇者としてはまだ力不足だと言う事だ。あれではまだ魔王を倒す所までは行けないだろうと思っていた。もう一段階上の覚醒が必要だと。


 ゼロは今回はこの聖教徒法国に隣接する中央モラン人民共和国の北の端の町々を回ってみようと思っていた。


 東の大きな魔素球はもう破壊した。そしてそこは東地区の四天王の配下が管理していた。


 なら魔王が復活した今なら各四天王の各配下達が自分達の区分の魔素球の管理をしている可能性が高い。


 それならこの北にもきっと北の四天王の配下が管理する魔素球があるのではないかとゼロは思っていた。


 その頃勇者樹雨(キサメ)はサザンを離れて同じくヘッケン王国の南の方を旅していた。


 今の樹雨の冒険者ランクはCだ。いくら勇者だと言う事を隠していてもその実力は隠せない。その能力は知らず知らずの内に出てしまうものだ。


 ただキサメもまだ自分の修業が十分ではないと悟り、これ以上のランクアップは望まなかった。


 つまりそれは別の意味でゼロと通じる所があった。


 あれからはキサメも試練を重ね、ビーの元で人と戦う術も覚え、初めて人を殺す経験もした。ただしその時は一晩中吐き続けていた様だ。


 その後の旅先では山賊や盗賊達とも戦闘を重ね、好むと好まざるにかかわらず修羅の道を歩む事になった。


 その分キサメの戦闘力は向上した。魔力による向上ではなく技術による向上、いや昇華と言ってもいいかも知れない。


 それは知らず知らずの内にビーが教えようとしていた技術に近付いた事になるのだがその事をキサメはまだ気づいてはいなかった。


 キサメは南の一つの町アグレンに着いた。ここにはダンジョンがあると言う。それならまたここで修練が出来るとキサメは考えていた。


 早速キサメは冒険者ギルドで冒険者登録をしてダンジョンに向かった。


 ただその時多くの冒険者達が慌てふためいてダンジョンの方角から逃げて来た。


 どうしたのかとキサメがその中の一人を掴まえて聞いてみるとスタンピードが起こっていると言う。


 ダンジョンを中心にその周囲の森からも多くの魔物達が町に向かっているのだと言う。


 そんな兆候はなかったように思うのだがともかくキサメも町の冒険者ギルドに戻ってみる事にした。


 どう言う対策を取るのかだがそれはスタンピードの規模と魔物の強さにもよる。


 この町にはそこそこの数の冒険者がいる。だからと言って高位の冒険者がいるかと言うとそうでもない。


 この町の最高位はBランクだと言う事だった。それも今の時点では5人しかいない。それでは少な過ぎるだろう。


 時間が経つにつれて情報がはっきりして来た。スタンピードの規模は約5,000。


 これを迎え撃つ冒険者の数は約300。しかしその内Dランク以上ともなると実に100人にも満たない。


 これではとても町どころか自分達の身すら守り切れないだろう。


 既に幾人かの冒険者達が町を去っている。無理もない。まだ死にたくはないだろうしこの町を守る義理もない。


 本来冒険者は自由な職業だ。誰に束縛される事もない。ただしBランク以上は強制依頼と言う物があるがそれもこの状況では全員が参加してくれるかどうかは怪しい。


 ただこの町を地場としている冒険者達、特にこの町に家族がいると言う冒険者達は愛する者達または親族を守る為にここで戦う事を決めた。


 しかしキサメはおかしいと思っていた。森の魔物ならわかるが果たしてダンジョンの魔物が表に出て来るだろうか。


 普通ではあり得ない事だがそれは現実として起こっていた。

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