第40話 王の容体

 王の薬に携わる者と言えは城の薬師か料理人かメイドと言った所だろう。


 先ずは薬を調合するであろう薬師の部屋を調べてみた。薬に関してはゼロは専門家だ。この国でもゼロの右に出られる者は誰もいないだろう。


 王に与える薬は見つかった。その中身を調べてみると確かに微量な毒が混じっていた。


 直ぐにどうこうと言う事はないがこれなら徐々に体力を奪いやがては死に至るだろう。


 つまり城の薬師は完全に敵だと言う事になる。


 薬に関してはセロが中身をすり替えておいた。徐々に体力が回復する薬に。


 これはこれで良い。次は宮廷魔導士だ。彼らの所に行くと丁度何かの相談をしていた。


「どうだ、そろそろあれを使うか」

「そうだな、王も大分弱られた。我らの呪詛と意識誘導魔法で聖女様に対する愛情も薄れ懐疑心を持たれている」

「そうだな、ならあの宝玉も有効になる事だろうって」

「では今日あたり仕込んでみるか」


 ゼロは宝玉と聞いてあの獣人の頭に仕込まれてあった球の事を思い出した。


 あれは確か人の意識を支配するものだったはずだ。ならあれを王の頭の中に埋め込もうと言うのか。


 つまりあの宝玉を持っていると言う事はこいつらは教会の手の者。そう言う事になる。


 ハジバール王子は教会と手を組んだと言う事か。と言っても恐らくは教皇とだろう。しかし王子もまたこいつらも教皇が死んだ事はまだ知らないはずだ。死んだ事を知ればどうするか、面白そうだなとゼロは思っていた。


 この国の王家の宮廷魔導士は30名いると言われている。そしてここに居るのは4名だ。どうやら彼らは少しは高位の魔導士の様だ。


 ゼロはそろそろ良いだろうと隠形の術を解いて姿を現した。何処からともなく突然現れたゼロの姿を見て魔導士達は驚いていた。


「な、何だお前は。何処から現れた」

「魔導士のくせにそんな事も分からないのか。所詮は二流と言う事か」

「何だと、我らを二流だと。馬鹿な事を言うな、我らは第一級魔導士だぞ」

「ならこの国の第一級魔導士は大した事がないと言う事だろう」

「き、貴様。言わせておけば。灰にしてやるわ」


 ゼロに向かって投げつけられた火炎魔法はゼロの手前で消えてしまった。


「ば、馬鹿な。何故わしの火炎魔法が消えるのだ」


 そう言ってその魔導士は更に火炎魔法を掛けたがゼロには全く届かなかった。


 これでは埒が明かないと思った魔導士達は四方からゼロに魔法を仕掛けたがどれもこれも全て空中に消えた。


「な、何故だ。何故魔法が消えるのだ」

「お前それでも魔導士か。上位者には下位の魔法など利かないと言う事は常識だろう」

「そ、そんな。お前は我らよりも上位者だと言うのか。第一級魔導士の我らよりも。そんな者、教皇様かバルツ枢機卿様しかおられぬはず」

「なら俺はそれ並なんだろうよ」

「そ、そんな事があってたまるか」


 そう言った時二人の魔導士の首が飛んでいた。何が起こったのか全くわからなかった残りの二人が現実に戻って震えあがっていた。


「話せるのは一人いれば十分なんでな、どっちが先に死にたい」


 こう言われて、自分が先にと言える者はこの世にはいない。特にこの様な根性のない者には。


「どうか命ばかりはお助けください。何でもお話いたします」

「いえ、私の方こそ、何でもお話いたしますので、どうか私の命の方をお助けください」


 両方の命を天秤にかければ人は助かりたいが為に相手よりも多くしゃべろうとする。これは脅しの定石だった。


 何故直ぐにこの宝玉を使わなかったのか。それはこの宝玉は意識をコントロールすると言っても、元々ある心の奥底の気持ちを増幅する程度のものらしい。


 だから獣人の心の中にあったヒューマンへの嫌悪感と復讐心が増幅されて先の村人の虐殺に繋がった様だ。


 ゼロは話を聞いた後呪詛魔法をかけていた残りの2人の魔導士も片付けた。


 問題はこいつらの後ろに誰がいるかだが教皇である事は間違いない。しかし教皇がこんな細かい事まで指図はしないだろう。


 必ず直に指揮を取ってる奴がいる筈だ。それは誰かゼロは教会のNo2のバルツ枢機卿ではないかと思っていた。


 そして教皇亡き後、そいつが後を継ぐ事になるだろう。


 ならこの下らない計画を止めるにはそいつを潰すに限るとゼロは再び教会に向かった。


 教会の前に立ったゼロの前には教会騎士団が立ち並びゼロを阻止しようと構えていた。


 その一触即発の時に中から勇者の長谷川が飛び出してきた。


「皆さんは何をしているのですか」

「この狼藉者を排除いたします。勇者様のお手を煩わせる事もないでしょう。我らで十分でございます」

「あなた方は全員死にたいのですか。その人には僕でも敵わないのですよ」

「ま、まさか」


「それにその人は今回の戦争の中央モラン人民共和国の代表の仲介人です。もしその方に何かあれば我々は中央モラン人民共和国とも戦争をしなくてはならくなります。それでもやりますか」

「ま、まさかこの男が、いえ、この方が」


 全員矛を収めて左右に開き道を開けて礼の姿勢を取った。


「無益な殺生をせずに済んで助かったよ」

「僕の方も助かりました。今度何かあれば僕も殺されかねませんからね。それで今日はどの様なご用でしょうか」

「バルツ枢機卿はいるか」

「はい,中におられると思います。どうぞこちらに」


 ゼロは勇者の長谷川に案内されて中に入って行った。


「これはゼロ様、今日はまたどの様なご用件で」

「この国の王の件だと言えばわかるか」

「いえ、とんと見当が付きませんが」


「そうか、ならいい。しかし王家の聖女様の件には手を出すな。俺が聖女様の後継人になる。もし手を出せば今度こそこの教会を完全に破壊する。言いたい事はそれだけだ」


 そしてゼロはバルツ枢機卿に威圧を掛けた。それは教皇よりも強力なものだった。とても敵対する気などにはなれなかった。


『やはりまだ今の時点では手が出ませんか。時期を待つしかなさそうですね』


 バルツ枢機卿は怯えながらもゼロに対する敵愾心が消える事はなかった。流石はNo2と言うべきか。


 王城では息子のハイシンが訝っていた。何故王の気持ちがまだ聖女から離れないのだと。


 もうそろそろ疑心暗鬼にかかり長女を排して次女たる自分の姉に乗り換えても良い頃だと思っていたのに。


 しかも病状が悪くなっていない。むしろ回復している様にすら見える。どうなっているんだと思っていた。


 どうしても現状の変換が出来ない様であれば、強硬手段になるがここは王に消えていただくしかないかと考えていた。


 聖女の正規の譲渡が出来ないなら後は教皇の力を借りて、聖女失踪を理由に仮の聖女として姉を聖女に付けて後はなし崩しに本物にしてしまえばいいと考えていた。


 そしてその夜。遂に王子は刺客を放った。


 現れたのは黒い上下に黒い覆面を被った二人組だった。恐らく暗殺を専門とする者達だろう。


 意識を消し足音も立てずに王の寝室に忍び込んできた。それにしてもよくここまで忍び込んで来れたものだ。これ自体が奇跡のようなものだ。


 つまりそれは内部に裏切者がいると言う事の裏付けであり、城の大部分が王子の支配下にあると言う事だろう。


 王の寝顔を確認した暗殺者は一気に短刀を寝具の上から王の胸に突き立てた。これで仕事は終わるはずだった。


 確認の為の寝具を剝がしてみるとそこにあったのは丸いクッションだった。そんな馬鹿なと王の顔を見てみるとそれもまた枕の様な類のものでしかかなった。


 要するにそこに王はいなかったと言う事だ。


「ご苦労だったな。王の暗殺は失敗でしたと王子に報告するか」

「な,何だ貴様は。それに何を言っている」

「下らん猿芝居は止めろ。お前達が誰の回し者かはもうわかっている。それと王はお前達がここに来る前に別の部屋に移ってもらった」

「そ、そんな・・・」


「そんな話は王子からは聞いてないか。なら直に本人に確認するんだな。ただし二人もいらんだろう。どちらが死にたい」

「ば、馬鹿な。貴様こそ我らに逆らえるとでも思っているのか、死ね」


 そう言って切りかかって来た男の刃は弾かれると同時に右腕が切り飛ばされていた。そしてその返す刃で両足も。


 片腕両端を失った男は余りの痛さに床を転げまわっていた。しかしその斬撃は余りに速く残った一人にも何がどうなったのか何も見えなかった。


「残ったのはお前一人だがまさかお前だけ五体無事でここを抜け出せるとは思っていだろうな」

「き、貴様」


 そう言って切りかかろうとした刹那、その男の両腕は宙に飛んでいた。


 証人は一人でいいかとゼロは先に倒した男の命を絶った。その辺りは「戦場の死神」と言った所か。


 切った男の両腕は気功で出血を止め、そのまま王子の部屋んい連れて行った。


 部屋では深夜にも関わらず王子が報告を待っていた。部屋に入って来たその男を見て、


「どうだ首尾は、無事終わったか」


 不思議と両腕を切り落とされた男の袖は元のままになっていた。ただし中の腕はない。


「もう一人はどうした。まだ後始末をしているのか」


 その時隠形の術で隠れていたゼロが突然王子の間の前にあわられた。


「後始末をするのはお前の方だろうな」

「だ、誰だ貴様は。ど、何処から現れたのだ。ここを王国第一王子の部屋と知っての狼藉か」

「ああ、この国最大にして最悪の馬鹿王子だと言う事は理解しているつもりだ」

「な、何だと貴様、衛兵、衛兵はいるか。曲者だ。出会え」


 その時ドカドカと入って来た衛兵はこの国でも最高レベルと言われる騎士達だった。


 その騎士達がほんの数秒で殲滅させられてしまった。こう言う事に関してゼロは一切手を抜かない。


「ば、馬鹿な、この者達はこの城下でも最高ランクの兵達だぞ」

「ならお前の所の兵はクズばかりだと言う事だろう。さてでは話を始めようか。それともこのまま死にたいか」

「ま、待て。何の話だ」


 この時ハジバール王子は目の前に立つこの男に心底恐れていた。

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