第38話 聖女様救出作戦

 「聖女様を救出して欲しい」と言われてもゼロ達には聖女様とは何処の誰で今何処にいるのか、そう言う情報が何一つない。


 これでは手の打ちようがない。誰か知っている者に聞くしかないが今教会の方は教皇の死でテンヤワンヤだろう。


 それにゼロには今でも恨みを抱く者も多くいるだろう。そう言う連中がまともな事を教えてくれるとは思えない。


 ならどうすればいい。他に誰かいないか。いや、一人いた。かって魔物討伐の折薬草で怪我人を助けた騎士団があった。


 その聖騎士団の班長が確かゲンドーとか言っていた。ゼロとシメは彼を訪ねてみる事にした。


 騎士団の駐屯場に行くと幸いな事にゲンドーがいた。


「おお、これはゼロ殿ではないか、その節は世話になった」

「いや、大した事はしてないさ。ところで一つ教えて欲しい事があるんだが」

「何かな、わしで分かる事なら何でも聞いてくれ。それとこの方はこの前の女性とは違う様だが、ゼロ殿はよくモテてて羨ましいのう」

「いや、そう言う相手ではないのだが、ともかくゲンドーさんは聖女様と言うのをご存じか」

「聖女様か、勿論知っておるとも、この国の要のお一人じゃ。しかし最近はお見掛けせんのー」


「その聖女様は教会におられるのか」

「いや、教会ではない。王城じゃよ」

「つまり王様の所と言う訳か」

「そうじゃ、ご存じか、この国には二つの行政機関ある。一つは王様を軸とするもの、もう一つは教皇様を軸とするものじゃ」

「それってややこしくないか」


「確かに外国の者には解り辛いじゃろうな。わしら聖騎士団は教皇様に従っておるが、王都騎士団は国王様に従っておるのじゃ。そして聖女様は王様のご息女様じゃ」

「それで最近お見掛けしないとは」

「そうじゃのー。今までは毎月王城のバルコニーに顔を出されて、我ら国民の幸運祈願を祈ってくださっておったんじゃがのー。ここ2-3カ月はお姿を見ておらんと言う話じゃ」


「王様のご家族と言うのは聖女様だけなのか」

「いや、妹君と弟君がいらっしゃるがこのお二人は後妻様の腹違いの兄弟じゃ」

「では聖女様の御母堂様は」

「確か2年前に亡くなられたのではないかな。獣人国から国を返還された慌ただしい時じゃったの」

「そうか、ありがとう。それからこれは下級ポーションだが質は良いんで必要な時に使ってくれ」


 そう言ってゼロはポーションを10本やった。


「これはかたじけない。大事な時に使わせていただこう。感謝する」


 これで大体の概略は掴めた。後は今の状態だが最近見てないと言う事は軟禁されている可能性もあると言う事だろう。


「では一つ忍び込んでみるか」

「やるんですか」

「事実を知るにはそれしかないだろう」


 ゼロとシメは隠形の術を使って城の中に忍び込んだ。いや決して忍んではいない。堂々と歩き回っていた。しかし誰もゼロ達の存在に気付いた者はいなかった。


 ゼロ達が各部屋を丹念に調べ回っていると三階の一部屋だけが妙に警戒の厳重な部屋があった。


 意識センサーで調べてみると中に誰か一人いた。そして表の扉には二人の屈強そうな騎士が立っていた。恐らくは見張りだろう。


 さてどうやって入るか。二人共のばしてしまって入れば簡単なんだが今はまだこっちが動いている事を知られたくないので分からない様に入る事にした。


 ここは三階の天辺の部屋だ、この上は屋上になる。外側には窓が付いているが特に鍵が掛けられているとか鉄格子が嵌められているとかそう言う物ではない。


 この三階から逃げる事は不可能だと思ってそう言ういい加減な警備をしているのだろう。なら外から入り込ませてもらおう。


 屋上からロープを垂らして窓から入ればいい。ゼロとシメはそうして簡単に忍び込んでしまった。そしてロープは外しておいたので誰にもわからない。


「貴方達は誰ですか。怪しい者なら誰かを呼びますよ。と言いたい所ですが誰も来ませんよね」

「そうだな、良く分かってる様で安心したよ」

「それで貴方達は私を殺しに来たのですか」

「こんな手の込んだ事をしなくてもその気になればいつでもやれるだろう」

「確かにおっしゃる通りですね。では貴方達は私の見方と考えていいのでしょうか」

「そうだ。助けに来た」


「誰の指示ですか」

「マロエール様と言えば信じられるかな」

「まぁ普通なら信じないでしょうが私は信じます」

「なら結構」


「でもどうしてここから脱出するつもりですか。ここは三階ですよ」

「私達なら問題はありませんが、ただここから貴方が消えて問題はありませんか」

「そうですね、どうせここに居れば何時かは殺されるだけですからいいと思います」


「分かった。ではここから飛び降りるか」

「またそれは随分と無茶な計画ですね。死にませんか」

「まぁ大丈夫だろう」

「貴方は面白い方ですね。この人はいつもこうなんですか」

「ええ、この人に不可能はありませんので」

「そうですか。では任せます」


 ゼロは聖女様を抱えてシメも一緒に地場ジャプを使って悠々と地上に下りた。


「こんな方法があるとは知りませんでした。これは魔法ですか」

「いえ、違います。武技の一つと考えてください」

「でしょうね、詠唱もなくまた魔法陣も作らない。もしこれが新しい魔法なら神様と戦争になりませんか」

「ほー、あんたは面白い発想をするな。今までそんな考えをした人はあんたが初めてだよ」

「私も初めて考えてみました」


 ゼロ達はそのまま森に消えた。聖女がいなくなった事は夕食まで誰も気が付かなかった。


「何姉上が消えただと。どうしてだ。どうしてあんな所から逃げられる。三階だぞ」

「申し訳ありません。手がかりは何一つ残ってはおりませんでした。忽然と消えたとしか」

「馬鹿な、そんな馬鹿な事があってたまるか、探せ城中、城下も隈なく探すのだ」

「御意」  


 敵は王家筋の者、こんなもの街中に隠れても直ぐに見つかってしまうだろう。だからこそ森が一番安全なのだ。


 誰も聖女が森で生きているとは想像もしないだろう。


「貴方方はこんな所でも生きて行けるのですか」

「それは生きて行けるだろう。小動物も生きているのだから」

「確かに言われてみればそうですがこんな事は誰もしようとはしないでしょうね」

「まぁそれだけ人間が軟弱になったと言う事だろうな」


「そうでなければちゃんと生きて行けると仰るんですね」

「その通りだ」

「本当に面白いですね貴方方は。こんな人間を見たのは始めてですよ」

「ではしばらく聖女様にも頑張ってもらおうか」

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