第35話 カール国への侵攻
今回聖教徒法国側が獣人国侵略に送り出した軍勢は1万だった。それに勇者が二人だ。
それに対し今の獣人国カールには15万の正規軍がいる。この15倍もの戦力差をどうしようと言うのか。
ただ教皇は今の勇者の戦力は一人で一国の軍隊を凌駕すると考えていた。なら二人もいれば獣人国の一つや二つ苦も無く殲滅出来るだろうと考えていた。
彼等は西から「獣人の怒れる森」と呼ばれる森を北回路から迂回して獣人国に入って来た。
それを待ち受けていたのはゼロとハンナとシメ、そしてダッシュネル率いるゼロマ遊軍騎士団1,000名だった。
こっちもまたこっちだ、1,000人で10,000人を相手にしようと言うのか。
そして彼らは遂に国境線内で対峙した。
「その方ら、何しに我が国に進軍して来た」
これに対し10,000人の指揮を執っていたのは護神教会騎士団団長のハルメルだった。
「既に宣戦布告の通知は出したはずだ」
「その理由がわからんのー」
「何を白々しい。お前達は我が国の住民を村ごと虐殺したではないか」
「お前達は盗賊団の揉め事を国の揉め事にしようというのか、それはおかしいだろう」
「じゃかましい、お前達獣人が我ら人族を虐殺した事は事実だろう」
「なら問おう、サザンの町で獣人3,500人を虐殺した勇者は主達の教会の住人ではないのか」
「う、・・・」
一瞬ハルメルは言い淀んでしまった。
「問答無用だ。これは勇者様の弔い合戦でもある」
その時ゼロが進み出て、
「勇者とはこんな事をする為に召喚されたのか。他国民を殺す為に。お前達は魔王と戦い倒す事が目的ではなかったのか」
「あ、あなたはあの時の冒険者ですか、確かゼロさんでしたよね。でも人である貴方が何故獣人側にいるのです」
「おまえ何か間違ってないか。憎むべきは種族ではないだろう。犯罪を犯した犯人だろう。いいだろうここにその犯人達を出してやろう」
そう言ってゼロは縄に繋がれた8人の獣人を引き出した。
「この者達は」
「こいつらがあの村を襲った犯人の生き残りだ」
「その者達がどうしてあの時の犯人だと言えるのです」
「こいつらの体にはお前達の魔力の残滓がまだ残ってるはずだ。自分で感じて見ろ」
「こ、これは」
「しかし村人を殺した罪は罪、そのその責任は取らなければならんだろう。いいぞ、やれ」
この時それぞれの横に付いていた騎士により全員の首が刎ねられた。
唖然としたのは勇者達の方だった。この世界では裁判も裁きもなしに死刑にするのかと。
「だ、騙されてはなりませんぞ。これで我が国に対する謝罪が済んだ訳ではありません」
「何も謝罪をする気はない。良いものを見せてやろう」
そう言ってゼロは犯罪者の額から小さな球を取り出した。
「これが何だか分かるか」
「なんですか、それは」
「一種の魔道具だ。これがこいつらの頭の中に埋め込まれていた。そしてこれは人の意識をコントロールする」
「どう言う意味ですか」
「つまりこいつらは誰かにコントロールされてあの村を襲ったと言う事だ」
「な、何の為に」
「お前ら勇者を覚醒させる為だ。勇者の覚醒には心の奥底からの悲しみと怒りが必要だった」
「そんな、そんな為にあの無辜な人達を殺したと言うのですか。誰が一体何の為に」
「勇者の力を一番欲しているのは誰だ。これにこの匂いを嗅いでみろ。記憶にないか」
そう言ってゼロはその球を長谷川に投げた。その玉から匂う匂いは何処かで嗅いだ事があった。
「こ、これれは」
「そうだ、教会の神殿だ」
「そ、そんな馬鹿な」
「勇者様、そんな戯言に騙されてはなりません。こ奴は全ての罪を我々にぬ擦りつけようとしているのです」
「僕達に詳しい事は分かりません。でも殺されたあの人達の仇は取ります」
「それがこの獣人国への侵略と言う訳か。どうしようもない抜け作だな。いいだろう。現実と言うものを教えてやろう。お前の相手はこの獣人のハンナがする。そしてそっちのカナとか言ったか、お前の相手はこのシメだ」
「貴方は人間ではありませんか。なのに獣人の為に私達と戦おうと言うのですか。勝てもしないのに」
「ここの獣人さん達は、みんなわたしの友であり仲間なのよ。それに勝てるかどうかはやってみないとわからないでしょう」
「馬鹿な、あなたは勇者の力と言うものを知らないのですか」
この様子を見ようと虚空にはカロールとメルチがいたが結界に阻まれて何も視る事が出来なかった。
「何なのよこの結界は、破れないじゃない。こんな強力な結界がどうして獣人やヒューマンに張れるのよ。これじゃーまるであたしの結界魔法と同等じゃないの。あたしの結界魔法は四天王様にも匹敵するとさえ言われてるのにどうなってるのよ」
無理もない、同門のそれも天才の孫弟子が張った結界だ。そう簡単に破れる物ではなかった。
そして遂に戦いの幕は切って落とされた。その瞬間ダッシュネル達は大きく外に展開した。
彼等勇者の近くにいたら余波だけでも死んでしまう。それは聖教徒法国側でも同じだったハルネルも勇者達から切り離した。
中心部では長谷川とハンナ、黒澤とシメが戦い、周辺では聖教徒騎士団とゼロマ遊軍騎士団との戦いが始まった。
ハルメルは過信していた。所詮相手は獣人の軍隊、しかもたったの1,000人だ。精鋭の聖教徒騎士団10,000人とは勝負になならないうだろうと。
所が実際戦いが始まってみると相手の技量、戦力はこちらの10倍、いやそれ以上あった。
どうして獣人にこれだけの軍隊が育てられるのかと信じられなかった。
そして時間と共に自軍の兵がどんどんと死んで行く。このままでは壊滅も時間の問題だろう。
後は一刻も早く勇者が向こうのケリをつけてこちらの軍を蹴散らしてくれるのを待つしかなかった。
向こうは向こうで壮絶な戦いをやっていた。まるで勇者が4人いる様な。
まさか覚醒した自分達と対等に戦える者がこの世にいるとは考えても見なかった。
この獣人もまたこの人も強い。いや、強いなんてもんじゃない。
少しでも気を抜けばいつ首を刎ねられてもおかしくはなかった。この二人の攻撃は勇者達を震撼せしめた。
この戦いが始まり、勇者が剣に魔力を通した時、ゼロがハンナとシメにお前達も剣を抜けと言った。
それはその勇者の魔法剣がゼロの気功剣と同等の物であると見抜いたからだ。
気功剣がなければ危なかったかも知れないが、今はそれで対等に戦っている。
いや、それだけではない。やはり経験の差は如何ともしがたい。徐々に勇者達は押されていた。
今はもう防ぐだけで精一杯だった。少しでも気を抜けば殺される。正直彼らは恐怖していた。
自分達が殺されるかも知れない。そんな事は想像すらした事がなかったからだ。
動き剣技全ての点においてハンナ達が上回っていた。そして魔力量に於いても。
あれだけの途方もない魔力を得た勇者達ですらまだハンナの魔力には届かなかった。
「ねぇ長谷川君、どうなってるのよこれは。何でこの人達は私達よりも強いの」
「知らないよ、そんな事。これじゃあのダンジョンの時と同じじゃないか。僕達の力じゃだめなのか」
二人の剣は弾き飛ばされ喉元に切っ先が付きつけられていた。二人がその気になればいつでも首は飛んでいるだろう。
「どうします、お師匠様、このまま首を刎ねますか」
「ようガキ共どうして欲しい。お前達の所の騎士団も壊滅したみたいだしな」
「えっ、ええっ、10,000人ですよ。10,000人の騎士団が1,000人そこそこの兵士に負けたと言うのですか」
「お前達とは鍛え方が違うんだよ。取り敢えずこいつ等には魔封手枷をはめておけ」
「了解しました」
魔封手枷とは魔法を封じる手枷だ。これを付けられるとどんな魔法も使えなくなる。
後は地力勝負だが、日本の高校生程度の腕力など獣人の8歳児にも勝てないだろう。
騎士団の方では指揮を執っていた団長のハルメルだけは生け捕りにしてあった。
「勇者様、我々がふがいないばかりに申し訳ありませんでした」
「それは僕達だって同じですよ。この人達に勝てなかった」
「なぁ、聞かせてはもらえないだろうか。どうしてあなた達は勇者様よりも強いのだ」
「それは経験と覚悟の差だ。こいつ等には経験が少ないのと己の命を賭ける覚悟がない。それでは俺達処か魔王にも勝てないだろうよ。それにな、勇者と言うのは魔王を倒してなんぼなんだよ」
「それと同じ事を先日言われました」
「そうか、わかってればいい」
「さて、それでは行くか」
「何処へ行くと言われるのだ」
「それはお前達の国に決まってるだろう。今回の落とし前を付けてもらわないとな。お前達は宣戦布告をして国境を越えて来たんだ。負けた時点でお前らの首は刎ねられていてもおかしくはないんだ。その事をようく肝に銘じておくんだな」
今回聖教徒法国に向かったのはゼロとハンナとシメの3人のみだ。それに二人の勇者とハルメルを連れてワイバーンで国境を越えた。
ダッシュネル達も行くと言ったが、あの国では獣人はやはり目立ち過ぎる。ハンナには変装をさせればいい。
その代わり向こうにつけば転送魔方陣を敷くとハンナがダッシュネルに言った。
そうすれば必要になればいつでもこちら側から駆けつける事が出来る。と言う事で話がついた。
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