第28話 驚きの出会い

 それから幾ばくかの時が過ぎゼロは今一人で聖教徒法国への旅を続けていた。


 勇者吉村の護衛に付いていた聖騎士団からの情報によると今回召喚された勇者は6人いると言う事だ。


 その内の一人が死んだ訳だからまだ5人が残ってる。さてその5人はどんな人物でどんな力を持ってるのか。これはどうしても確認しておく必要があるとゼロは思っていた。


 幸いシメは今ハンナの所で特訓中だ。だからシメはしばらくはそのままでいいだろう。


 それに今これと言った問題も起きてはいない。なら丁度いいだろうとゼロは冒険も兼ねて聖教徒法国へ行ってみる事にした。


 そこは100年前にも行った事があった。そしてそこはミレの出生の国だ。


 ミレはそこでハイルレーン伯爵家の長女として生まれ、3歳の時に闇の奴隷商人達に攫われて、辛うじて逃げ出してそれ以来たった一人で森の中で生きていた。


 7歳の時にゼロと出会い、それ以来ゼロの弟子、またパートナーとして長年冒険を一緒にした。またミレはゼロを父としても慕っていた。


 そしてミレの才能はずば抜けていて、人類最強とまで言われ護神教会騎士団の団長を務めていた。


 しかしミレはやがて神に感化され信託を受けてこの世のイレギュラーたるゼロを排除する為に真の「神の聖戦士」としてゼロの前に立た。


 二人の戦いは壮絶を極め、天地をも揺るがす程の戦いだった。そのミレの力は凄まじく遂にゼロは片腕を失くしてしまった。


 そこに割って入ったのが獣人国の英雄ゼロマだった。


 ゼロマもまた奴隷だった身を7歳の時にゼロに救い出され、それ以来ゼロの奴隷としてまた弟子として、そしてパートナーとしてミレと同じ様な道を歩んだ。


 やがてゼロマは獣人国の中心人物、英雄として獣人国の独立に立ち上がった。


 そう言う意味ではゼロマはミレの妹弟子、そしてゼロマもまたミレ同様にゼロの波動拳を極めていた。


 ミレは神の為にゼロマはゼロの為に戦った。二人の同門対決は波動拳最終奥義烈破の応酬に及んだが力は互角。引き分けに終わってしまった。


 その戦いを見たゼロは双方に波動拳の皆伝を授け、ミレとの最後の戦いに挑んだ。


 そしてゼロがした事は、まだその二人にも見せた事のないゼロの最終闘法、闘気法でミレ共々虚空の彼方に消えて行った。


 ゼロマはゼロの消えた後もゼロお師匠様は生きていると信じ、ゼロの意思を継いで戦い続け遂に獣人国の独立と大陸の覇権に漕ぎつた。そして100年の歳月を持って没した。


 ゼロは傷ついいた体を癒す為に100年の眠りについていた。


 ミレもまたゼロによって101年の眠りにつかされ再びこの世に蘇生した。


 眠りに手を貸した神龍により事情を聞かされたミレは自分のした事に驚愕を覚え、その真実を求めまたゼロに対する自責の念を持って傷心と放浪の旅に出た。


 その後二人は出会ってはいない。


 ゼロは今回この世界に来てから、3人の「ノーリターン」と言うパーティを組んでいた。それはゼロとシメとハンナだ。


 しかし今回はゼロ一人なのでパーティ名を使わず一人の単独冒険者として旅をしていた。


 聖教徒法国への道のりは知っているが今回は新しい冒険を兼ねてまた違う道を通ってみようと思っていた。


 このヘッケン王国も大分落ち着いて来たが、まだ地方では十分な治安や警備体制の整ってない所もあるので、荒れた危険な所も多かった。


 国の統治の初期段階とは皆こんな物だろう。ただそれでもまだ救われる所は以前に一度人族によって統治されていたと言う事だ。


 とは言え100年も経てばそのシステムも直ぐに復帰するとは思えないがないよりはましだろう。


 ただこのヘッケン王国の新王は名君だと言う噂だった。100年前の戦争の時に王家の存続を願って当時の王女カロリーナはその母親、王妃と共に中央モラン人民共和国に亡命していた。


 そしてその時から三代の月日が流れ今の新王はカロリーナの孫と言う事になる。


 新王ゼロンバーグは文武両道に優れた名君だと言われている。


 中央モラン人民共和国に亡命している時に一族の面倒を見てくれたのがクルーゼン侯爵だっだ。


そしてそのクルーゼン侯爵と言うのは文武両道に優れた領主であり、彼の持つ騎士団の強さには定評があった。


 特に当時の副団長はヘッケン王国随一の剣士と言われていた。そして剣豪の位を受理していた。


 本当は国王は剣聖の位を授けようとしたらしいが、何故かその副団長は強固に辞退したらしい。詳しい理由はなにも書きとめられてはいない。


 そして亡命した王家の男子はその剣士より剣の指導を受けたと記されている。


 その剣士より言い伝えがあった。我が祖師の剣は「無の剣」だと。


 そしてその新王の胸には一つの光るペンダントがあった。それがどう言うペンダントなのか誰も知らなかった。


 その名君の基、王都の治安は急速に回復していた。


 ただ今ゼロが歩いているこの辺りはまだまだ治安は悪い。街道には山賊や強盗団もよく出ると言う話だ。


 そしてテンプレの様に少し行くと山賊に襲われている馬車があった。先頭の一台は持ち主の馬車だろう。そしてもう一台荷馬車が付いていた。これには何か荷物を運んでいるのだろう。


 恐らく賊はこの荷を狙って襲って来たのだろ。きっと中に何か金目の物があると思ったんだろう。先頭の馬車がそれなりに裕福そうな馬車だったので。


 ゼロはどうするかなと考えていた。助けるかそのままにしておくか。普通多少なりとも腕に覚えがあれば、もしくは正義感があれば助けるだろう。


 しかしゼロの感性はまた違った。「戦場の死神」はそこまでお人好しではなかった。仕事なら話はまた別だがと考えていた。


 一応確認してみるかと思っていた所に助けが入った。それは子連れの女だった。


 女は炎魔法で瞬く間に山賊達を蹴散らしていた。大した魔法使いだとゼロは思った。


 あれなら後はもう大丈夫だろうと思ってその場を離れようとした時、「あんたちょっと待ちなさいよ」とその女から声が掛かった。


「俺に何か用か」

「何あたしを無視してんのよ」

「俺はお前の様な子持ちは知らんが」

「あのね、従者があたしを無視してんじゃないわよ」


「なに。おい、それはちょっと化け過ぎじゃないのか」

「化け過ぎとは何よ、ナイスバディはナイスバディでしょうが」

「お前、あの時より若作りしてないか」

「いいじゃないの若いんだから」

「どこが若いんだ」


「お師匠様、何ですかこの無礼な輩は」

「何だこのガキは」

「黙れ無礼者め、成敗いたすぞ」

「おいカロール。何だこの馬鹿は」

「馬鹿とは何だ、馬鹿とは」

「お黙りメルチ」

「はい、お師匠様」


 そこに馬車から飛び出して来たのは少し恰幅の良い中年の男だった。


 この馬車に付いていた二人の護衛は山賊達によって殺されてしまった。もうダメかと覚悟をしていた時に助けてくれたのがこの子供連れの女性だった。


「この度はお助けいただき誠にありがとうございました。わたくしはコルメ商会のゴルメルと申します。貴方様が通りかかって下さらなければわたくしめは殺されていた事でございましょう。貴方様は正に命の恩人でございます」

「そんなに気にしなくてもいいわよ。ついでだったから」

「いいえ、命の恩人は命の恩人でございます。あのこれからどちらまで」

「この先の町まで行こうと思ってるんだけど」

「左様でございますか。ならもし出来ればその町まで護衛などお頼み出来ないでしょうか。勿論報酬十分お支払いさせていただきますので」


 そう言う事ならとカロールはこの先の町アンダールカまでの護衛を引き受けた。


 その時ゼロは強引にカロールに引き込まれゼロも護衛に付き合う事になってしまった。


 カロールと一緒にいたメルチと呼ばれた子供は一緒にこの馬車の主人の馬車に乗り、ゼロは護衛が使っていた馬に乗って外の護衛につく事になった。


 何で俺がこんな事をしなければならないんだとゼロはボヤいていた。

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