第27話 魔王の試練

「ようーガルーゾル、久しぶりだな」

「おいおい、本当にゼロかよ。今までどうしてたんだ」

「ちっとした雑用で出かけてた」

「そう言えばお前は人間界にいたそうだな。カロールの指示か」

「まぁ、そんなところだ。ところでカロール様は」

「お前知らなかったのか。カロールは人間界に行ったぞ」

「何だって人間界にか。入れ違いになってしまったか。でも一体何の為に」


 そこでガルーゾルは四天王様達の御前会議で人間界の勇者達の実力を調べる為にカロール魔界将軍様に白羽の矢が立ったのだと言った。


「勇者の情報か。確かにカロール様なら人間界に詳しいからな」

「ところでどうなんだ。お前は勇者について何か知ってるか」

「いや、まだ詳しいことは何も分からん」

「そうか、ならカロールがもう少し詳しい事を調べて来るかも知れんな」


 だといいがなとゼロも思っていた。


「そうだな。それで魔王様は復活されたのか」

「おお、そうだ喜べ。無事に復活されたぞ。ただな」

「ただ何だ」

「まだ復活されて間がない」

「つまりまだ力が完全に戻っておられないと言う事か」


「そう言う事だ。ところでお前はこれからどうするんだ」

「そうだな、カロール様が帰って来られるまで少し待ってみるか」

「それはいい。じゃー今晩は俺の館に来い。一緒に飲み明かそう」

「まぁ、たまにはいいいか」


 その夜はカロール魔界将軍様以外に誰一人として館に連れて来た事のない主人なのに今回は客だと言うので家人達が驚いていた。


 そしてゼロを見た執事長は、あの時我が主人と壮絶な闘を繰り広げた人物だと知って驚いた。


 この人物は我が主人がバケモノだと評した人物でもあった。そしてその人物がカロール魔界将軍様の従者であり、また2,000年間誰も受けた事のない「魔界英雄」の称号を受理した人物だと聞いて更に驚いていた。


 その夜は二人だけの宴会となった。しかし家人達はお館様がこんなに屈託もなく楽しそうに話している姿を見るのは初めてだった。


「なぁ、ガルーゾル、魔王様は本当に人間界に進軍すると思うか」

「さーどうだろうな。それは魔王様の御心一つだろう。ただ一つ気になる事は、さっきも言ったが魔王様は復活されてまだ日が浅いと言う事だ」

「つまり魔王としての実力を完全に取り戻すまでにはまだ時間が掛かるかも知れないと言う事か」

「そう言う事だ」


「それとなどうもカロールの態度が気に掛かる」

「どう言う事だ」

「何だか人間界との戦いを望んでいない様に思えてな」

「それは勇者の事か」

「それもあるが何か他に気がかりな事がある様に思えるんだ。勇者以外に」

「勇者以外にか」


「そうだ、勇者以外にだ。そんな存在が人間界にはいるのか」

「さーどうかな」

「今回の調査ではきっとその事も調べるんだろうな」

「そうか。そう言う意味も含めた調査か。それは四天王様や魔王様もご存じなのか」

「いや、ご存じないだろう。俺がそう感じただけだからな」


 カロールと別れてもう四年以上が経った。それにその間に獣人国もヒューマン国も随分と移り変わりがあった。


 それらも含めて俺の消息をも探そうと言う事なんだろうとゼロは思った。


 ゼロとしてもカロールやガルーゾルとは出来れば戦いたくないと思っていた。勿論戦争となったらゼロは私情を挟む様な男でない事はわかっている。


 なら戦争が起こる前に押さえてしまえばいい。実に簡単な思考だがそれが実行出来る人間はまずいない。


 ゼロは単独魔王城に来ていた。


 ここもまた四天王の城と同じく殆ど警戒がなかった。それはそうだろう、魔王に歯向かおうなどと考える悪魔は誰一人いないのだから。


「あんたが復活した魔王さんかい」

「貴様は誰だ」

「俺は一介の従者だ」

「従者と言う事は魔界将か魔界将軍の付き人と言う事だな」

「まぁ、そんなとこだ」


 魔王はここで軽く威圧を掛けてみた。普通の魔界将ならこれだけで動けなくなっているはずだった。


「ほーこれに耐えるか。並みの従者ではないと言う事か」

「なぁ魔王さんよ。本気で人間界に攻め込もうと思ってるのか」

「当然じゃろう。600年前にわしを闇の底に封印してくれたからの。復讐しなければならんだろう」

「もう600年も昔の事だろう。水に流す事は出来ないのか」

「600年などわしに取ってはついこの間の事じゃ。水には流せんのう」

「しつこいね、あんたも」


 その時魔王の威圧が更に上がった。これは四天王ですら耐えるのに苦労するレベルだろう。


 それでもゼロは平然と立っていた。


「ほーお主何者じゃ。四天王よりも強いと言う事か」

「どうしても止めないと言うのならここで止めさせてもらうがそれでいいか」

「面白い事を言うの。わしを止めると言うのか」

「そうだ」


 その時ゼロの気力が跳ね上がった。それは魔王の威圧を遥かに超えて。


「ま、待て。お前は何だ。何故わし並みの魔力を持っておる」

「この程度で驚いてもらったら困るな。では全開と行くか」


 遂にゼロは「戦場の死神」の全開モードになった。それは魔界そのものを揺るがすほどの気圧だった。


 魔王城の外では全悪魔達がパニックに陥っていた。一体何が起こったのかと。天変地異でも起こったのかと思っていた。それ程の衝撃だった。


 魔王城はこの気圧を受けて徐々に崩壊しつつあった。


「ま、待て。何なのだこれは。お前は何だ。魔聖人様かそれとも神の僕か」

「ん?何だ、その魔聖人と言うのは。お前の上にまだ誰かいるのか」

「ああ、仮にこのわしを倒しても魔聖人様は倒せぬよ。神を倒せぬ限りはな」


 ゼロはこの時、神と同等の存在を知る事になった。この世を司る神、それと同等の魔聖人。面白いとゼロは思った。


「今の俺はそんな事はどうでもいいんだよ。ともかくお前だ。お前の魔王としての力はまだ完全ではないだろう。なら完全になるまで待ってやるから修行しろ。それまで人間界への進軍は止めておけ。でなければ死ぬぞ」


 そう言ってゼロは体を半身にして波動拳最終奥義烈破を放った。それは魔王をかすめて王座を貫き城の外壁までをも貫き大きな穴を開けた。


 これは例え魔王と言えども耐えられるものではなかっただろう。直撃を受ければ死ぬ。その事は魔王自身が一番よくわかっていた。自分の力を遥かに超えると。


「俺の言いたい事は伝えた。後は自分で考えろ」


 そう言ってゼロは消えて行った。


「まさかあ奴が魔聖人様。まさかな」


 この騒ぎで魔王の側近達が駆けつけて来た。


「魔王様、大丈夫でございますか。何かございましたか」


 そして壁に空いた穴を見て側近達は腰を抜かしていた。こんな事は魔王様以外に出来る者はいない。それがどうして魔王様に向けられているのかと。


 誰にも何もわからなかった。ただ魔王の命令でここで見た事は一切口外するなと緘口令を敷かれた事だけは確かだった。


 心底魔王自身もあの瞬間は震えていた。この魔王たるわしがと。しかし力は正直だ。今の魔王の力では到底勝てない相手だと言う事だけはわかった。


「修行しろか。面白い事を言う奴だ。いいだろう。お主を超えて見せよう」


 それからしばらくして人間界への進軍は一時中断となった。何がどうなっているのか四天王達にもわからなかったが魔王様の決定だ。


 誰にも何も言う事は出来なかった。しかし中には内心安堵し喜んでいる悪魔達もいた。


「なぁゼロ、人間界への進軍が中止になったらしいぞ」

「それはまたどうして」

「さー俺にもわからん。しかしこれで少し息がつける。皆が皆戦争を望んでる訳じゃないからな」

「お前はどうなんだ、ガルーゾル」

「俺はどっちでもいいかな。命令だと言うなら戦うさ」

「やっぱりお前らしいな」


「お前だってそうだろう。聞いたぞ南の四天王様との戦いの事を。大活躍だったそうじゃないか」

「それ程でもないさ。ただ敵対する者は叩き潰す。それだけだ」

「やっぱりお前とは敵対したくはないものだな。はははは」


 ゼロも同じ事を考えていた。こいつとは敵として出会いたくははないものだと。ガルーゾルは魔界で出来た戦友の一人だ。


 その後ゼロはカロールを追って人間界に行くと言った。今回の件もカロール様に報告しなければならないのでと言うのが理由だった。


「わかった。気を付けて行ってこい。帰ったらまた一杯やろう」

「ああ、それではな」


 ゼロは魔王の人間界進軍を一時押えて人間界に帰って来た。いつか魔王とは戦う時が来るかも知れないがその時はその時だと思っていた。

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