第26話 魔王の復活
シメをハンナに預けてその間にゼロは一人で各地のダンジョンの中にあるかもしれない魔素球の捜索をしていた。
これがもし中央大陸の各地にばら撒かれて相手の力や魔力を衰退させる魔法陣を構成していたら人族や獣人達の力も衰える事になる。
そしてそれは約80年前程から実際に効果を発揮している様だ。恐らくは魔王復活後の戦略として考えられていたのだろう。
ゼロが100年の冬眠から覚めてから感じた冒険者や騎士達の力の減退はこれが原因だろうと思われた。
だからこそその魔法陣を壊す為にゼロは各地のダンジョンに隠されていると思われる魔素球を見つけ破壊していた。
その為にいつしかゼロには「ダンジョン殲滅者」と言う二つ名を付けられていた。
今日もまたゼロは一つのダンジョンの町に来ていた。そこはヘッケン王国の東にある
た。
この町でゼロは冒険者登録を行ってダンジョンに向かう事にしていた。
ここはどちらかと言うと鄙びた感じのする町だ。
普通ダンジョンのある町と言う物はもっと活気があっても良いはずなのに何故かここではそれがない。
不思議に思ってその事を町の住人に聞いてみるとここのダンジョンでは高位の魔物が現れないと言う。
出て来るのは精々がFランクEランクの小物ばかりだと言う事だった。それではいくら狩ってもまともな収益は得られない。
まして周囲の森でも似た様な物だと言う話だ。なるほどこれでは冒険者もこの町を離れて行く訳だ。
そして町はダンジョンの町であるにも関わらず精彩を欠き活気のない町となっていた。
町の者達は農作業で生計を立てている様だ。さいわい田畑を荒らす強い魔物も現れないのでその点では救われていた。
ゼロはその低レベルと呼ばれるこの町のダンジョンに潜ってみた。ダンジョンその物はかなり大きなダンジョンで50階層までありかっては多くの魔物で賑わっていたと言う。
それがいつの間にかこうなってしまったらしいがその原因は誰にもわからないと言う。
ゼロは10階層辺りまで潜って見たが確かに中はダンジョンの体をなしてはいるが本当に閑散としてまともな魔物は一匹として出ては来なかった。
スライムやダンジョンネズミ、蝙蝠と言ったクズ魔物ばかりだ。
なる程これでは冒険者も来ない訳だ。たまに若いと言うよりも少年の様な冒険者達がここでそんな魔物狩りをしていた。
「おっちゃん冒険者だろう。ここに来ても大した魔物はいないよ」と言われる始末だ。
ならお前達は何故ここに居るのかと聞くとこんなクズ魔物でも俺達に取っては日々の糧になるからと言う答えだった。
労多くして実り少なしと言う感じだがそれでもそれをやらないと食っていけない者達もいると言う事か。
お前達は何処まで潜ったのかと聞くと、俺達は15階層辺りまでだけど行っても30階層位までではないかと言う。
そこでもここと似た様な物だと言う話だった。ならそれ以上はと聞くと誰も行かないと言う話だった。
何故30階層以上行かないのか。行っても無駄だからかそれとも行く必要もないのか。ともかくこのダンジョンは30階層辺りで途切れている様だ。
面白いそれでは行ってみるかとゼロは30階層を目指した。
不思議な事に30階層は洞窟と言うよりは岩山と草原の様な作りになっていた。ただそこは終わりのない草原だった。
何処をどう歩いても元の草原に戻ってしまう。まるで先のない迷宮の様に。
これではここで迷って帰れなくなり命を落とす者もいるだろう。それが証拠に至る所に白骨が転がっていた。
それが死霊となって襲って来る事もあるだろう。まさにここはこのダンジョンの墓場の様な所だ。
それだけにゼロには人為的な物が感じられた。しかもここには誘導と回避結界が施されている。
かなり箕臼で高度な結界なので普通の者では見抜けないだろう。
ゼロはその結界を見つけて中に入って行った。するとそこはゼロには馴染みのある雰囲気だった。つまりそれは魔界の瘴気だ。
『ダンジョンの中の魔界か、これは面白い今まで以上に強力だな。ならそろそろ守番でも出て来る頃か』
ここだけは今までのダンジョンとは違い魔物も少し歪な強力な物がいた。恐らくは魔瘴気を受けて変化したんだろう。
早速オーガが現れたがこいつの大きさは既にオーガキング並みだった。表の世界ならAからSランクと言った所か。
こんな物が闊歩するようじゃ仮に冒険者が入り込んだとしても生きては帰れんなとゼロは思った。
「おい、向こうの草原を見ろよ。久しぶりの冒険者だぞ」
「まぁここまで入って来れたんだ、それなりの冒険者なんだろうよ」
「なら俺達の餌にはうってつけだな」
「しかしあのオーガの奴。先に食っちまわねーか」
「そうだな、ちょっと様子を見てみるか、食われそうなら横取りすればいいけだ」
「そうだな」
しかし勝負はあっさりとついてしまった。ゼロのパンチで爆死した。
「おいおい、まじかよ。本当にオーガを倒しやがったぞ」
「これは上玉じゃねーか、絶対に食わねーとな」
喜び勇んで二体の悪魔はゼロの前に躍り出た。
「やはり悪魔か。しかしお前ら小物だな」
「おい人間、今何と言った。俺達を小物だと」
「そう言ったが悪いか」
「お前はまだ悪魔の恐ろしさを知らんようだな、それを今見せてやろう」
「まぁ待て、お前ら下位悪魔だろう。せめて中位悪魔くらいはいないのか。何なら上位悪魔でもいいんだがな」
「舐めるなよ人間。お前らには俺達でさえ雲の上の存在なんだよ」
「全然強い様には思えないがな」
「言わしておけば、貴様死ね」
一体の悪魔が牙と爪を立てて襲い掛かって来たが、ゼロの突き一つで体の中心部に大穴を空けてしまった。
「ば、馬鹿な、なんでだ」
そう言ってその悪魔は死んだ。
もう一体の悪魔もまた殆ど抵抗する暇もなく殲滅させられてしまった。
ゼロは更に先に進んだ。ここは31階層だ。前の30階層とそんなに変わらないが少し森林が出てきたようだ。
「おいおい、あいつ人間じゃないか。どう言う事だ。前衛の奴ら抜かれたのか。まったく役に立たない奴らだな。何をしてやがるんだ」
「どうした」
「はい、クレゲント様、どうやらここに人間が入って来たようです」
「それは珍しいな。わしが何人か中に入れろと言った時以来か。あれからどれ位になる」
「そうですね、かれこれ20年位にはなるかと」
「そうか、なら丁寧に頂かないとな」
「はい」
ゼロはそんな事を言われてるとは知らず彼らの元に向かっていた。
『今度は三体か。ん?、一体はほんの少し強そうだな』
ゼロ達の前に二体の悪魔が立ちはだかり、もう一体はその後ろで様子を眺めていた。
「お前、前衛の奴らをどうした」
「前衛ってあの二体の屑悪魔か」
「貴様、我らを屑だと。面白い事を言ってくれるな人間よ」
「屑だから屑だと言っただけだ。今度は中位悪魔か、後ろにいるのが上位悪魔だな」
「貴様に我らの違いが判るはずがあるまい。我らはお前らより遥か上位の存在だ。貴様に我らの力など判断出来るはずがあるまい」
「そうでもないぞ、お前ら魔将よりも弱いだろう」
「ま、魔将だと。何故お前はその名を知っている」
「魔将と言うのは大体魔界将軍の副官クラスか指揮官と言った所だろう。ならお前らは平の一兵卒位か」
「き、貴様」
「まぁ待て。お前は人間だろう。何故それだけ我らの事を詳しく知っている」
「一応この目で見たからな」
「嘘をつくな、普通の人間が魔界に来れる訳がなかろう。直ぐに死んでしまうわ」
「そうか、しかしここの魔瘴気もほぼ魔界と同程度の濃度だろう。俺がここで生きていると言う事は魔界でも生きていられると言う事ではないのか」
「クレゲント様、こいつは一体」
「構わん、殺せ」
「はい」
二体の悪魔がゼロに襲い掛かったが、前回同様あさりと片付けられてしまった。
「ば、馬鹿な、何故我々が人間程度に負けるのだ」
「それだけお前らが弱いと言う事だろう」
「何を馬鹿な事を言っている。悪魔が弱いだと」
「そんな事よりお前らはここで何をしている。ここは表の世界だぞ」
「我らが何処で何をしようが人間の知った事か」
「それはおかしいな。確か南部地区の四天王は人間界には侵略しないと約束したのではなかったのか」
「な、なに、何故お前はそれを知っているのだ」
「お前は南部地区の悪魔か」
「お前に教える必要はないわ」
「そうか、ならお前の体に聞くしかないか」
「わしの体に聞くだと、舐めるなよ人間」
そしてそのの上位悪魔はゼロに拘束魔法を掛けたがゼロの手前で消滅してしまった。
「な、何故だ、何故俺の魔法が効かぬ」
「お前の力では無理だな、所詮は力不足と言うものだ」
「そんな馬鹿な」
それでは聞かせてもらおうか。そう言ってゼロは容赦のない「気圧」をこの悪魔に浴びせた。それはもはや魔将を通り越した魔界将軍並みの気圧だった。
その気圧だけで悪魔の先端が溶け始めていた。
「ぐふ、こ、この程度で悪魔が屈服するとでも思ったか」
「お前は体が消滅してもまた復活すると思ってるんだろうがそれは考えが甘いな。俺の気圧の前では復活する事は不可能だ。試してみるか」
そう言っている内にも悪魔の体がどんどん溶けだして行った。そして復元する気配は全くなかった。
「ま、待ってくれ、いや、待ってください。何でも話しますから命ばかりは」
「悪魔でも命は惜しいか。ではお前は何処の所属だ」
「俺は東部地区のものです」
「南部地区ではないのか、東部地区と言うとカイヤル四天王か」
「な、何故その名を知っている、いや、知っているのですか」
「北と東は前の戦争の時には静観の姿勢を取っていただろう。その東が何故表の世界に手を出して来た」
「それは我々の様な下っ端には聞かされていません。ただ今回は魔王様の指示だと」
「何?魔王様だと。魔王が復活したのか」
「はい、最近復活されたそうです」
「ではお前はどうやってこの表の世界にやって来た。結界があるだろう」
「魔導士が横穴を空けてダンジョンにつなげたのです。一種の亜空道です」
「それはこのダンジョンだけか」
「それはどうだか、ただ数人の魔導士が動いていたようですから」
と言う事はここ以外にも魔界につながる横穴がある可能性があると言う事だ。しかも魔導士達の魔力が上がった。
そしてその奥にあった魔素球は更に魔力を増していた。
つまりそれは魔王の復活によるものか。ならば尚更急がなければならないなとゼロは思っていた。
「この穴を進めば魔界に入れるのか」
「一応魔導士達が結界を張ってますが」
「つまりお前達以外はもうこっちには出て来ないと言う事だな」
「今の所はですが」
「そうか、ご苦労だった」
そしてその悪魔は消滅した。ゼロが悪魔を開放する事はあり得ないのだ。
魔王の復活によって悪魔達の魔力が増大したとすると悠長に魔素球を探している時ではないなとゼロは思った。
この際一番手っ取り早いのは元を断つ事か。ならやはり行くしかないかとゼロは三度目の魔界に入る事になった。
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