第22話 シメの対魔法訓練
中央モラン人民共和国でのゴタゴタとヘッケン王国のサザンでの粛清が終わった後、ゼロとシメは自分の本拠地としているソリエンの町に帰って来た。
ハンナは途中で獣人国カールへと帰って行った。
彼らが今回の事で報酬として相当な金子を貰った事は言うまでもない。
ただしその多くはマテップ公爵がため込んでいた金庫から出されているのでそれほど王家の懐は痛んではいないはずだ。
それとこれは余談だが中央モラン人民共和国の魔法学園の方は、全員が臨時教師と言う扱いだったのでマテップ公爵の反乱が終わった時点で休職と言う事で学園を離れた。
何故退職ではなく休職扱いになったのか。またいつか頼む時があるかも知れないと言う事でカラスのゴリ押しだった。
しかしこの国最高の魔法使いでありこの学園の学園長兼理事長が帰ってきたと言う事で学園には再び活気が戻って来た。
そしてカラスもまたゼロ達が地ならしをしてくれた学生はみな平等の精神を引き継いでいた。
ゼロ達がいた時には皆に恐れられ怖がられ、毛嫌いしていた者達もいたが、いざいなくなってみるとあの3人の技術力と指導力の高さが今更のように惜しまれていた。
ゼロは今回の事を通してあのクソ神はまた前回同様にクズの人間達をこの世界に召喚させたものだと思っていた。
勿論全員が全員クズだとは限らないがクズの仲間を満足に矯正出来ない事からしてその仲間の質も知れたものだと考えていた。
ただ今回の事で一つシメに課題が残った。それは魔法に対抗する力だった。勿論ゼロ同様にシメにも魔力がないので精神系の魔法は効かない。
しかし物理系の魔法には詩芽ではまだ問題があった。ある程度の物は気圧と斬撃で相殺したり破壊する事は出来るが捕縛系の魔法には弱い様だ。
捕縛系と言っても色々ある。この前に捕まった体を束縛してしまう魔法もあれば自然物を使って束縛したり隔離されたり監獄状態にする魔法もある。
また重力魔法や風魔法、雷電魔法なども戦いにくい相手だろう。課題はまだまだ山積だった。
それらを克服する為にゼロは逆にシメを獣人国カールのハンナの元に送り込んだ。魔法の対処法を修行させてやってくれと。
シメに取って獣人国は初めて見る国だ。そもそも獣人自体がハンナや一部の者達を除いては全く知らない世界だった。まるでアニメの世界の様だと思っていた。
初めはどうなる事かと思ったが意外とシメは順応が早かった。勿論それは彼女の持つ力と好奇心があったからだろう。
人族の世界に獣人はまだいる。しかし移転した獣人国に人族はまずいないと言うのが今の状態だった。
そんな中に一人で放り込まれたのだ、全く問題がなかったかと言えば嘘になる。
ハンナ達知り合いといる時は良いが、一人で町を歩いている時に突っかかって来る者がいないかと言うとそれはいる。
人族などかっては俺達の下僕みたいな者だったと思ってる獣人も残念ながらまだいる。あの時からそれほど時は経っていないのだ。
シメはこの世界で冒険者の肩書を持っているので何処の国に行こうが問題はないのだが、それを良しとしない者達もいると言う事だ。
それはかって片腕になっていた時のゼロの状況によく似ている。
この時もシメが何か珍しい物はないかと町を歩いていると3人の厳つい獣人達が絡んで来た。
「おい、ヒューマンがこんな所にいやがるぞ」
「何だとヒューマンだ。しかも女じゃねーか。俺達にやられに来たって訳か。おもしれーじゃねーか」
「じゃー頂いちゃおうぜ」
この手の者は種族に関係なく何処にでもいる。日本でなら暴漢や愚連隊、またはハングレやくざと言うのかも知れない。
幸いシメはこの手の連中には慣れていた。むしろそう言う連中の中にいたと言ってもいい程だ。
『本当に面倒ね、こっちの世界でも』
シメが少し遊んでやるかと思った時、横から声が掛かった。
「おっさんら何やってんだよ。ヒューマンの女相手に恥ずかしくないのかよ」
「何だとガキが、怪我する前に引っ込んでろ」
「そうもいかなくてな。俺達はヒューマンに借りがあるんでな見捨てる訳には行かなんだよ」
「クソがきが、ぶっ潰すぞ」
そう言って殴りかかって来た熊獣人を綺麗に投げ飛ばしていた。全く無駄も淀みもなかった。
「クソがー」と言って殴りかかって来たこっちのブタ獣人は今度はもう一人の子供の蹴りで綺麗に吹っ飛ばされていた。
残った3人目の子供に「おっさんまだやる」と言われた獣人の大人達はタジタジとなって逃げて行ってしまった。
それにしても今この子供達が使った技は余りにもゼロの技によく似ていた。
もしかしたらこの子供達もハンナの弟子なのかと思ったほどだった。
「ありがとう僕達。助かったわ」
「いえ、いいんですよ。俺達昔ヒューマンのおっちゃんに世話になったんで」
「そのおっちゃんってさ、もしかしてゼロと言うんじゃないの」
「えっ、どうしてその名前を知ってるんですか」
「やっぱりね、あんた達が使った技、ゼロさんの技と同じだったからよ」
「そうなんだ。お姉ちゃんゼロの事知ってるんだ。ねぇ、教えてよ、ゼロは今何処にいるの」
シメは取り敢えず子供達が住んでると言う家に招待された。そこは一軒家で子供達6人で住んでると言う事だった。
でもこれだけの家を維持するには経済的に大変だろうと思ってその点を聞いたら、自分達は冒険者なので魔物を狩って金に換えていると言っていた。
シメはあの腕を見ればそれもありかなと思った。
そしてお姉ちゃんも冒険者なんだと言う事でまた話が弾んだ。
シメは、ゼロは今人族の国、ヘッケン王国のソリエンと言う町で冒険者をやっていると子供達に教えた。
「ええっ、嘘。そこって俺達が住んでた町じゃないか」
「そうだよな。ゼロ帰って来てたんだ。でもここからじゃ遠いよな」
「でもさーレワン兄、俺達冒険者だから行って行けない事ないんじゃない」
「そうだよね、俺ゼロに会いたいよ」
シメはゼロがこんなに子供達に慕われているとは知らなかった。しかも獣人の子供に。ゼロの新しい面を見たような気がした。
それからシメは時間のある時にこの子供達の冒険者活動に付き合って一緒に魔物狩りに出かけた。
彼等の住む町の近くには大きな森があり、魔物の数も多く十分な冒険者活動が出来た。そのお陰て彼らも生活の維持が出来ていると言う事になる。
しかも森に入った彼らの動きは大したものだった。シメがゼロから習ったサバイバル・スキルをそのまま実践していた。
これもゼロに教えられたんだと子供達は言った。
そうか、ゼロさんはハンナさんや話に聞いたゼロマさんの様な子供達にも生きて行ける方法を教えていたんだとシメは思った。
しかもこんな小さな子供達に。それに比べて私は向こうの日本と言う国でどんなに平和ボケしたノホホンとした生活をしていたのかを思い知らされた。
そんなもの一つ何かが起こって平和が崩れ日常がなくなった時、自分の生活も人生も終わるのだと思った。
そして人々は食料を求めて奪い合い殺し合いをする。
しかしこの子達はきっとそんな中でも森で生き延びて行けるだろう。それが本当に生きると言う事かも知れないなとシメは思った。
子供達の魔物を狩る手際も大したものだった。恐らくはCランクの実力はあるのではないかと思われた。
しかも単独行動はせずに皆で戦略を立てて狩りをしていた。
それはどうしたのかと聞いたら、これもゼロに教えてもらったんだと言っていた。
そうかゼロさんは子供達の体力も考慮してこう言う戦術を教えていたのか。単体で戦うだけが戦いではないと言う事を教えたかったのだろう。
じゃー私も共闘と言うものも学ばないといけないわねとシメは思っていた。
この子供達といると実に多くの学ぶ事があった。これをゼロさんはみんな教えていたのかと今更ながら感嘆する思いだった。
人族であろうが獣人であろうが生きると言う事に隔たりはない。みんなそれぞれの中で努力をしているのだ。
それを理不尽に踏み躙る勇者の在り方は許せなかった。まして自分と同じ世界から来た高校生がと思うと益々腹が立った。
これはゼロさんでなくても潰さないといけないわねとシメは思っていた。
再びシメの「やくざ狩り」ならぬ「勇者狩り」が始まるのだろうか。
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