第17話 ハンナの最終試練

 ここで話を少し過去に戻そう。人獣大戦がはじまる少し前、ゼロとゼロマによって鍛えられていたハンナはいよいよ波動拳の最終段階に差し掛かっていた。


 そこでゼロはハンナを伴って最後の修業の旅に出た。そこで一つの強敵と戦わせてその成果を測ろうと言う目的だった。


 これは当然ミレもゼロマもやらされた事があった。波動拳継承者への最終試練の様な物だった。


 この時ゼロはハンナを伴って北部の国を旅していた。獣人国カールとガルゾフ共和国の北側には小国群があった。


 確か三つの小さな国と少し大きめの国だったか。そこは北方連邦国群と呼ばれていた。


 その中の一つの国、ヨハングと言う小国の中のゲレオンと言う町だった。


 その町の冒険者ギルドに行って見るとそれほど大きなギルドではなかったが、まぁこの辺りの町の規模としてはこんな物だろうとゼロは思った。


 そしてここは人族の町だった。そこで冒険者ギルドにカードの登録をして、ここには獣人はいないのかと聞いてみるとそれは非常に稀だと言われた。


『そうか獣人がガルゾフ共和国からこっちに来る事はまずないのか。ガルゾフ共和国でも特に北側には獣人が少ないからな』


 そこで登録を済ませたゼロ達は何か興味のありそうな依頼を探していた。


 ただ余り大したものはなさそうだった。魔物討伐にしても小物ばかりの様に思える。行っても上がDランクと言う所だった。


 その中で一つ面白そうなものを見つけた。体験結果の評価を求むと言う依頼があった。一体何の体験なのかよくわからない。


 それでそれを受付で聞いてみるとここから5日ほど行った所に小さな村があって、その中に一軒の洋館があり、そこの部屋の寝心地とか使い勝手の様なものの評価を聞きたいと言う事だった。随分と変わった依頼だなと思った。


 リスクは特にない。にも拘らず対価は結構良い金額だ。今までこれに応募した者はいるのかと聞いたら、かなりの者が応募したとの事だった。


 それならもうする必要はないのではないかと思ったのだが依頼は今でも続いているとか。


 それで今まで依頼を受けた者達の評価はどうだったのかと聞いたら、全員申し分ないと言っていたとか。


 そして向こうが気に入ったのでしばらく向こうで暮らすと言う者が増えたと言っていた。


 どうもおかしな感じだと思ったので一度どう言う館なのかその依頼を受けてみようと思った。


 ここから西に5日と言えばかなりの距離になる。この辺り自体が小さな集落だ。そこはここよりも小さな集落だと言っていた。


 そんな所に何故洋館がある。変わった趣味でも持つ貴族が興味本位で建てたのか。ともかくゼロ達はのんびりと森を徘徊しながらその村に向かった。


 食べ物は途中で確保したボアの肉が十分ある。それに野菜もある。だから食うに困る事はない。


 5日目に辿り着いたその村は、いや、村と言うにも小さ過ぎる。山間の谷にぽつんと一つ大きな建物が建っていた。


 その後ろに小さな集落の様なものがある事はあるが、人が住んでるのかどうかも怪しいくらいだ。


 ともかくその洋館に向かってみた。周囲に比べてこれは本当に立派な洋館だ。年季が経ってるのはわかるが建物自体は実にしっかりしていた。これならあと100年でも持つだろう。


 その洋館の表のドアノックを鳴らして見ると中から結構渋い感じの執事風の老人が出て来た。


 老人と言っても背筋がピッシと伸びていて隙のないかなり強そうな人物だなと思えた。


 冒険者ギルドからの依頼を伝えると、どうぞお入りくださいと中に案内された。


 中はどれもこれもシックで気品のある調度品で固められていた。これはかなり金を掛けているなと伺えた。


 当主にお会いくださいと言うので応接室にでも向かうのかと思ったらいきなり食堂だった。


 それも中世に出て来るような縦に長いテーブルで真っ白いテーブルクラスで覆われていいた。


 頭上にはジャンデリアが配置され、テーブルの上にも果物や飲み物が置かれていた。これからパーティでも始めるのかと言う感じだった。


 長テーブルの端に座って待っていると、反対側のドアが開いてこの館の当主と言う人物が現れた。


 それはピッシとした燕尾服に身を包みまさに貴族の出で立ちだった。こんな所で一体なにを体験させようと言うのか。


「この度ははるばる遠くから来ていただきご苦労様でした。どうぞ気楽になさってください。何かお飲みになりますか」

「一応依頼中なのでアルコール抜きの物でもあれば。何なら水でもかまわないが」


「これは随分と仕事に忠実な方なんですね。しかもパートナーが獣人とは珍しいですね」

「この辺りではそうかも知れない。ところで依頼の内容と言うのを聞かせて貰えると助かるのだが」


「わかりました。実は二階に『赤の間』と言う来客用の部屋を作ったのです。その部屋の居心地や使い勝手、その他諸々の事で何か気が付けば教えてもらいたいのです」

「しかしこの依頼は随分前から出しているだろう。それに随分と多くの冒険者も依頼に応じてると聞いたが、まだ足りないのかな」

「はい、部屋は一つだけではないのです。これだけの館ですから相当数あります。ですからそれぞれの部屋について評価を取っておきたいと思いまして」


「ではその部屋に案内してもらえるなか。それで期限はいつまでに」

「3日で結構です。3日後に依頼料は直接払わせていただきます」

「ギルド経由ではなくて」

「はい、ギルドとはその様に契約しておりますので」

「なるほど手間が省けると言えば省けるが。ただ」

「ただ何でしょうか」


「ここからギルドに戻って報酬を貰うのはまずいのかなと思ったもので。いやこれは無視してくれ。ではその部屋を案内してもらおうか」

「はい、どうぞこちらでございます」


『あの男いいですね。それと獣人の方は貴方に任せます。しっかり見張っておくのですよ』


 この男は一体誰と話しているのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る