第16話 ガルーゾルとハンナの戦いの結末

 ゼロはハンナに胸を借りて見ろと言って、魔界将軍の一人ガルーゾルとの模擬戦をやらせた。


 しかしその戦いは壮絶を極めた。前回の戦争ですらこれ程の戦いはなかっただろうと言う程のものだった。


 周囲の地形は形を変え、至る所に陥没のクレーターと亀裂が出来ていた。


 これをたった二人の悪魔が戦っているなどと思う者がいるだろうか。これはもはや戦争に近い。


 ハンナの本気はガルーゾルの本気に火をつけて遂にガルーゾルの最終武器を引き出させた。


 ガルーゾルは指を鉤爪に変化させた。これこそがガルーゾルの真の武器だった。


 しかもこの武器は魔法すらも無効にしてしまう。だからこのガルーゾルは魔法使いに取っては天敵だった。


 どんなにハンナが魔法を浴びせても全ての魔法を跳ね返し、または無効にして襲い掛かって来る。


 魔法使いに取っての最良の戦闘間合いは遠間だ。それも遠ければ遠い程良い。その間に何発もの魔法を叩き込めるからだ。


 しかしこのガルーゾルにはその戦い方が効かない。間合いを潰され、あの強力な鉤爪で襲って来る。少しでも掠ればそれだけで体が割ける。


 恐らくあの刃には魔力が纏っているのだろう。だから下手な結界など一気に切り裂かれてしまう。


 一旦近間に入られたらもう魔法使いに勝ち目はない。しかし、しかし何だこの戦いは。


 ハンナは両手に嵌めたガンレットで対等に接近戦をこなしていた。しかも互角に。


 ガルーゾルの鉤爪受け弾き、または受け流してその間隙に突き蹴りの反撃を浴びせていた。


 これが魔法使いの戦い方か。その攻防はかってゼロとこのガルーゾルが戦った時に類似していた。


 この戦いが見えていたのはゼロとカロールだけだった。この戦いを遠巻きにして見ていたカロールの部下達には、あまりに二人の動きが速過ぎて何も見えなかった。


 ガルーゾルはこの400年間でこの武器を使って負けたのはゼロを入れて3人しかいなかった。


 果たしてこのハンナが4人目になり得るのだろうか。双方のぶつかる魔気は周囲の空気すら震わせていた。


 そしてガルーゾルが鉤爪による最終奥義を出そうとした時、ゼロがその間に飛び込んで双魔剣でガルーゾルの鉤爪を受け止めた。


「ガルーゾル、勝負ありだ。お前の勝ちだ」

「どう言う意味だ、ゼロ」

「あいつはもう魔力切れだ。これ以上は戦えん」


 確かにあれだけ凄かったハンナの魔力が今は消えていた。やはり地力では魔界将軍に軍配が上がったと言う事だろう。


「そ、そうか。しかし何だな、お前凄い弟子を育てたもんだな、びっくりしたぞ」

「いや、まだまだ魔界将軍には敵わんよ」

「そうでもないぞ、こいつは俺の部下に欲しいくらいだ」


「あんた達ね、だから言ったじゃないの、あたしの城を壊すなって」

「城は壊してないぞ」

「周りを良く見てみなさいよ。これって自然災害並みじゃやないのよ。どうしてくれるのよ」


 ともかく全員またカロールの部屋に戻り、ゼロの話をガルーゾルにも聞かせた。


 ガルーゾルも初耳らしく驚いていた。そしてその件に関しては独自に調査して見ると言った。


 そしてその夜はカロールの所で一緒に飯にしようと言う事になって旧交(?)を温めた。


 翌日ゼロとハンナは表の世界に戻り、他にまだあの魔素球があるかどうか探してみると言う事で彼らと別れた。


「ハンナ、お前あの時手を抜いてなかったか」

「いえ、あの時はあれで精一杯でした」

「しかしお前の新しい技『波動魔拳』を使ってなかったよな」

「あはは、わかりましたか」


「確かにあいつは魔法使いには戦い難い相手だ。しかしお前の『波動魔拳』なら何とかなるだろう」

「そうですね、次回チャンスがあれば試してみます」


 カロールの所でも翌日こんな会話がなされていた。


「あんた、あのまま戦い続けていたら勝てたと思う」

「さーな、わからん。ただ気になる事もある」

「なに」

「あの小娘、まだ何か隠している様にも思えたんだがな」


「そうね、あれだけ接近戦が出来るのに、何か必殺技の様な物がないと言うのも変よね」

「ただ魔力切れと言うのもまた本当だろう。ただしその何かを魔力が切れる前に出していたらどうなったかわからんな。ともかく末恐ろしい小娘だ」

「そうね、ゼロと言いあのハンナと言い、卑怯な奴らよね」

「何なんだ、その卑怯と言うのは」


「ともかくあたし達は東部地区の動向を探る必要があるわね」

「そうだな。でどうする、これは将軍会議にかけるのか」

「いいえ、それはまだ止めておきましょう。もう少し証拠が揃ってからね」

「わかった。そうしよう」


 こうして裏と表で東部地区の悪魔の動向を探る活動が始まった。


 ゼロ達はまた同じルートで魔界門に戻って来た。魔界と表の世界を隔てる結界はそのままにしておいた。


 ハンナが表側から結界を更に補強しておいたので、悪魔がここを通って向こう側からこちら側に出て来る事はないだろう。


 もし連鎖魔法陣の話が本当なら各地ににあるダンジョンに同じような魔素球が仕掛けられている可能性がある。


 なら一つ一つ当たって潰して行くしかないだろう。ゼロはこれからダンジョン巡りをしてそれを調べてみようと思っていた。


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