第5話 転送陣は、用法用量を守って正しく使いましょう
結局——
「新婚初夜」
「姫騎士のくっころ(というか大人な恩返しだけど)」
——両方ともお預けとなった……
えぇ、別に残念とかじゃないよ?
うん、泣いてないし?!
目に浮かんでいるのは、ただの「魂の叫び」だから………………
さすがに、姫騎士からの閨のお誘いを新婚の奥さんが隣にいるのにYESできるわけもなく。
これ以上、ドタバタすると、フバルちゃんが起きちゃうしね。
姫騎士ウトラクさん、あんまり「閨がー、閨をー、閨にー」って言わないでね。
イズさんの背後に般若みたいなのが見えてきたからね。
これ以上の状況の悪化を防ぐため、姫騎士ウトラクさんを客室に放り込んだ。
念のため、外から鍵もかける。
蒼炎が無くなったといっても、まだ完全に信用するのもあれだしね。
扉をどんどん叩く音は聞こえない、聞こえない。
それにしても、先ほどの姫騎士ウトラクさんの話で色々と分かってきた。
他国の政情、魔法の技術レベル、民族闘争…………
元の世界にどうやったら戻れるかも分からないし、まだまだ知る必要があるな、この異世界。
自分のチートスキルが何なのかも、はっきりさせたいし。
不可解なことは、もう一つあった。
「ちっとも疲れていない」のだ。
今朝、品川の会社に出勤してから今までで、だいたい30時間以上経過している。
20,30代の頃ならまだしも、五十路の中年男。
こんなに長時間活動したら、いつもなら意識が朦朧とするレベルで疲労困憊。眠気に襲われている頃合いなのに、ピンピンしてるのよね。
でも「疲れない身体」とかではなさそう。
実際、この家に到着した時には、かなり疲れてたし。
それが、姫騎士ウトラクさんのドタバタの後には、いつの間にかスッキリと疲労が消えていたのよね。
これもなにかのスキルなのだろうか?
その辺りの疑問がなんとなく言葉に出ていたらしく、イズがこそっと教えてくれた。
「聖月教の高位神官でしたら、スキル判定ができるかもしれません」
「高位神官……ですか」
イズの話によると、エルフ族の居留地内にも聖月教の教会があるとのこと。
でもエルフ族内では、聖月教の教徒はかなり少ないらしい。
それでも教会があるのは、オーク族に対する牽制の意味合いが強い。
この異世界で最大の宗教である聖月教は、すべての種族に絶大な影響力を持っている。
当然、教会のあるエリアを勝手に侵略したりするのはご法度。
聖月教の聖騎士団によって討伐されかねない。
エルフ族が元々住んでいた大河流域の都市には、聖月教の教会がなかった。
そのことが簡単に侵略された原因の一つらしい。
それでオーク族に侵略された後に、慌てて教会を誘致した。
信仰心に頼って普及させるよりも、宗教組織を拡大させられる上手いやり方だ。
「つまり、オークに対する抑止策として、教会を誘致したんだ」
「はい、それと、その……『婚姻の儀』を挙げる必要もありますし……」
「あ、うん、それは重要だねー」
イズが照れながら言うもんだから、自分も照れるじゃん?
婚姻自体は、双方の合意だけで成立するらしい。
そして、特に事務的な手続きは不要。
ただ、聖月教から色々と便宜を図ってもらうためには、仁義を通す意味合いで、教会で婚姻の儀を挙げた方が良いとのこと。
明日、エルフ族の居留地内にある教会を訪れることにした。
◆
翌朝。
初夜の盛り上がりがラブコメ的に邪魔されたこともあり、イズとは清い関係のまま朝を迎えてしまった。
就寝前に、フレンチなキスだけね。
なんか、それだけで満足したまである。
疲労は感じなかったとはいえ、だいぶ疲れていたのか、気付いたら朝になっていた。
最近、眠りが浅くて2,3時間して眠れないことが多かったので、久しぶりに爽快な気分。
——さて
目が覚めたら、新婚の嫁さんが隣で寝ています。
シングルベッドなので、かなりの密着度。
眠っているイズの寝顔を眺めてみたり……
髪を撫でてみたり……
ほっぺに軽くキスしてみたり……
「ん、んん……」
おっ、イズも目覚めたみたい。
あるよね、フランス映画のワンシーンで。こういうの。
「んん……、あなた、おはようございます」
「おはよう!」
元気な朝のあいさつをしたところで、さっそく居留地の教会に出発することにした。
フバルちゃんには、おうちで大人しくお留守番するように言っておく。
ちょっとぴえんな顔になったけど、ちょこんとうなづいた。
かわいい。うちの娘、かわいい。FMT。
そして、姫騎士ウトラクさん。
客室をノックしても返事がない。
すっごく気が進まなかったが扉を開けると、ものすごい寝相で寝ていた。
あ、これ、見たことあるわー。
国立近代美術館の現代アート展で、「こんな体勢を人間がしたら、骨がバキバキに折れるじゃーん」という体勢。
えーと、生きてるよね?
「んーー、んん……、閨をむにゃむにゃ、閨にむにゃ……」
よし、縛ろう。
◆
イズと教会に向けて出発。
あれ、昨夜、家まで来たときのルートとはちがうよね?
「夜と違って魔物があまり出ないので、迂回しないで進んでいます」
なるほど。
昨日、オークが襲撃してきた場所にあっという間に着いた。
うん、オークが落とし穴に落ちたままだ。
よしよし、良い子だ。後で埋めてあげるね。
先行するイズが振り返りながら、
「教会がある居留地まではかなり距離があるので、『転送陣』を使います」
おぉ、異世界モノで定番のやつ?
昨夜は気が付かなったけど、襲撃場所の近くに「黒い壁」があった。
壁——といっても、ちょっと大きめの扉が立っている感じ。
周囲の木々に隠されているので、イズに案内してもらわないと気付かなかっただろう。
イズと壁に近づいていくと、壁の側面に魔法陣っぽいものが書かれている。
「ここから教会近くの転送陣まで行けます」
「便利だけど、敵に使われたりしないの?」
「これがないと使えません」
と言って見せてくれたのは、ペンダントになった宝石、いや魔石というやつかな。
「この転送陣は『
昔、エルフ族にいた天才的な魔術師が残した「魔術遺産」というものらしい。
この虚空回廊のおかげで、オーク族の侵略時に多くのエルフが生き延びることができた。
ちなみに、このペンダントを持って近づくことで、黒い壁にかけられている幻影魔法が解除されて見える仕組み。
見えなくなっているといっても物体としての壁は存在しているので、森の木々で覆い隠して近づけないようにする必要はある。
ただ、欠点も多いみたい。
「失われた魔術技法なので、新しく作ることができません」
ロストテクノロジーというやつだな。
「転送直後は、意識が朦朧となります。スキルも使用できません。そのため、転送陣付近に敵がいると無防備になるというリスクがあります」
蒼炎が見えるスキルがあるのに、なせオークに襲われたのか疑問だったけど、転送直後だったからか。
そんな話を聞いて若干不安になる。
でも転送陣を使わないと、教会まで一週間近くかかるらしい。
しかもオーク族の集落近くも通過するので、通常の移動方法でも危険なことには変わりがない。
「では、行きますっ!」
イズは、右手に短剣、左手に小型の盾を構えたまま、壁に書かれた魔法陣に向かって飛び込んだ。完全武装なのは、転送直後の会敵に備えるため。
魔法陣から無数の色の光が溢れ出しながら、旋回して吹き出し始めた。
自分も慌てて後に続いて飛び込む。
————
————ん、水の中? というかオイルの中を泳いでいるみたい。
—————————————————
息はできるけど、酸素がないのか、くっ、苦しい——
——————————————————————————————————————————————————————————
ふいに、日の光に元に出た。
光は感じるものの、事前に知らされていた通り、意識が朦朧としている。
とりあえず、右隣りにイズがいるのだけは分かる。
イズの盾を持っている左手を掴んだ。
もしこの瞬間に敵に襲われたら、この盾でなんとか防いで……
——————————ん、子どもの声?
そんな付け焼き刃の覚悟は、子どもたちの声にかき消された。
徐々に目が見えてきた。
んー、これは…………
まさか……
狛犬?
しかも、よく知っているやつだ。
「んんっ、あなた……ここは?」
イズも意識が戻ってきたらしい。
「ここは……自分がいた世界ですね」
「えっ?」
そう。ここは「目黒大鳥神社」だ。
五十路転生 ~絶対チートで無双してたら、至高のハーレムができました~ ろくごー @rokugou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。五十路転生 ~絶対チートで無双してたら、至高のハーレムができました~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます