第4話 姫騎士といえば「くっころ」だよね
あれって……
「ライカンスロープの呪い」
——ホモ族(ヒトのことね)において、「聖月光」に照らされることで獣人化する呪い。
さっきイズが「解呪された」と言ってたけど、狼男のような風貌へと獣人化するのは呪いだったのね。
昔、ホモ族の領地を訪れた時に、一度だけ見たことがあったそうだ。
聞けば、戦時中に捕虜として捉えた者に「ライカンスロープの呪い」をかけ、相手側陣営に捕虜交換などで帰還させる。
そして月夜になると呪いが発動して、獣人化したヒトが同族を襲うことで混乱させる。その隙を突いて、野戦を仕掛けるらしい。
呪いをかけられた者はその前後の記憶を失い、自分に呪いがかけられたことを知らない。
そして、無事に帰還したと喜ぶ家族に迎えられたのに、その家族を……
「……あ、あなた?」
「あ、ごめん」
飛び散った窓ガラスの破片に、憤色を露わにした自分の顔が映っていて我に返った。
いかんいかん。
良くない感情に捕らわれそうになった。
クールダウンして、冷静さを取り戻そう……
それより今は、状況の収集と整理。
眼の前で倒れている狼男は、完全にヒトの姿に戻っているな。
戻って、いるけど……ヒトというか…………これは女性?
しかも騎士っぽい鎧を全身に装着している。
イズは弓矢をテーブルに置きながら、
「この者の蒼炎は完全に消えています。もう敵意はありません」
便利だね、相手の敵意が蒼炎になって見えるスキル。
ヒトに戻ったから本当に安心なのかは、なかなか判別がつかないからね、ふつう。
「んっ、うーん……」
騎士っぽい格好をした女性は、意識を取り戻したようだ。
ゆっくり顔を上げたけど、表情からは意識がまだ朦朧としているっぽい。
女騎士さん、瞳の焦点が徐々に合ってきたのか、私とイズに気付いたみたい。
「あなた方は……もしや、助けていただいたのでしょうか?」
女性は、周囲の状況などから瞬時に察知したらしい。
助けたというか、倒したというか?
まあでも、結果的には助けたことになるかな。
とりあえず、コミュニケーションは取れそうだ。
「気付かれましたか。私はコバヤシといいます。あなたはヒト……ホモ族の方ですね?」
女騎士さん、すっと高貴な雰囲気に切り替わりながら、
「はい、ボネデリャク王国第二王女ウトラクと申します。騎士としての称号を授かっています」
これ、リアル姫騎士じゃーん——
たった今、自分の中で彼女は「姫騎士」として認定されました。
元狼男——いや元狼女のウトラクさんを改めて見ると、その美貌と高貴な佇まいは物語に登場するお姫様そのものだ。
それとは対称的に、傷だらけの鎧は激しい戦闘があったことを伺わせる。
ひとまず食事をとりながら、姫騎士ウトラクさんの事情を聞くことにした。
姫騎士ウトラクさんは、ここから遠方の戦場で捕虜として捕まったらしい。
そして「ライカンスロープの呪い」をかけられ、意識と記憶を両方とも喪失していた。
敵側の拠点に魔導空船で移送されている途中で、記憶を取り戻し、船から脱走したらしい。
魔導空船?
魔力みたいなもので空を飛ぶ船ってことか。
というか、やっぱり魔法っぽいものがあるのね。異世界だもの。みつを。
魔導空船の仕組みとか、魔法はどんなとか、色々と気になるなぁ。
あとで詳しく聞くとして、姫騎士さんに話の先を続けてもらう。
「聖月七神さまのご加護を受けていたおかけで、呪いにかけられた記憶を取り戻すことができました」
聖月七神さま……?
「ホモ族で主に信仰されている『聖月教』の神々のことですね」
イズが、そっと耳打ちしてくれた。
月を崇める宗教か。
日本だったら、月読命になるのかな。
この異世界では7つも月があるようだから、太陽よりも信仰されちゃうのかな。
信仰は数だよ、あにきー
ただ、その聖月教の聖月七神さまの加護とやらでも、記憶を取り戻すのが精一杯で、解呪までは無理だったのか。
姫騎士ウトラクさんは話を続けた。
「魔導空船の牢獄からはかろうじて脱走できたのですが、飛行中だったので空中から飛び降りるしかなく……」
このまま移送されて味方の領地に戻れたとしても、呪いが発動すると甚大な被害を味方に出してしまう。
ならば、いっそのこと身を投げて——という覚悟だったらしい。
幸か不幸か、今夜はきれいな満月夜——
月光を浴びて「ライカンスロープの呪い」が発動し、獣人化。
そして、この家の近くに落下した。
もし獣人化によってフィジカルが強化されていなければ、高所からの落下の衝撃に耐え切れずに絶命していた、というのは皮肉なもんだ。
ちなみに……もしさっきのオークと遭遇したところに落ちてたら、天然モノの「くっころ」が見られたのか?
いや、狼女状態だからそうはならんやろ。
それにしても、獣人化したのに鎧は着たままなのね。
「呪いによる獣人化では、肉体は変化しないんです。呪いの発動によって生じた魔素で全身を覆われるんです」
なるほど。姫騎士ウトラクさんの説明でようやく合点。
だから、先ほどの弓や火箸の攻撃による傷跡が、ウトラクさんの身体には残ってないんだ。
「それよりも、どうして解呪できたのかが気になります」
姫騎士ウトラクさん、釈然としないご様子。
自分も釈然としないのだけど、
「私の投げた火箸が、たまたま『解呪のツボ』に入ったとか?」
「その程度の刺激では、解呪されないはず……なのですが…………」
確かに、「火箸がツボ」っていっても、火箸は鎧を貫通してはいなかったからね。
うーん、やっぱりなにかのスキルなのだろうか?
呪いを片っ端から解くとか?
それだと、オークの時の説明がつかないか……
ゲームの「ステータス」みたいなもので、自分のスキルを確認できたら良いのだけど、あとで方法は探してみるか。
テーブルを囲んでの3人の食事を終えて、ようやくひと息をついた。
居住まいを正した姫騎士ウトラクさんが、
「改めて命を救っていただいたことを感謝したい。自国の領地に戻ればなんらかの報奨もお約束できるが、あいにく今はなんの持ち合わせもないのです……」
「そんなぁ、お気持ちだけで十分ですよ」
実際、大したことしてないのに報奨金とか貰っても、気が引けちゃうし。
ウトラクさん、諦めない。
「そうもいきません……その、もしよろしければ、騎士として王国に捧げたこの身ではありますが、一晩の閨を務めさせ「ええー?! そっ、それはちょっと「そ・れ・については、夫とつ・まの私とで相談させていただきますっ!!」……はい」て……はい…………」
イ、イズさん?————顔は笑っているけど、目が笑ってないよね、ははは……
【50歳までにかなえたいこと】
1:嫁を娶る→クリア
2:娘ができる→クリア
3:一国一城の主になる→クリア
4:ラブコメ展開1→クリア
5:姫騎士の「くっころ」→おあずけ
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