第2話 やったね自分! 家族が増えるよ!!

オークに襲われたところをたまたま助けた(ことになった)イズビニテさんに案内されて、ご自宅に到着。


森に囲まれた自然豊かで閑静な住居……というか、完全に密林の中だよね、これ。

5m先も見通せないくらいの樹木の密度。

イズビニテさんに案内してもらわなければ、3分で迷いそう。

うぃるかむつーざじゃんご——


それにしても、なんでこんな辺鄙なところに住んでるのだろう?


そんな疑問が顔に出てたのか、イズビニテさんが説明してくれた。

「私は、このエリア担当の管理人なんです」

「エリアというと、この辺りはエルフ族の領地か何かなんですか?」

「領地……というより居留地になります」

居留地? 

江戸時代の長崎の出島とかだよな。外国人の治外法権になってる区域。


イズビニテさんの話によると、こうだった。


元々住んでた場所は大河流域の平野部で、豊かな農耕地帯だったらしい。肥沃な土壌に恵まれて、小麦、大麦、トウモロコシ、豆類などを栽培していたそうだ。


ほう、大麦が採れるんだ。

ということは、おそらくビールもあるな、こりゃ。

自分、クラフトビールとか地ビールとかに目がないのよね。


異世界の「ご当地ビール」というと——

ドラゴンの住処近くの修道院で醸造される「ドラゴンブレス・エール」

古戦場の跡地に建てた墓地で醸造された「ネクロマンサーズ・ノワール(黒ビール)」——とかあるのかな。

後で聞いてみよう。

ビールっ!、ビールっ!——


閑話休題


もともと狩猟生活をしていたエルフ族も、この大河流域に少しずつ集まるようになり、最終的には数千人規模のエルフの集団が暮らすようになる。


そこに、オーク族が侵略してきた。


当然のことながら、エルフ族は激しく抵抗したが、最終的には屈服するしかなかったらしい。

ようやく開拓した土地を奪われ、居留地という名の不毛な密林地帯へと強制移住させられた。


それが、わずか1年前のできごと——


「『エルフには森がお似合いだ』と言われて……」

話を終えたイズビニテさんは、しかたなさそうに俯いた。


うーん、某大陸の原住民の話とそっくりだなぁ。どこの世界でも似たようなことが起こるのがなんとも世知辛い。


エルフ族とオーク族は、表向きは和平協定を結んでいる。

とはいっても、結局のところオークには逆らえず、さっきのようなことが頻繁に発生しているらしい。


「なんというか……今までよくご無事でしたね」

「以前は他の居留地で集団生活していたんです。でも反乱のおそれがあるからと、皆がバラバラのエリアに移住させられて……私はこのエリアの管理人として派遣されたんです」

この家に移ってきたもの、つい最近らしい。


ここまで話を聞いて、ちょっと気になってきた。


先ほど穴ぼこに落ちてご臨終したオーク。

放置したままだけど、大丈夫だったのだろうか?

「エルフ族の居留地の中でも不可侵エリア内だったので、おそらく大丈夫だと思います」

いくら高圧的な立場にいるオーク族であっても、不可侵エリアで忍び込んで悪さしようとした奴までは面倒みない、ということらしい。

念のため、後で埋めに戻ろう。



ふと見ると、娘のフバラちゃんが何か言いたげに自分を見ていた。

うん、かわいい。

フバラちゃんまじ天使。

FMT。


なるべく怖がらせないように、

「フバラちゃん、さっきは怖かったね。もう大丈夫だからね」

まぁ、自分はなんもしなかったけど。

「おじさん……『ホモ』なの?」

ホモォ……

………………

いやいや、いくらなんでもいたいけな幼女がこんなネットスラングを駆使するはずがない。


「私も伺おうと思っていたのですが、『ホモ族』の方でしょうか?」

イズビニテさんまで、一体なにを言って……


ん、もしかして自分が何か勘違いしている?


「ホモ族の方は、単独でも『商人』として他国を遍歴すると伺ったことがあります」

ははーん、どうやら『ホモ』というのは『ヒト』のことらしい。

そういえば、人類って「ホモ・サピエンス」っていうよね。その場合はホモ属だけど。


「自分は商人ではありませんが、訳あって行く宛のない放浪の身でして」

この瞬間、なぜかイズビニテさんの眼が光った気がする。キュピーンとか効果音付きで。

実際、元の世界に戻る手がかりなんて、今のところゼロだし。


「もしよろければ、この家に好きなだけ滞在してくださいっ!」

ん?ん?、妙に力強く言われたけど、

「いやぁ、そういうわけにもいかないですよ、それに自分がいうのも恐縮ですけど、会ったばかりなのにあんまり信用するのも……」

「信用しています。『蒼炎』がまったくない方なので」

蒼炎?

「守るべき者のため ただ戦う」じゃないよね。炎の紋章。


「エルフ族の種族スキルなんです。他者の悪意が蒼い炎として見えるんです」

それが蒼炎と。オーラみたいな感じらしい。

ちなみに、壁や木が間にあっても関係なく、かなり遠くまで見えるとのこと。


先ほど森の中を通過する時も、時々迂回していたけど、遠くの魔物の蒼炎が見えて迂回してたとのこと。ぜんぜん気が付かなかった。


「その、エルフ族には男性がほとんどいないんです」

エルフの子供が1000人生まれても、男性のエルフは1人という割合らしい。そして、たいてい族長として育てられる。


「あの、たいへん申し上げにくいのですが、私としてはこの貴重な機会をぜひ逃したくないといいますか……」

「えっ?」

「前の主人もホモ族でしたし、亡くなってだいぶ経ちますし、フバラのためにも父親が必要と常々感じてましたし……」


えっ——————————————


まっ、マジですか!?


48歳独身、初めて球根、いや求婚された。


ミス・ユニバースもツッカケで逃げ出しそうな美貌のイズビニテさんに迫られて、「だが断る」とも言えるわけもなく。


「もういい年なので、自分からこんなことを申し上げるのも恥ずかしいのですが」

「し、失礼ですけど、おいくつなんでしょうか?」

「…………320歳です」


エ——ル——フ——で——す——も——の——ね————


「やはり200歳代くらいの若い娘じゃないと、イヤですよね……」

いえいえいえいえ、

「いえいえいえいえ、昔の偉人が『人は年齢じゃない、大事なのは見た目』と言ってましたから、なんも気になりません!」

見た目でいったら、女子大生ですよ。

「ほんとですか!」

「こちらこそよろしくお願いします!!」

満面の笑みを浮かべるイズビニテさんをみると、ちょっと軽率だったかなという思いも吹き飛んだのであった。



フバラちゃんも嬉しそうに近づいてきたので、

「ちなみに、フバラちゃんはおいくつ?」

「80っちゃい!」


エ——ル——フ——で——す——も——の——ね————2

年上やないかーい、と思わずセルフでツッコミ。



というわけで、


やったね自分、家族ができたよ!!

姉さん女房と幼女(年上)の家族です。



【50歳までにかなえたいこと】

1:嫁を娶る→クリア

2:娘ができる→クリア

3:一国一城の主になる→クリア

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