五十路転生 ~絶対チートで無双してたら、至高のハーレムができました~

ろくごー

第1話 48歳の誕生日も、独りで過ごすはずだった

「よく分からないけど、異世界に転生してました」


いやぁ、言ってみたかったんだよね、これ。

 実際によく分からないまま、よく分からないところに立ってるんだもの。


たぶん、異世界。きっと異世界。

なにしろ月が7つ見えるし、向こうに中世の城みたいなのが見えるし、オークが眼の前にいるし。


 ついさっきまで、48歳の誕生日を独りサイ◯リヤで祝おう、豪華に赤マグナムを頼んじゃおっ!とか思いながら品川駅コンコースの「社畜街道」を歩いてただけなんだよね。


なんか大きな爆発音が後ろでした気がするけどもさ。スマホでヤフーニュースを読んでたから、よく覚えてないんだよね。

いやー、やっぱりスマホの歩き見は良くない、絶対ってことだよね。


 ……などとふざけている場合ではなさそうだ。

 眼の前のオーク、たぶんが、トゲトゲがいっぱい付いた棍棒を振りかざしてる、ように見える。モーニングスターとかいうやつ。


オークなんてアニメとかでしか見たことなかったけど。

そもそも本物見たことあるやつは、21世紀じゃぱんにはいないだろうけど。


アニメだと作画コストがかかるから省略されてるであろう体毛に全身を覆われてて、ところどころ見えている皮膚は動物園で見た像の表面に似ているかな、ガサガサで硬そう。

猛獣の檻付近でするような匂いも強烈だし。

りあるだと、キモい上司✕100倍の嫌悪感しかないのよね。


さて、と——ごく一部の業界ではおなじみの転生チートは、どうしたのかな?

なんかあるでしょ、ふつう。こういう危機的な場面ではさ。

ろくに練習しないままハイレベルの水属性の魔法が使えたりとか、当然のように無詠唱でファイヤーボールを飛ばして「無詠唱……だと?!」とか周りにいたモブに驚かれるやつ。


…………

………………ない、の?


ここで使い魔とか「のじゃロリ」とか現れて、「まったく世話の焼ける奴じゃ」とかいいながら助けてくれたりしないの?


あ、あー、オークさん、その棍棒を振り降ろすのを待って、待ってぇぇぇーー



(完)


……じゃない

あれ、生きてる?


そして、オークさん、地面に空いていた穴ボコに上半身をつっこんだまま動かない。

どうやら「運良く」落とし穴があったらしい。


しかも穴に落ちただけじゃなく、持っていた棍棒が、落ちた勢いでオークさんの後頭部を直撃したみたい。


自爆ですね、ご愁傷さまです。血がめっちゃ吹き出てますよ、痛そう。というかもう動かないので御臨終かな。


よく分からないけれど助かりました。

「異世界に転生して最短生存時間のギネス記録」があれば更新するところだった。

転生チートも「のじゃロリ」も現れなかったけど。


さすが、異世界。未知数の権化。分からないことだらけだ。




ようやく一息ついたら初めて気が付いた。

後ろに誰かいるな。


振り返ると、母子らしき女性と幼女が怯えながらしゃがみ込んでいた。

うーん、これはどうみてもエルフだねぇ。おなじみの長い耳に、麗雅な姿形。


オークといえばエルフ。エルフといえばオーク。

太極陰陽図のように光と影が入り混じり合う、これが異世界の真理——


などと、やはりセットで存在するものなのかと感心していると、母エルフらしき女性が、

「あ、あの、助けてくださってありがとうございました」

そうか、一応助けたことになるのか。何もしていないけれど。


ここでようやく自分の位置関係が分かった。

このエルフ母子がオークに襲われてて、その間に突然自分が降臨した感じだったらしい。


「えーと、いやぁ、たまたまですよ」

たまたまどころか、位置がちょっとずれてたら、自分が落とし穴に落ちてたわけで、ちょっと冷や汗が出てきた。


「それでも、あなたさまは恩人です。私はエルフ族のイズビニテといいます」

やっぱりエルフでしたか。

ハリウッド女優が10人くらい束になっても勝てそうにない美貌ですね。それにしても若いというか、20代前半にしか見えないなぁ。


「こちらは娘のフバラといいます」

イズビニテさんの後ろに隠れていた幼女が、ひょこりと頭を下げる。

うん、天使かな。ハリ◯ッター1作目なら、ハー◯イオニーを押しのけてヒロインになるんじゃないか。


「私は、小林といいます」

「コバヤシ……この辺では聞かない名前ですね。服装も見たことないですけど、旅の御方でしょうか?」

まぁ、スーツはみたことないだろうね。

「旅……といえるのか分かりませんが、この辺は初めてですね」

この辺というか、この世界というか。

「そうですか……もしよろしければ、我が家でお休みください」

えっ、いいの? 

助けたといっても初対面の人間をそんなに簡単に家に上げたらダメなんじゃないかな。いやもちろん助かるけど。


よし、ここはビシッと、

「それでは、お言葉に甘えて」


とりあえず、異世界初日の宿をゲットできた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る