五十路転生 ~絶対チートで無双してたら、至高のハーレムができました~
ろくごー
第1話 50歳の誕生日も、独りで過ごすはずだった
「よく分からないけど、異世界に転生してました」
いやぁ、言ってみたかったんだよね、これ。
実際によく分からないまま、よく分からない場所に立ってるんだもの。
たぶん、異世界。きっと異世界。
なにしろ月が7つ見えるし、向こうに中世の城みたいなのが見えるし——そして、オークが眼の前にいるし……
ついさっきまで、50歳の誕生日をサイ◯リヤで独り寂しく祝うぞー、豪華に赤マグナムを頼んじゃうぞーー!……とか思いながら品川駅コンコースの「社畜街道」を歩いてただけなんだよね。
なんか大きな爆発音が後ろの方でした気がするけどもさ。スマホでヤフーニュースを読んでたから、よく覚えてないんだよね。
いやー、やっぱりスマホの歩き見は良くない、絶対ってことだよね。
……などとふざけている場合ではなさそうだ。
眼の前のオーク、たぶんが、トゲトゲがいっぱい付いた棍棒を振りかざしてる、ように見える。モーニングスターとかいうやつかな。
オークなんてアニメとかでしか見たことなかったけど。
そもそも本物見たことある人、居ないか……
アニメだと作画コストがかかるから省略されてるであろう体毛に全身を覆われてて、ところどころ見えている皮膚は動物園で見た像の表面に似ているかな、ガサガサで硬そう。
猛獣の檻付近でするような匂いも、やたら強烈だし。
リアルだと、キモい上司✕100倍の嫌悪感しかないのよね。
さて、と————ごく一部の業界ではおなじみの「転生チート」とやらは、どうしたのかな?
なんかあるでしょ、ふつう。こういう危機的な場面ではさぁ。
ろくに練習しないままハイレベルの水属性の魔法が使えたりとか、当然のように無詠唱でファイヤーボールを飛ばして「無詠唱……だと?!」とか周りにいたモブに驚かれるやつ。
…………
………………ない、の?
ここで使い魔とか「のじゃロリ」とか現れて、「まったく世話の焼ける奴じゃ」とかいいながら助けてくれたりしないの?
あ、あー、オークさん、その棍棒を振り降ろすのを待ってぇ、待ってぇぇぇーー
(完)
……じゃない
あれ、生きてる?
そして、オークさん、地面に空いていたでっかい穴ボコに上半身をつっこんだまま動かない。
どうやら「運良く」落とし穴があったらしい。
しかも穴に落ちただけじゃない。持っていたトゲトゲ棍棒が、落ちた勢いでオークさんの後頭部を直撃したみたい。
自爆ですね、ご愁傷さまです。
血がめっちゃ吹き出てますよ、痛そう。
というかもう動かないので御臨終ですね……
よく分からないけれど助かりました。
「異世界に転生して最短生存時間のギネス記録」があれば更新するところだった。
転生チートも「のじゃロリ」も現れなかったけども
さすが、異世界。未知数の権化。分からないことだらけだ。
ようやく一息ついたら初めて気が付いた。
後ろに誰かいるな?
振り返ると、母子らしき女性と幼女が怯えながらしゃがみ込んでいた。
うーん、これはどうみてもエルフだねぇ。
おなじみの長い耳に、麗雅な姿形。
オークといえばエルフ——
エルフといえばオーク——
太極陰陽図のように光と影が入り混じり合う、これが異世界の真理——
などと、やはりセットで存在するものなのかと感心していると、母エルフらしき女性が、
「あ、あの、助けてくださってありがとうございました!」
そうか、一応助けたことになるのか。何もしていないけれど。
ようやく自分の位置関係が分かった。
このエルフ母子がオークに襲われいた。
その両者の間に、自分が突然降臨したらしい。
「えーと、いやぁ、たまたまですよ」
たまたまどころか、位置がちょっとずれてたら、自分が落とし穴に落ちてたわけで、ちょっと冷や汗が出てきた。
「それでも、あなたさまは恩人です。私はエルフ族のイズビニテといいます」
あっ、やっぱりエルフでしたか。
ハリウッド女優が10人くらい束になっても勝てそうにない美貌ですね。それにしても若いというか、20代前半にしか見えない。
「こちらは娘のフバラといいます」
イズビニテさんの後ろに隠れていた幼女が、ひょこりと頭を下げる。
うん、天使かな。
ハリ◯ッター1作目なら、ハー◯イオニーを押しのけてヒロインになるんじゃないか。
「私は、コバヤシといいます」
「コバヤシ……この辺では聞かない名前ですね。服装も見たことないですけど、旅の御方でしょうか?」
まぁ、社畜なスーツはみたことないだろうね。
「旅……といえるのか分かりませんが、この辺は初めてですね」
この辺というか、この異世界というか。
「そうですか……もしよろしければ、我が家でお休みください」
えっ、いいの?
助けたといっても初対面の人間ですよ?、そんなに簡単に家に上げたらダメなんじゃないかな。いやもちろん助かるけど。
よし、ここはビシッと、
「それでは、お言葉に甘えて」
とりあえず、異世界初日の宿をゲットできた。
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