虹のソルシエールたちへ

🌈虹のソルシエールたちへ アニバーサリー

🩷

春風が足元を駆け抜ける。

今日はいつも以上に身だしなみに気を使ったのに、季節風すらはゆるのことを否定するの？

起動しない携帯の真っ黒な画面で前髪を確認しつつ、駆け足で校門へと向かうと先に着いていたであろう幼なじみが横髪を抑えながら風に吹かれている。

自分に纏わりつく風と、彼女に吹く風は同じ風のはずなのに、どうしてこうも違うのだろう？しかし、彼女に吹く風にすら少しの翳りを覚える。そんな翳りをエネルギーに大きく1歩を踏み出した。

｢ふぅ…つ、つぐちゃん！遅れちゃって、ごめんね…！｣

｢はゆちゃん、ううん。全然待ってないよ、今来たとこ…はなびら、ついてるよ｣

｢えっ…！？ど、どこどこ？！｣

紡未は｢ここ。｣と言ってはゆるの髪に触れ、いつのにかついていた桜の花びらを取り払う。はゆるは先程まで恨み辛みを重ねた風に対して心の中で感謝を述べながら、紡未の指先の体温に集中する。

ほんのり冷たい。

"今来たところ"なんてはゆるを気遣う言葉だ。はゆるよりも心配性でしっかり者の紡未は、遅れることの方が怖くてここではゆるを待っていてくれていたのだろう。

はゆるのために待っていてくれたこと、はゆるのために嘘をついてくれたこと、心地よいけれど、無理をさせてしまったであろうことに胸が締め付けられる。

｢…つぐちゃん？…手、あったかいね｣

｢う、うん…は、走って、来たから…つぐちゃん、あっ、あ、ありがとう｣

｢…うん｣

無意識に握ってしまった手から体温が移り、やがて混じり合う。

「………つぐちゃん、最近は寝れてる？」

「はゆちゃんが毎晩電話してくれるから、ちょっとずつ良くなってるよ」

「あ…え、へへ…あっ、そ、そうだ…あのね、く、クレープ屋ができたんだって…が、学校終わったら、一緒に行かない？」

「…ふふ、いいよ」

「ふ、へへ…あ、あのね…みんなのことも、誘っていい、かな…？」

「…私も、おんなじこと考えてた」

糸が緩み、少しの緊張感も形が溶けていく。

3ヶ月程前、突如知らされたボランティアの解散と同時に、はゆるたちは魔法少女に変身できなくなった。

今までどんな風に変身していたかも掴めてなかったけれど、変身するという感覚や、不確かな出来るという自覚が身体から抜けていった。

ただ、はゆるたちは普通の女の子に戻っただけ。

それだけだと言うのに寂しさや悔しさが込み上げてきて、すこし体調が崩れがちだった紡未も最近は顔を見せてくれるようになった。

魔法少女になっても白くならなかった世界は、はゆるたちを青い空で囲って、少しの喧騒ではゆるたちの声をかき消していく。

でも、それでも、ここは、はゆるたちだけ世界だから。

あなたが二度と諦めないように、きゅっと音が鳴るくらい固く手を繋いで。

どんな色にも染まらないくらい。

💛

🖤

「おっ、結ちゃん！」

「あっ、先輩！」

見慣れた後輩の背を見かけて咄嗟に声をかける。後輩はパッと明るい笑顔を向け、こちらに人懐っこく駆け寄ってくる。

「なんか久しぶりー！あっ、身長伸びた？髪切った？」

「あっはは！どっちもないです！」

いつも通りなら部室でしていたような何気ない会話を廊下でするのは少し新鮮でソワソワとくすぐったい。

廊下の窓際へと背中をあずけ、他愛ない話をする。

共通の話題がなくとも、もう仲間として長い時間を過ごした相手とは何を話しても楽しく感じる。楽しく感じるけれど、ひとつの話題だけは2人とも暗黙の了解として口を開けられなかった。

大体3ヶ月ほど前、あたしたちを繋ぐ縁は突如として切れた。魔法少女に変身できなくなってしまったからだ。

なぜなのかは分からない、原因不明の強制終了。もうゲームの舞台にすら立たせて貰えない状況に、シエルが攻めてきたら…と皆不安を抱いていたがシエルも全く姿を見せず。ただ静かに、少女たちの戦いは終わりを告げた。

どうやって魔法少女になっていたのかも思いだせない、ただ残っているのは後味があまり良くない結果だけ。あたしたちは世界を守り抜いたのだ、間違いなく、魔法少女部の勝利と呼んでもいいのだろう。

それでも、心の違和感は拭えない。シエルの魔法少女たちはどうしているのだろうか。今、何をしているのかな。大丈夫なのかな。

勝利手放しで喜ぶには、あたしたちは近い存在になりすぎてしまった。

部活のみんなも思うところがあったようで、それぞれ歯切れの悪い気持ちを隠しきれなかった。

魔法少女部は魔法少女に変身できなくなったこと、部活動としての活動が必要なくなったことから先輩たちの卒業とともに解散することになった。

手際が良すぎるあさちゃん先輩のにこやかな雰囲気にみんながいつも通りの安心感を覚えつつ、解散という言葉に寂しさも感じる。

魔法少女として最強になる、という夢は叶わないものになってしまったけれど、魔法少女に変身出来なくなっても、あたしの夢は終わらない。

"剣城絹"として、あたしはあたしの信じたいものを信じ続けたい、大好きなものを大好きなまま守りたい。

いちばん強い色、最強になる。全部全部貫き通す。

超常的な力が無くても、あたしはまだここにいる。足掻けるだけ足掻いたって、この世界はそう簡単にゲームオーバーにさせてくれないのだから。

「うーん…そうだ！先輩たちと結ちゃんの卒業記念になんか食べに行こ！」

「えっ！あたしもですか？でも内部進学なんで、来年もアルカンシエルいますよーあたし？」

「中等部は卒業でしょ？高等部でもよろしく会でもいいじゃんいーじゃん！」

「恐れ多いですけど、そこまで言うならありがたく…」

「早速みんなに連絡しなきゃ！あっ、クレープ屋がオープンしてるんだよ！そこしよ！」

「ですね！」

長らく連絡が滞っていた魔法少女部のグループメッセージを鳴らす。

「よぉーし！いっぱい食べるぞー！」

💜

💚

｢よーしこちゃん｣

｢あっ、あくちゃんせんぱーい｣

お揃いの鈴を鳴らしたあくちゃんせんぱいが後ろから肩に触れ、あたしは頭だけを上にあげる。

いつものお団子ヘアではなく1つ結びでいつもよりすこし大人しめな印象を受けるせんぱいは、いたずらっ子のような笑みを浮かべてあたしに微笑んでくれる。

「頑張ってる後輩にこれを授けよーう」

「ふへ、ありがたやーありがたやー」

軽くふざけながら差し出した両手で渡されたのはあんぱんだった。

「あんぱん？ですか？」

「ん、あー…あんぱん食べれない感じ…？」

「いや、すきです！」

「じゃあ…一緒に食べよ？」

「…！はい！」

せんぱいはあたしの頷きに安堵の顔を見せたあと足元にあった花壇の縁に腰掛け、隣を叩き座るように促す。

2人で横並びに座り、あんぱんを食べる。

何を言わず、ただ黙々と。

時折伸ばした足をくっつけたり離したり、ほんの少しの触れ合いが生まれるが、言葉は絡まない。

ケシの実が散らされており、あんこがたっぷり詰まって重たいつぶあんぱんはお腹を満たすには十分すぎるほど。

静かで、ゆっくりで、あたしはせんぱいが作る時間の流れが好きだ。

「………あんぱん、好きなんだよね。久しぶりに食べたかも」

「好きなのに、ですか？」

「…うん、好きなのに。なんでだろうねー…なんか……あんぱん食べ切れるほど、お腹の余裕がなかったのかもね」

「あ、あくちゃんせんぱいはもっともっちりしててもいいとおもいます、ほ、ほそすぎて、折れちゃわないか心配です」

「えー？あたし、よしこちゃんより3歳も年上なんですけどー？」

からからと笑うせんぱいの横顔を見る。逞しいような、頼りになるような、か細い彼女がずっと隣にいてくれるように切に願っているけれど、その心配を受け取り始めてくれたのはごく最近のことで、今でも心労は尽きない。

せんぱいがあたしの方を向いて目が合う。涙ぶくろはほんのり黒く、よくよく頬を見れば少しだけそばかすが見える。お化粧を薄づきにしているのだろうか？

せんぱいは心配を孕んだあたしの目を見て「あー…」と少しいたずらがバレてしまったようないたたまれなさそうな顔になった後、直ぐににっと笑う。

「折れそうになったらさー…佳子ちゃんがあたしのこと、立たせてくれる？」

｢…………。｣

「…………な、なんちゃって…」

「します。」

「え？」

「何度だってあくちゃんせんぱいのこと、あたしが支えます。せんぱいがイヤって言っても、絶対、離しませんから」

「………………そっ、かー…」

恥ずかしいなぁ、と言いながら頬をポリポリとかくせんぱいを見る。

あたしにいつも"新しい"を運んでくる人。新しいものがどれだけ怖いと泣いても、寂しくても。あたしはこの人の隣に立てるなら、頑張ってスマートフォンの使い方を覚えるし、変わって欲しくなかった新しい感情も受け入れられる。

それに、せんぱいが教えてくれた。新しいお揃いが、すごく、すごくうれしいものだってこと。

「あー…じゃ、体育館そろそろ行こっか。卒業式、遅れると怖いしね」

「はぁーい」

垂らしたように薄く、けれど着実に。

あたし達に滲んでいく色はいつか混じり合うだろう。

あたしの色、いつか全部受け止めてね。せんぱい。

🧡

❤️

爆発するように心臓が波打つ。もはや口から出てしまって、自分の手に置かれた心臓の鼓動を直に触れて感じているのではないのだろうか、と思えるほど熱く強い衝撃に倒れそうになる。魔法少女の時よりも緊張して、とにかく熱い。

「千聖。」

「ゆ、ゆゆゆ、ゆっちゃん、あ、あたし。あー…むり、むり、し、死んじゃうかも…」

「見れば分かります」

少し前を見上げると暖色のスポットライトに照らされた校長先生が答辞を読んでいる、緞帳から覗いた観客席は静寂に包まれており、大量の視線と熱い光線が自分に注がれることを想像するだけで目眩がしそうだ。

右手で握っている18歳が書いたとは思えない完璧な生徒代表の答辞と、幼なじみが隣にいるという状況だけが心の支えだ。

「な、んであたしなのかなぁー…！」

「あなたは優秀ですし、彼女の指名ですので」

「それだよ、なんであたし…！？絶対、絶対気づいてたはずなのに…」

あともう少し、5分後にはあの校長先生のポジションが私のものになる。なぜ自分が分不相応な場に立つことになってしまったのか、それは、本来生徒代表として答辞を行うはずだった生徒が来なかったからだ。

事件は早朝、高等部3年生最後の朝礼で出席に応じなかった彼女。皆の疑問を解消するようにあたしの机の中に入れられた一通の封筒。

『紅椏鳥さんへ』

封筒の中を見ればそこには完璧な答辞の文章が綴られていた、何事？なぜ？

思い出す度、さわやかに淑やかに微笑む彼女の顔が思い浮かび、髪が乱れるほど肩を揺らして尋問したい衝動に駆られる。

当事者であるあたしよりも呆気にとられ、激情に駆られていたのは隣にいる幼なじみだが怒りも落ち着いているのか、それとも風紀委員として答辞をする職務の為だけに抑えているのか。どちらにせよ触らぬ神に祟りなし、だろう。

どうして自分なのだろうか、自問自答を繰り返す。いままでのちょっと苦手にしていた雰囲気がバレてしまったのだろうか、ありうる。自業自得、それならば甘んじて受け入れなければいけない

そんなハプニングが起きて朝からバタバタとしており、静かな教室で6年間の思い出を振り返るどころか、1時間後のことで頭がいっぱいでろくに思い出話に苗すら芽吹かなかった。

「…はーっ、やるしか、無いよね」

「………個人的な指名なら、他の人でも。」

「ううん、大丈夫。あたしやれるよ、ゆっちゃん」

「…そうですか、それは良かった」

ここで逃げ出したくない、あたしは魔法少女として色んな人に迷惑をかけてきたから、ここで逃げる訳にはいかない。

シエル株式会社がした事は世界で大きく取り上げられた、非人道的な生物実験で検挙されたのだ。しかし痕跡こそあれど決定的な証拠や実物がなく、役人が数人逮捕されることで終わったらしい。

シエルのことなのに何故かあたしたちには一切の火の粉がかからなかった、名目上は学生のボランティアとして活動していたからだろうか。

渦中にいたのに、その渦すら確認できなかった。多数と同じくニュースとして放映されて初めて知った、みんなそうだった。

あたしは確信してる。あたしたちが使役していたあの怪獣は間違いなく、"そうだった"って。シエルのみんなも口にしないだけで………いや、約束した。この事をみんなで、墓場まで持っていくことを。

これからは今まで以上に言えないことに頭を悩ませるだろう。ただでさえそれを解消するために魔法少女をしていたと言うのに、果たせない願いは灰になってしまった。

あたしの願いは結局世界から拒絶された、大それたことだったんだと突きつけられたようで、どうせならフェニーチェじゃなくて、あたし自身を燃やし尽くして、消してくれればよかったのに。そうしてくれれば、背負わずに済んだのに。

けれど、それを切に願えるほど孤独にも、絶望にも、浸れなかった。

仲間と呼べる人がいて、友人がいて、守りたい人がいて、追いかけたい人がいる。世界を白くできないなら、せめて、隣にいたい。だから、この席は譲れないの。

何者にも染まらぬあなたに見てもらうところは全部綺麗でありたい。

あたしの事ずっと見ていて欲しい。

あたしを洗い流してよ、あたしがあなたを染めるもの全てを燃やし尽くすから。

大丈夫だと言いきったものの、貧乏ゆすりが止まらないあたしの手の上にゆっちゃんはそっと自分の手を乗せる。ゆっちゃんの少し冷えた指先がじんわりと伝わり、揺れはたちまち止まっていく。

「ちーちゃんなら、大丈夫だから」

「うん…」

「…はーっ、しっかりなさい！あなたは私の自慢の…自慢の……、？」

「うん…」

「…あなたは私の唯一の人なんですから。しっかりして頂かないと困ります」

「うん、うん……………うん？えっ、ゆっちゃん？」

「ほら！シャキッと歩く！行きますよ！」

背中に強い衝撃が走り、思わず背筋が伸びる。彼女の耳が少しだけ赤い、光のせいだろうか、それとも…

「いたぁ！？えっ？！ゆ、ゆっちゃん…！？まっ、待って…！」

🩵

💙💚

「す、素晴らしい式でしたわ～～～～～～！！！」

「はわわっ！きょ～ちゃん、ちーん、なのです…！」

1階の渡り廊下、外と廊下を気持ち程度に仕切る腰あたりの高さしかない縁に、泣き腫らす馨子とその様子を見る玲優が座っていた。

玲優が馨子にティッシュを差し出すと、それを受け取りズズっと鼻をかむ音が響く。鼻をかんでいる馨子を優しく見守りつつ涙をハンカチで優しく拭き取ったり、背中をトントンさすったりと、玲優は忙しなく馨子の世話に没頭している。

馨子のことを思い続ける。

彼女が3ヶ月程前から元気がなくなり、最近になってやっと調子を取り戻してきた様子だった。

自分自身にも魔法少女に変身できなくなった、という大きな変化と共に、エクレールという魔法少女との別れも前触れもなくやってきて、少なからず動揺が心身を乱した。

シエル株式会社が3ヶ月、とある大手企業に吸収されたのだと父がボヤいていたことを今でも忘れられない。怪獣も魔法少女たちも、ある日を境に何の音沙汰もなく忽然と姿を消して、世界は何事も無かったかのように時間を落としていく。

その時間はあまりにも無情で、心も体も動かすにはあまりにも十分過ぎて、完治したくない気持ちだけが重症化していくばかり。しかし、それも幸せの前では跡形なく消え去って行く。

この気持ちは嘘じゃないのに、本物の気持ちなのか疑いたくなるくらい簡単に動いてしまう自分を自覚しては罪悪感が湧いてしまうくらいだ。

ズルズルと鼻を鳴らし高等部三学年のブローチを固く握りしめている愛しい人の姿はあまりにもいじらしく、庇護欲が喉元まで出かかっている。

しかし、その庇護欲が空気に触れることは無い。

愛おしさの前に立つ大きな彼女と自分の違いに冷たい息を吐く。

「きょ〜ちゃん…大丈夫なのです？深呼吸して〜、すー、はー…って」

「…玲優、わたくしは…」

「どうしたのです？」

「わたくしは、先輩方の門出に嬉しい気持ちと、別れが寂しい気持ちで…いっぱいいっぱいなの…」

「…れゆも、だいすきなせんぱいたちが卒業して、とっても寂しいのです」

「えぇ……でも、それよりも…あぁ、わたくし、なんて恥ずかしいことを…」

「きょ〜ちゃん…？」

馨子は少し俯き、また手に持っていたブローチを握りしめる。馨子が胸元に着けているものではないそれから勇気を貰うように。しばらく握りしめ深呼吸した後、意を決したように玲優を真っ直ぐに見つめる。

「………わたくし、先輩方が卒業する姿を見て…わたくしがもし卒業したら…玲優、あなたと今まで通り会えないことが、すごく寂しくて、悲しく感じてしまったの」

「…！きょ〜ちゃん…それ、は…」

「1度だって自惚れたことなかったのに、どうしてなのかしら、想像したら…とても、とても…悲しくて…涙が止まらないの…」

「…っ、きょ〜ちゃんっ！」

感情の向くまま泣き腫らす馨子ちゃんを抱きしめる、抱きしめられた彼女は驚いた声を短く上げたが、自分の背に手を回し突飛な行動を受け入れてくれる。

「れゆは、れゆは、ずっときょ〜ちゃんと一緒なのです」

「…。」

「どんな人よりも、1番隣で、近くにいられるように。きょ〜ちゃんのために、どんなことだってします、たくさん、たくさんがんばるのです」

「玲優、でも…」

「…きょ〜ちゃん」

「れゆを、信じて欲しいのです。ぜったいに、あなたの隣は誰にも渡さないのです。だれにも、だれにも。ずっと、ず〜っと一緒なのです！」

「だから、待ってて欲しいのです。……きょ〜ちゃんが、まっててくれるなら…なのです、けど…」

「そんなの、そんなの…いくらでも待ちますわよ！！」

これは夢なのかな、こんな都合のいい夢ならいくらでも見ていたい、浸っていたい。嬉しくて、指がピリピリと痺れているような、震えるような感覚がする。

いつもれゆを手を引いてくれる透き通った愛おしい人の声でどんよりと曇った空が一線の光で瞬間澄み渡ったような、視界がパッと明るくなった気持ちになる。

あなたはれゆの、大切な、大切にしたい色。

ぐちゃぐちゃになったパレットの上でもいいのなら、もう何色かもわからないれゆでもいいのなら。

れゆをあなた色に染まらせて欲しいのです、もう、何も考えられないくらいに。

ズビズビと何分も抱き合い泣き続け慰めあった、目尻は赤くなり、お互いがお互いの肩に頭を埋めたため片方の肩ずつが濡れている。

前髪は乱れ、おおよそ2人が持たれている雰囲気とはかけ離れ、この姿のままだと多くの人に心配をかけてしまうだろう。

しかし、これまで以上にお互いの顔はスッキリと晴れ、馨子が微笑むと、玲優は八重歯を見せてふにゃりと顔を緩める。

しばらく笑い合いつつも、馨子も玲優もお互いのした行為が恥ずかしくなってきたのか、馨子はおもむろに携帯を取りだした。

「…っ！お、おほほほほほ！め、メッセージ！メッセージを確認しないと…！」

「あ、うあ、そ、そうなのです！」

「放課後の予定のメールですわ！門出の祝いにクレープを食べに行くらしいですから、玲優も今度クレープ食べに行きましょう！」

「クレープ屋さん、なのです？れゆもなのです！」

「あら、玲優もクレープを食べに行きますの？」

「は、はい！駅前に出来たクレープ屋さんに…！」

「あら、一緒のところ！私もですわ！現地集合ですし一緒に行きましょう、玲優！」

「…！はぁい、きょ〜ちゃん！」

💛💚

🤍

信号待ちの間、既読だけが着いたメッセージ画面を見つめる。ほんの少しの期待を乗せた文章をこうも呆気なく蹴り散らされると、ため息のひとつくらいこぼれても仕方ないのだろうか。

憂鬱を感じつつも閉じ難い画面を見つめていると通知が鳴る、シエルのグループチャットからだ。

『大所帯でーす』と投稿した小栗さんのメッセージには写真も着いており、見慣れた顔、見慣れない顔、意外な顔ぶれが揃い見切れているひともいつつ10人の集合写真が送られてきた。

「…ふっ」

「……………｡」

不意にこぼれた自分の笑みに驚く、こんなに素直に笑えたんだっけ。

『彩白先輩まだですか？』

『先輩が好きそうなクレープがありますわよ！！！！』

『きょー、テンション高いね』

『びっくりまーくは多い方が華やかで良いでしょう！！！！！』

好きそうな、もの。食の好み。

大きなトラックが通る、風が髪を激しく揺らす。

大きな音が過ぎ去ると交差点の向こう側に先程まで小さな画面に収まっていた顔ぶれが見える。

声、かけようかな。

あ、と声を出しかけて喉を抑える。呼びかけてどうするんだろう、必要あるのかな。わたしが話しかけたところで、そんなの、答えてくれるのかな。

また大きなトラックが通る。姿が見えないと、少し、淋しい。気づいてないのかな、気づいて欲しい、声を、かけたい。

両親のことを普通に、大切にしきれていないのに、いいのかな。

いいのかな。

わたしは、もう一度望んでも。

「ふぅ………よし、」

トラックが通り、緑に灯るランプと共にカッコウの鳴き声が響く。白い線を踏み締め歩き出す。

「………みんな、お待たせ…！行こうか、クレープ！」

♡♡♡

あなたはアルカンシエル女学院に通う魔法少女だった。

あなたには守りたい世界、壊したい世界、作り直したい世界。あなただけの世界がある。

あなたには世界をめぐって戦う理由があった。

隣にいるあなたと、これからの私のために。

♡♡♡

｢さて…この世界の記録を、どう名付けましょうか。｣

｢マル秘ノートも良いですが…もっと、特別な名前がいいわ。｣

｢そうね………あらあらまぁまぁ、ぐっどあいであを閃いてしまいましたわ。うふふ、こうしましょうか＿＿＿＿＿＿｣

〖 虹のソルシエールたちへ 〗