好きな子の寵愛を一身に受けているのにそれをのらりくらりとかわす彼、その子、他。(仮)

@baratabe

結城彰の場合

 はじめはなんとなく、ただ綺麗な子だな、という印象だった。

 高校1年、同じクラスの戸上さん。女子にしては少し高めの身長、切長の目に、肩まで伸ばしたサラサラのストレートヘアー。入試成績トップの者が請け負う新入生代表の挨拶をしていた彼女は、凡人の俺にとっては少し近寄りがたい、高嶺の花というべき存在だ。


 明確に戸上さんと接点を持ったのは、6月に行う文化祭の実行委員になった時だ。

 ホームルームで居眠りをしている間に、面白がった由衣の推薦で、実行委員に選ばれた。由衣は出席番号で席順が前後であったことがきっかけでできた友達だ。

 文化祭実行委員は各クラス男女で1名ずつ選ばれるのだが、女子の方は自薦も他薦もなく、ジャンケンで負けた戸上さんがやることになったそうだ。美人のクラスメイトと連絡先を交換するきっかけができて役得だ、と思った。小向さん——いつも戸上さんのそばにいる、セコムのような女子がものすごい形相でこちらを見ていた気がするが、気のせいということにしよう。


 実行委員の仕事は、主に準備期間から当日にかけての雑用だ。

 本来、実行委員はクラスの展示の準備を中心となって行うらしいが、1年生のクラスは展示がなく、各部活動の展示に場所を貸すだけらしい。そのため、学校全体の備品の管理などを手伝うことになる。その日は放課後残ってしおり作りをすることになっていた。

 作業をしながら少し雑談してわかったことは、意外にもゲーマーらしいことと、氷の女王だとか鉄仮面だとか呼ばれているのとは裏腹に、実はよく笑うことだ。それから、ふとした時に彼女のことを目で追うようになった。小向さんと話している時は、とくに楽しそうに見えた。


 残念ながら文化祭を一緒に回るなんてことはなく、文化祭を終えてそのまま話す機会は減っていった。

 文化祭を通じて友達は増えたが、女子との接点はとくになく、男子と何組の誰々さんがかわいいとか噂をする程度だった。漫画やドラマでよく見るような青春なんてものは俺のような凡人には訪れないものなんだな、と思った。


 2年生に進級して、進路選択で文系を選んだ俺は、女子の多いクラスに入れられた。うちの学校のクラスは7組まであり、1〜3組が文系、4〜6組が理系、7組が特進クラスになっている。俺は1組、成績上位の戸上さんは特進クラスに進級した。クラスが離れたことで、ますます接点がなくなった。

 幸いにも1組は男女ともノリのいい者が多く、男女比が偏っていることでの気まずさなどはなかった。1年の頃に他のクラスに美人がいるともっぱらの噂だった三田さんが同じクラスにいても、戸上さんの他に好きな子や気になる子というものができることはなかった。小向さんセコムが同じクラスになって、やっぱり俺に対する当たりは少し強い気がしたが、それ以外は平凡な日々だった。

 たまに戸上さんが移動教室か何かで廊下を通るのを、ぼんやりと眺めていた。

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