第3話

 オレが自分の皿を片付けると、リビングのテーブルの上には新聞が広げられていた。オレたち4人で囲って読んでいるのは、昨日の夜の記事だ。

 ユイの一家に起きた出来事は、新聞に大きく載っていた。

「家が……」

 新聞の写真を見つめながら、ユイはつぶやいていた。


 白黒の写真に写っているのは、煙を上げるユイの家。窓の中が燃えている様子まで、はっきりと写っている。


「あの、私、もう動いていいんですよね」

 ユイが新聞から顔を上げ、ナトリに確かめる。


「急に動いたりしなければ」

 コーヒーを飲みながら、ナトリは答える。


「お母さんが運ばれたのは、どこの病院ですか?」

「キララ病院だが」

 ユイの家からも歩いて近くの、そこそこ大きい病院だ。

「今日、キララ病院に行ってお母さんに会います。ちゃんとお見舞いしないと」


「「「それはダメ」」」

 オレたち3人家族は、そろって反対した。


「……どうして?」

「ユイの家を襲った奴、まだ捕まっていないんだぞ。出ていった先でまた襲われたらどうするんだよ」

 オレは理由を話す。

 昨日、ユイをこの家に連れてきたときは何もなかった。だが襲撃者は、街中で目を光らせているかもしれないのだ。

 少なくとも安全が確認できるまでは、この家にいてもらったほうがいい。


「新聞には私も怪我したって書かれてて、お母さん、心配してるはずだし」

「ソフィアさんには、私からユイちゃんの無事を伝えるから大丈夫よ」

「ハンナさん、病院に行くんですか?」

 ユイは、母さんが世話を焼こうとするたびに遠慮している。

「ええ、入院していて何か必要になったら私たちで何とかするから、あなたはここで休んでいて」

「そんな、ただでさえ迷惑をかけているのに」


「ソフィアさんとはあなたやコリスが生まれる前からの友達。これくらいは迷惑でも何でもない。コリスが熱を出したときは、ソフィアさんに面倒を見てもらったからね。いい恩返しだわ」

 ――母さん、余計なことを言うなよ。

 オレの目の前で小さいときのことを持ち出されたら、恥ずかしくなる。


「でも、どうしてもお母さんに確かめたいことがあるんです」

「それは何なの? 私が病院に行って聞いてあげるから」


 ハンナに聞かれて、「それは……」とユイは口ごもった。態度がちょっとおかしい。


「怪我は痛くないかとか、病院の人たちにはちゃんとよくしてもらっているかとか……」

 ふふ、とハンナは笑った。

「それこそ、私が確かめられることよ。いいわ。ユイちゃんはここで休んでいて」

「……はい」

「じゃあ、私は行ってくるわ。そのついでに、必要なものも買いそろえようかしら」

 ハンナは、そのまま部屋を出ていく。


「いい、この家から出ないこと」

 出ていく間際に、ユイにそう言い残して。

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