第二章
ep.14-1 久々の開店にむけて
「いつもありがとうございます。今日も良い一日でありますように」
「えがおないちにちになりますように」
白の割烹着を来た男と三つのもふもふの尻尾を付けた妖狐が目を閉じて、両手を合わせている。
太陽が照り付け、少し熱いのか男と妖狐の頬に汗が流れる。
祠は木でできていて、両扉は開かれていた。
祠の木は全て綺麗な木目がついていて、両扉にはきれいな模様が刻まれていた。
雲とその合間から漏れる太陽の光。そして一面のススキ。
その模様は太陽の光を受けてより輝いて見える。
ただし、両扉の奥には何もなくがらんとしていた。
以前はお供えしていた場所にも何もない。
空の祠である。
それでも、男と妖狐は目を閉じて祈る。
自然と男も妖狐も目を開き、いつものように話す。
「さて、久々の店の開店だけど頑張りますか!!」
「うん!がんばろ!!」
そう言い合うと祠のすぐ横に建っている、
屋根に瓦がついているような和風、二階建ての建物の中に入っていた。
◆◆◆
ここは、巨大都市『リアナ』
町の中は数多くの人間や魔族が商いをしている。
この街には数多くの料理屋があるものの、中でも最近可愛い妖狐が入ったことが噂になり、
料理の腕も元々良かったため、人気が一気に急上昇していた店があった。
その名は小料理屋『ゆうなぎ』。
その店にはみんなから大将と呼ばれている板前とすずねと呼ばれるウェイトレスの妖狐が店をしていた。
ただ、最近何か問題があったのか、少し前まで店の前には手書きで紙が貼られていた。
【少しの間お休みします】
料理を楽しみにして来たたくさんの人間や魔族がその紙を見て残念そうに帰っていった。
だが、数日前から店の前に貼られている紙が変わっていた。
【卯月の初日から再開します】
たまたま小料理屋の前を通った常連がその紙を二度見した後に喜びの声をあげ、他の人や魔族に教えて噂が広まった。
「おい、あの急に休んでいた店だけど、そろそろ開店するらしいぜ」
「本当か?前に楽しみにしていて、行こうとしたら閉まってたけど……」
「いや、店の前に新しく紙が貼られていて開店するって書いてたらしい!!」
「うそ!?いつから開店??」
「それがさぁ……」
その噂が信用できない者は直接店の前に現れ、貼られている紙を見て驚き、
さらに色々な人に広めるということが続いた。
大将はそのような状況とはつゆ知らず、刺された部分を完治させる病院に入院しており、
ようやく退院して数日前に店に帰って来た。
そして卯月の初日、つまり開店当日。
朝から祠へのお祈りをすずねと一緒に行って、店に帰り掃除をしていた。
店の中で心配そうな顔をしている大将は一人呟いている。
「久々の開店だ……お客さん来るか少し心配だなぁ」
「たいしょう、むりしたらだめだよ!」
すずねは大将の呟きに反応する。
大将はその言葉に胸を少し抑え、苦笑いをしながら返事をする。
「大丈夫。無理はしないから。俺もこれ以上痛いのは嫌だからね」
「ぜったいだからね」
すずねは大将の言葉に頷き、掃除の続きを始める。
大将は少しほっとした表情になった後、夜の料理の仕込みなのか魚やお肉などの下処理を始めた。
そしてまだ店のやっていない昼過ぎに、ガラガラと店の扉が開いて人が入ってきた。
大将は料理を作りながら、その人に声をかける。
「お客さん。まだ開店時間じゃないので、また後で来てくださいね」
「はぁ、客じゃないと何度言えばわかるのだ」
「……客じゃないのであれば、そのままお帰り頂ければ」
大将は聞いたことのある声に、ため息一つつかずに追い返す言葉を言い放つ。
そこにいたのはライバル店「あさぎり」の店長、オルクだった。
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