第一章 after-2 とある男の電話再び

「まぁ、結果オーライじゃないか」



黒いスーツの男が黒の革張りの豪華な椅子にもたれかかって話している。



ここは大将たちが小料理屋を営んでいる巨大都市『リアナ』の都市の中央近くにある、

明らかに周りの建物より一回りも二回りも大きな建物の一室。



今回も話している相手は人ではなく、耳に近づけている緑色の魔方陣のようだ。

前回と同じく、豪華な装飾に机だけあるような部屋に一人でいる。

ただ、机にはソーサーに乗ったカップがちょこんと置かれていた。



男は再び口を開く。



「あの店の人間は怪我をして一時的に店は休みになったし、今後は全力で店なんてやる気にはなれないだろうからな」

『……!!!!!!!』



緑の魔方陣から叫び声のようなものが聞こえた。

男は想定していたかのような手つきで魔方陣が展開されていた手を素早く机の上に置いた。

机の上の緑の魔方陣から小さく叫ぶような声が漏れ聞こえるが、

明らかに声の音量は小さくなる。

そして逆の手で机にあったカップからコーヒーのような黒い液体を飲む。



「……うまい」



男は魔方陣の声を全く気にせずに呟いた。

そして机の置いた手から声が聞こえなくなったのを確認して再び手を近づける。



「すまないな。次回からはもう少しうまくする」

『……!』

「確かにそうではあるが……今回については、お前に教えて貰ったやつらでこんな結果になったのだから、お前にも少しは責任があると思うが?」

『……』



魔方陣から声が止まる。

男は再びカップから飲み物を飲んで話す。



「まぁ、あんなトロそうな魔族なら仕方ない気もするがね」

『……』

「だろ?俺もそう思った」



男がゲラゲラ笑い始める。

電話口からもゲラゲラと笑い声が聞こえる。

ただ男はスッと顔をしかめて話し始める。



「ただ……あの二人の顔がばれかけている。ちょうど今、俺のところまで似顔絵が上がってきた」

『……!』

「その通りだ。俺も素顔までは知らなかったが、これはまずい。面倒事の芽は取っておきたい」

『……』

「まぁそうだな。俺もそうしようと思っていたところさ。でだ」



男はニコリとして尋ねる。



「都合のよさそうな奴を見繕ってほしい」

『……』

「あぁ、そうだな。魔界に行っても怪しまれず、腕が立つ奴がいい」

『……』



ガタン!!



男は目を見開いて立ち上がり、かなり驚いた様子で話す。



「本当か!?そりゃ、そいつなら俺は嬉しいが……前の一件もあったし本当に可能なのか?」

『……』

「なるほどねぇ。少しあやしまれそうだが……」

『……』

「お前、間違いなく俺より悪だな。まぁいい、貸しということで」

『……』



男はニヤリとし、椅子に座ったものの魔方陣から声に少し顔をしかめる。



「確かに貸しでいいとは言ったが、それを今使うか?」

『……』

「はぁ……わかったよ。そう言ったのは俺だ。で、何だ?」

『……』

「おいおい、それを本気で言ってるのか?」

『……』



しかめていた顔がさらに曇る。

頭をかきむしりながら話す。



「わかった、請け負おう。ただし、前回と違って今回はしっかり時間を貰う。

あと、金もいつもの3倍は出してもらう。それじゃないと割に合わないからな」

『……』

「それは断る。俺はできないことを背負うほどの人間じゃない」

『……』

「それぐらいなら。ただ、期待はするなよ、できる範囲でしかやらないからな」

『……』

「また色々決まったら連絡する」



男は渋い顔をしながら、手を耳元から下ろす。

手からは緑の魔方陣が消えていた。

目の前にあるカップを取り、中身を飲む。



「......うまい」



そう呟くとカップを置いて、座りながら、窓の外を眺めた。

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