第一章 after-1 図書館で

「うーん……」



ペラッ



長机の椅子に座っている高身長の女性が顔をしかめながら、本をめくる。

頭には二本の角が生えていて、全身は黒の服装で固めていた。


女性のいる場所は城の中なのか地面は赤いカーペットが敷き詰められていて、上にはシャンデリアのようなものが飾られていた。


そして周りは本棚で埋め尽くされていて、どこを見ても本しかない。

まるで図書館のようだ。

埋め尽くされている本も古い本が多いのかほとんどがほこりにまみれている上、背表紙もボロボロになっていた。



パタン



「ふぅ~」



女性は本を閉じ、大きくため息をつく。

そして読んでいた本を高く積みあがっている本の上に置いた。

ただ、積みあがっていた本が崩れそうになる。



「あわわ!!!」



慌てて、女性が椅子から立ち上がり、崩れそうになった本を倒れないように手で押さえた。

本は崩れずに落ち着きを取り戻す。



「はぁ……どれだけ読んでも何も見つからない……」



女性は愚痴をこぼす。

高く積みあがっている本のタイトルの一部を女性はチラッと見た。



『雷の魔物100選』

『古来の雷の魔物』

『雷の取り扱い方法』

『雷魔法と仲良くなるとためのエッセンス』

『魔法実践~雷を操る方法~』



女性は気合いを入れるかの如く、黙って首を大きく横に振り、積み上げた本の逆側に積みあがっている次を一つ取り開く。



『ダイエット方法~雷魔法による荒療治~』



「……はぁ。さすがに違うでしょ」



女性はその本を無造作に後ろに投げた。

そして、机に突っ伏す。



「雷っていうヒントだけで色々探るのはさすがに無理かも……」



そう呟くとうーんと悩み始める。

すると、突っ伏した時の影響か、横に積みあがっていた本がぐらぐらと揺れ始めた。



「ヤバイ!!!」



女性は再び本の山を抑えようとする。



ドサッ!

ドサッ!!

ドサッ!!!



今回は間に合わなかったのか、本の雪崩が発生する。

女性は起きてしまった本の雪崩を見るしかない。



「はぁ……またこれを片づけるところからか」



そう言うと、雪崩の起こした本を一つずつ積み上げていく。

そして一冊の本で手が止まる。



「……ん?」



これまでで最も古い書物なのか、背表紙の文字は完全に消えており、

本もいたるところがボロボロになっていた。

女性はふぅと息を吹きかけて、表面についていた埃を飛ばした。



「どれどれ」



目の前にある雪崩を起こした本という現実から目を背けたいのか、手に取った本を開く。

その本には文字が書いておらず、抽象的な絵が描かれていた。



「これは、人……これは、魔族……なのか?」



絵には人間のような姿のものと頭から角が生えた魔族のようなものの絵が描かれており、共に集落を形成しつつも仲良く暮らしているように見えた。



「……本のボロボロさ加減から考えても……いつの時代の絵だ?」



そう呟くと、次々とページをめくっていく。



~~~


人間が獲物をしとめている絵


その獲物を魔族と仲良く食べている絵


魔族が椅子とテーブルのようなものを作っている絵


作ったものを人間にプレゼントしている絵


~~~



本の絵は何かの物語を表しているかのように見える。



「今のこの世界と同じような感じだな」



女性はにこりと笑う。

そして続きのページをめくっていく。



~~~


太陽が輝き、植物がしおれている絵


人間が魔族に何かの頼み事をしている絵


魔族が魔法で天候を変えている絵


人間が喜んでいる絵



~~~



「良い話じゃない。さすがに魔法で天候はかえるのはかなり厳しいケド」


女性のにこにこは止まらない。

そして悩むことなく次のページを開く。



~~~



雨が止まず、川が氾濫する絵。


人間が魔族に怒りに行っている絵。


魔族が止めようと必死になるものの、雨がやまない絵



~~~



内容を見て女性の顔が曇る。

そして呟く。



「そりゃ人間も怒るか。雨がやまなかったらね」



そして次のページに手が伸びる。



「アクア!いるかしら!!」

「!?」



側近のアクアは読んでいた本をパタンと閉じる。

そしてその本を崩れた本の上に放り投げた。

声の主はカツカツと歩いてくる。



「アクア、ここにいたの……って何してるの」

「すみません魔王様。ご命令通り雷の本を色々見ていたのですが……

 ご覧のように本が崩れてしまって」

「アクアがそんなドジするなんて珍しいわね」



魔王は笑う。

アクアは恥ずかしい所を見られたと思ったのか、顔を赤らめた。

魔王は何かを思い出したのか、アクアに話しかける。



「今日も勇者と実況見分に行ってくるわ」

「いってらっしゃいませ」

「あと……」



魔王は顔を少ししかめながら話す。



「……ルトの言っていた二人、一緒に探してもらえないかしら」

「承知いたしました」



アクアは頭を下げる。

魔王はニコッとしてその場を離れる。

アクアも崩れた本を放置して、魔王と共にその場を離れた。

アクアが読んでいた古い本は、パラパラとめくられて適当なページで開かれている。








そのページには9尾の妖狐が人間・魔族と争っている絵が描かれていた。

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